エピソード18 VIP
歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。
そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと
そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。
バックヤードに戻ると、
麗がすぐに声をかけてきた。
「奏楽さん、聞きました」
少し、申し訳なさそうな顔。
「同伴先、
聞かれた時に
言えばよかったです。
すいません」
「いや」
俺は首を振った。
「俺が、ばかだった」
信じすぎた。
それだけだ。
「……そうですね」
麗は、少し考えてから言った。
「信じるのも大事ですけど、
まず疑ったほうがいいですね」
歌舞伎町は、
疑う街。
――哀しいことだ。
でも、
ここではそれが
優しさでもある。
「切り替えて、
ヘルプと初回、頑張ります」
そう言って、
フロアに戻った。
いろんな先輩の席を回る。
今日の不幸話は、
どの席でもウケた。
「あるあるだよ」
先輩たちは笑って、
頷く。
やっぱり、
あるあるなんだ。
改めて、
洗礼を受けた気がした。
そうしてヘルプを回っていると、
内勤さんが声をかけてきた。
「奏楽さん、
VIPルームの
幸人〈ゆきと〉さんの姫から、
場内指名きてます」
……え?
「幸人さんの?」
思わず聞き返す。
幸人さんは、
超売れっ子。
一年前まで独立して、
名古屋に店を出していた。
最近、
歌舞伎町に戻ってきて、
新店舗準備のため
一時的に
うちに出勤している
大先輩だ。
軽く話したことはある。
でも、
場内をもらうような関係でもない。
ましてや、
VIPの姫と
面識もない。
「……ついたこと、
ないですよ?」
確認する。
「はい」
内勤さんは頷いた。
「このお客様、
今まで
誰もヘルプつけないで
って方だったんです」
「でも、
さっきお手洗い行かれた時に
奏楽くんを見かけて」
「“あの子を場内で
連れてきて”って」
……なんなんだ。
今まで誰もつけなかったのに、
急に、俺?
怖すぎる。
怒られるやつじゃないのか。
ロクタンを手に取る。
手が、
少し震えている。
VIPルームへ向かう。
フロアとは別の、
扉で仕切られた空間。
使うだけで、
かなりの金額がかかる部屋。
もちろん、
入るのは初めてだ。
深呼吸して、
扉を開ける。
「し、
失礼します!」
声が、
少し裏返る。
「場内いただき、
ありがとうございます。
奏楽です。
よろしくお願いします」
できるだけ、
丁寧に。
すると、
「そんな、
かしこまらないでください」
柔らかな声。
「ちょっと、
お話してみたくて。
お呼びして、
すいません」
一気に、
緊張がほどけた。
幸人さんも笑う。
「緊張しなくていいよ」
「美和が
ヘルプ欲しがるなんて、
俺も驚いたけど」
「奏楽って聞いて、
ちょっと納得したよ」
「……ありがとうございます」
思い切って聞いた。
「でも、
なんでなんですか?」
酒を作りながら。
美和さんが言った。
「奏楽くん、
バンドやってたんじゃないかなって」
「フロアで見かけた時、
思ったんです」
「え、
あ……はい」
「やってました」
少し間を置いて、
美和さんが続ける。
「私、
〇〇ってバンドの
ベースの〇〇の妻なんです」
「結婚、
公表してないので……
他では言わないでくださいね」
……え?
出てきたバンド名は、
国民的。
武道館で、
何度もライブをしている。
一瞬、
言葉を失った。
「……もちろん、
知ってます」
「〇〇って曲、
好きです」
「あら、
ありがとう」
美和さんは笑った。
「旦那に、
伝えとくわ」
……伝えとく?
頭が、
追いつかない。
旦那公認で、
ホストクラブ?
思わず、
幸人さんを見る。
「そうなんだよ」
幸人さんが、
さらっと言う。
「美和と俺と、
旦那さん」
「三人で、
仲いいんだ」
そんなこと、
あるのか。
歌舞伎町は、
やっぱり
想像を超えてくる。
「……そうなんですね」
「素敵な関係ですね」
そのあとも、
たくさん
バンドの話をした。
機材の話。
ツアーの話。
ライブ前の空気。
久しぶりに、
音楽の話をできて、
素直に、嬉しかった。
席を離れたあと、
ふと、
思い出す。
――みく。
あれ以来、
連絡はない。
でも。
ラインの一つくらい、
送ってみようかな。
そんなことを考えながら、
俺は
ロクタンを置いた。
この街は、
残酷で、
優しくて、
予想がつかない。
だから、
まだ、
期待してしまう。
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