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歌舞伎町が僕を食べる。  作者: 夜坂ネオン


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エピソード2 ようこそ歌舞伎町へ

歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。


そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと


そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。


「今日は体験で、

俺のお客さんの席、ヘルプでついてみます?」


麗はそう言って、

何でもないことのように笑った。


断る理由はなかった。

むしろ、

断れる立場じゃなかった。


案内された席には、

麗の“姫”が座っていた。


第一印象は、

綺麗、というより、

安心している顔だった。


麗が隣に座ると、

その空気は完成する。


会話は、

俺には半分も理解できないテンポで進んでいく。

それでも麗は、

俺にも自然に話を振り、

冗談を交えながら、

さりげなく場を掌握していた。


他愛のないやりとり。

なのに、

退屈さはどこにもない。


その合間に、

麗は自然に、

本当に自然に、

姫の手を取った。


握る、というより、

触れているだけ。


だが、その距離感に、

言葉よりも多くの意味が詰まっているのがわかった。


――これが、ホストと姫。


もっと露骨なものだと思っていた。

けれど実際は、

触れなくても、

触れているように見せる技術だった。


俺は、

完全に客席の端で、

その関係性を眺めていた。


「ね」


麗が、

ふと声のトーンを落とす。


「今日、

奏楽が来てくれたからさ」


奏楽。

源氏名で呼ばれる自分の名前が、

まだ少しだけ、くすぐったい。


「もし入店してくれるなら、

記念に一本、

シャンパン入れない?」


姫は、

一瞬だけ迷って、

それから笑った。


「……じゃあ、記念だね」


その一言で、

空気が変わった。


ボーイが動き、

フロアがざわつき始める。


そして――

初めて聞く、

シャンパンコール。


名前が呼ばれ、

声が重なり、

リズムが生まれる。


意味は、

正直よくわからなかった。


それでも、

胸の奥が、

少しだけ熱くなった。


これが、

金の音。


最後に、

麗がマイクを持った。


「今日は、

俺が昔お世話になった先輩が

体験入店に来てくれました。

入店していただけるなら、

このシャンパンを開栓します」


絶対に断れないパス。

踏ん切りのつかない俺への、

後輩なりの後押しにも思えた。


「今日から、

よろしくお願いします」


気づけば、

向けられたマイクに、

そう宣言していた。


開けられたボトルは、

麗と姫、

そして俺に注がれ、

三人で乾杯する。


さらに麗は立ち上がり、

ボトルを掲げた。


「今日はお祝いです。

ホストとして、魅せます」


そう言うと、

ボトルに直接口をつけ、

一気に傾け、

残りすべてを飲み干した。


現実感が、

遠のいていく。


営業が終わる頃には、

頭は少し、

ぼんやりしていた。


「お疲れっす。

飯、行きましょ」


麗はそう言って、

俺と内勤をひとり連れ、

店の外へ出た。


連れて行かれたのは、

キジ鍋の店だった。


初めて聞く料理。

値段を見て、

思わず息を呑む。


「キジは、日本でも

数か所でしか食べられないんです。

ようこそ、歌舞伎町へ」


鍋から立ち上る湯気。

濃い出汁の香り。


美味い。

確かに、

今まで食べたことのない味だった。


貴重で、

高級で、

どこか現実味がない。


――ああ、

ここは歌舞伎町なんだ。


ネオンだけじゃない。

こういうところにも、

金と夜が、

確かに流れている。


その夜、

麗の家に泊めてもらうことになった。


高級マンションの高層階。

後輩三人を住まわせているという部屋は、

静かで、広かった。


麗は寝支度を済ませると、

すぐに眠ってしまった。


俺は、

初めてだらけの一日に興奮して、

なかなか寝つけなかった。


目の前のテーブルには、

ギラギラした高級そうな時計が三本。

その横に、

無造作に積まれた、

三百万ほどの現金。


金に困って、

この街に来た俺に対して。

この警戒心のなさが、

なぜか、嬉しかった。


この世界を、

知ってしまった。


知らなければ、

戻れたかもしれない。


そう思った時点で、

もう、

戻れないのだと、

なんとなく、わかっていた。

よんでいただきありがとうございます。

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ブックマークしていただけるよう謹んでまいります。

今後とも長いおつきあいをよろしくお願いします。

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