エピソード30 これから会えない?
歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。
そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと
そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。
結局、
メロは潰れた。
「今日は潰れないって言ったじゃん」
笑いながら言ったけど、
肩は俺にもたれたまま。
目はとろんとしている。
バーの店員が慣れた手つきで
水を出す。
「いつも通りですね」
と苦笑い。
俺の始発までは、
到底もたなかった。
「だいじょうぶ……」
と言いながら、
全然大丈夫じゃない。
こういう時、
どうするのが正解だ。
放って帰るか。
タクシーに乗せるか。
一緒にどこかで休ませるか。
“安い担当にはなりたくない”
さっきの言葉が、
少し引っかかる。
俺は、
売上を作りたい。
でも、
それだけじゃない。
メロは酔いながら言った。
「奏楽、やさしいよね」
その言葉が、
一番危ない。
優しさは、
ホストの武器だ。
でも同時に、
地雷だ。
俺はメロを
タクシーに乗せた。
「ちゃんと帰れよ」
「んー……奏楽も一緒に……」
聞こえないふりをした。
ドアが閉まる。
テールランプが
遠ざかる。
始発の時間が近い。
今日は、
何も起きなかった。
でも、
何かが、
少しだけ
進んだ気がした。
メロは、
俺に寄っている。
俺は、
まだ線を引いている。
この距離が、
いつまで保てるか。
夜風が、
少し冷たかった。
――次の日。
メロからLINE。
「奏楽のいじわる」
……意地悪は、していない。
「ごめんな。
無事帰れてよかった」
既読。
すぐ返信。
「無事だけど無事じゃない!!」
絵文字多め。
怒っているというより、
甘えている。
昨日、
泊まらなかったこと。
一線を引いたこと。
あれは、
正解だと思う。
メロは少し拗ねながらも、
会話は続く。
それでいい。
依存は、
加速させない。
優しく、
でも甘やかさない。
ホストとして、
初めて“引く”選択をした気がする。
昼過ぎ。
りんから連絡。
「今日言ってくる」
「なるべく穏便に済ませたい」
ついに。
配信者との決着。
ここまで来た。
「気をつけてね」
「連絡待ってるよ」
それ以上は、
言えなかった。
名古屋は遠い。
今の俺にできるのは、
待つことだけ。
スマホを置く。
夜。
スマホが震えた。
りんから。
「あっさり片ついた」
「荷物も全部引き上げて
お金も回収した」
思ったより、
早い。
「無理だったらいいんだけど、
これから会えない?」
心臓が一瞬止まる。
「どこで会うの?」
既読がつく。
「新宿」
「もう向かってるけど」
……はやい。
名古屋から。
それだけ、
あそこに居たくなかったんだな。
俺は少しだけ、
息を吸う。
これは、
“チャンス”か。
“責任”か。
たぶん、両方だ。
「わかった」
「向かうね」
送信。
画面が暗くなる。
りんは今、
新幹線の中か。
それとも、
もう東京に着いているのか。
名古屋を出た。
配信者を切った。
後ろ盾を失った。
その状態で、
真っ先に俺に連絡してきた。
重い。
でも――
逃げない。
そう決めたはずだ。
急いで着替える。
夜の新宿へ向かう。
今日は、
何かが決まる夜になる。
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