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歌舞伎町が僕を食べる。  作者: 夜坂ネオン


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エピソード17 馬鹿

歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。


そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと


そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。


 店に向かう途中、

彼女は足取り軽く言った。


「今日、何飲もっかなー」


小さくスキップしている。

いちいち、かわいい。


「そんな楽しみにしてると、

期待しちゃうなー」


からかうように、言ってみる。


「シャンパンでも

入れてくれるんかなー?」


「えー」


少し間を置いて、


「結構持ってきてるし、

奏楽くん次第ではアリ♪」


……まじか。


展開、

熱すぎる。


この流れで、

何も起きないわけがない。


そう思っていた。


店に着く。


「いらっしゃいませー」


内勤さんが、

少しだけにやけている。


俺の、

初めての同伴。


「ご来店ありがとうございます。

初めてのご来店ですので、

身分証の確認だけ

させていただきますね」


「はーい。

マイナンバーでいいですか?」


「大丈夫ですよ」


彼女は、

バッグを開く。


財布を出す。


……出す。


「あれ……」


少し、

間が空く。


「ちょっと、

待ってくださいね」


あるはずの場所を、

もう一度探す。


不穏な空気が、

ゆっくり広がる。


彼女が、

小さな声で言った。


「……奏楽くん。

どうしよう……

身分証が……」


まじか。


ここまで来て、

そんなこと、あるのか。


「え、

いつも財布に

入れてるんだよね?」


「入れてる……

けど、

財布もう一個あって……」


「そっちの可能性も……」


言葉が、

尻すぼみになる。


こればっかりは、

どうしようもない。


身分証がない人を、

店に入れることはできない。


「……そうか」


喉が、

少し詰まる。


「せっかく

ここまで来てくれたのに……」


「ごめん。

また後日、

身分証持って来ようね」


「えぇ……

最悪」


俯いたまま、

言う。


「二時間も

かかってきたのに……」


「ごめんね」


そう言うしかなかった。


「下まで、送るね」


「……うん」


残念なのは、

俺も同じだった。


店の外まで、

一緒に歩く。


「また……

日程決めて、リベンジしよ」


彼女は、

黙って頷いた。


そのまま、

夜の人混みに

消えていく。


俺は、

その背中を

見送ることしか

できなかった。


店内に戻ると、

内勤さんが

声をかけてきた。


「奏楽さん、

ちょっといいですか」


少し、

真面目な顔。


「こういうこと、

結構あるんですよ」


「三種類あります」


……三種類?


「一つ目。

本当に忘れた人」


頷く。


「二つ目。

未成年で、出せない人」


……え?


「三つ目。

最初から出す気がない人」


言葉の意味が、

すぐに理解できなかった。


目を丸くしている俺に、

内勤さんは続ける。


「歌舞伎町には、

未成年でも

入れる店があるんです」


「でも、

うちは絶対に入れません」


それから、

少し声を落とす。


「あと、

ホスト始めたてを狙って」


「同伴して、

ご飯だけ奢らせて」


「身分証ないって言って

帰る」


「……詐欺みたいな子も、

います」


頭が、

追いつかない。


「もちろん、あの子が

どれかは分かりません」


「でも、

気をつけてください」


俺は、

何も疑っていなかった。


当たり前に、

成人している。


当たり前に、

身分証を持ち歩いている。


でも、

歌舞伎町では。


その「当たり前」が、

通じない夜がある。


それでも、

俺はまだ、


あの子が

同伴詐欺だとは

思えなかった。


本当に、

忘れただけだと

思いたかった。


……甘い。


自分でも、

分かっている。


それでも、

信じたかった。


バックヤードに行き、

仕事の準備をする。


深呼吸して、

スマホを開く。


改めて、

DMを送ろうとした。


でも。


SNSに表示されていたはずの

彼女のアカウントは、

消えていた。


ブロック。

もしくは、

削除。


どちらかだ。


画面を、

しばらく見つめたまま、

動けなかった。


……俺は、

ばかだ。

よんでいただきありがとうございます。

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ブックマークしていただけるよう謹んでまいります。

今後とも長いおつきあいをよろしくお願いします。

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