エピソード22 手いっぱい
歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。
そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと
そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。
バーの会計も、
りんが出してくれた。
ホテル代も、
りんだった。
――これは、
完全に
貢ぎ癖、
というやつなのか。
朝、
ベッドで、
俺の腕の中に
丸くなるりんを見ながら、
そう思った。
もし、
りんを
配信者から
離すことができたら。
初めて、
ちゃんと
売上が立つ。
そんな気がした。
でも――
それで、
いいのか。
りんは、
それで
幸せなのか。
もし、
俺のところに
通い始めたら。
今度は、
俺が
悪になる。
誰かに
愚痴って、
引き剥がされて。
また、
別の誰かに行く。
それを、
繰り返す。
一人で考えても、
答えの出ないことばかり
考えてしまう。
そろそろ、
りんを
起こさなければいけない。
そういえば、
寝る前。
りんは、
何か
薬を飲んでいた。
サプリか、
何かだろう。
その時は、
そう思って、
気にしなかった。
でも、
今になって、
気になった。
ゴミ箱から、
薬の包みを
拾い上げる。
三種類。
名前を、
検索する。
――精神安定剤、二つ。
睡眠薬、一つ。
胸の奥が、
少しだけ、
冷えた。
これに、
触れるのは
野暮だと思った。
知らないふりをするのが、
正解な気がした。
ゴミを、
元に戻す。
配信者から
離れられたら。
きっと、
薬も
いらなくなる。
そう、
信じたい。
りんを起こす。
りんは、
少し照れくさそうに、
笑った。
「昨日は、
駄々こねて
ごめんね」
今日は、
ごねなかった。
駅まで、
送ってくれた。
別れ際、
何も言わなかった。
帰りの新幹線は、
行きより、
少し遅く感じた。
時間じゃない。
重さが、
増えただけだ。
家に帰って、
着替えて、
すぐ出勤。
今日も、
予定はない。
急に、
現実が
戻ってきた。
フロアの音も、
照明も、
どこか
遠い。
仕事に、
身が入らない。
頭の中は、
ずっと同じことを
考えている。
――りんを、
どうやって
配信者から
離すか。
そればかり。
そんなとき、
先輩に
ヘルプに
呼ばれた。
正直、
心ここにあらず。
案の定、
先輩の機嫌が、
目に見えて
悪くなっていく。
――まずい。
切り替えなきゃ。
仕事だ。
ヘルプが終わると、
やっぱり、
呼ばれた。
「なに?
やる気ないの?」
「……すみません。
気をつけます」
謝るしか
できなかった。
今は、
りんのことで
精一杯。
それが、
良くないのも、
分かっている。
売れている人たちは、
何十人も
客を抱えている。
なのに、
俺は、
たった一人で
手一杯だ。
――情けない。
でも、
この街で
人を相手にする
仕事は、
情けなさを
抱えたままでも、
続いていく。
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