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歌舞伎町が僕を食べる。  作者: 夜坂ネオン


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エピソード13 暗黙のルール

歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。


そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと


そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。


 二人が帰ったあと、

フロアの熱が少しだけ落ち着いた。


麗が、

カウンターに寄りかかりながら言う。


「よかったっすね。

あれ、

ちゃんとアイバンっすよ」


照れくさくて、

何も言えなかった。


麗は、

そんな俺を見て、

少し笑った。


「せっかくだから、

今のうちに色々教えときますね」


歩きながら、

続ける。


「まず、

客にも種類があるんすよ」


種類。


「一番分かりやすいのが、

飲み卓」


とにかく、

楽しく飲むのが好きな卓。


「こういう卓は、

シャンパンあんま入れないっす」


代わりに、

テキーラ。


缶の酒。

通称、

缶もの。


「単価は低いけど、

数で上げる。

飲み上げっすね」


なるほど、

と頷く。


「次が、

ガチ恋卓」


声のトーンが、

少し変わる。


「担当のこと、

本気で好きな人」


こういう卓は、

シャンパンが入りやすい。


「タイミング次第で、

一撃、高額いけます」


軽く言うけど、

重い話だ。


それから、

さっきの席に話が戻る。


「で、

アイバンには

暗黙のルールがあるんすよ」


暗黙。


「まず、

枝を連れてきた姫が“幹”」


幹。


「四人組の主導権は、

基本、幹側の担当」


つまり、

今日は麗。


「そこ、

崩すと揉めます」


淡々と、

言う。


「あと、

姫経由で知った情報は、

共有」


共有。


「これやってると、

トラブル、かなり減ります」


自分の情報にしない。

囲わない。


「アイバンは、

一人で取るもんじゃないっす」


そう言って、

グラスをとる。


「うまく回せたら、

全員、得します」


今日の席が、

頭に浮かぶ。


自然に、

笑って、

自然に決まった。


あれは、

偶然じゃない。


仕組みだった。


「今日のは、

いい入り口っすよ」


麗は、

そう言って

肩を叩いて次の席へと向かう。


「次は、

その先っすね」


飲み卓。

ガチ恋卓。

幹。

枝。

共有。


言葉が、

少しずつ

世界を形にしていく。


俺は、

ようやく

この街の

地図を

一枚、

手に入れた気がした。


まだ、

読めない場所ばかりだけど。


‐‐‐‐‐----


 営業終わり、

いつものように始発を待ちながら、

通りで声をかけていた。


人の流れが、

少しずつ薄くなっていく時間。


そのとき、

スマホが震えた。


りんからの着信。


しかも、

ビデオ通話だった。


少し迷って、

出る。


「なにしてるのー」


画面越しに、

りんの声。


「仕事、落ち着いて暇だから、

かけてみた」


「そうなんだ。

俺は営業終わって、

今、始発待ち」


「えー、

毎回それ大変だね。

おつかれさま」


そう言う彼女は、

ベッドに横になっていた。


薄暗い部屋。

布越しにわかる、

肌の色。


「……りん、それ」


言葉を選ぶ。


「下着?」


「んー、

ベビードールって言うの」


淡々と答える。


「お店の決まりでさ。

部屋ではこれ着て待ってる」


画面が、

少し揺れる。


「それで、

お店からコールが来たら、

入口まで迎えに行って、

この部屋まで連れてきて、

接客するの」


説明の仕方が、

あまりにも事務的で、

逆に言葉を失った。


彼女の表情は、

暗く、

濁っている。


背景に映る、

シャワールーム。


積まれた、

バスタオル。


俺は、

初めて、

“風俗の部屋”を見た。


「……ここに、

毎日?」


「うん。

十二時間」


りんは、

続ける。


「この部屋、窓もないの」


カメラを、

少しだけ動かす。


「昼か夜かも、

わかんないし、関係ない」


淡々と。


「コールが鳴ったら、

仕事するだけ」


その言い方が、

あまりにも静かで、

リアクションに困った。


「そんな、

困った顔しないでよ」


りんが、

画面越しに言う。


「奏楽くんの店に来る人、

大半、

こうやって稼いでるんでしょ」


突きつけられる、

現実。


「……そうだね」


苦笑いしながら、

答える。


「仕事に、

偏見とか、俺はないよ」


その瞬間。


「ちげえよ!」


りんの声が、

少しだけ荒くなった。


「風俗で働いて稼いだ金を、

受け取る覚悟が

あんのかって言ってんだよ」


言葉が、

胸に刺さる。


「あとさ」


少し間を置いて、

続ける。


「何も聞いてないのに

“偏見ないよ”って言う奴ほど、

偏見持ってんだよ」


確信を突く言葉だった。


覚悟は、

まだ、

足りていなかった。


偏見というより、

見て見ぬふりを

していただけだ。


「……ありがとう」


俺は、

正直に言った。


「ちゃんと言ってくれて。

俺、

向き合うホストになるよ」


「りんのおかげだ」


少し、

沈黙。


それから、

りんが言った。


「このクソ配信者から

抜けれたらさ……」


声が、

少し弱くなる。


「奏楽のとこ、

行ってもいいかなって

思ったんだよ」


胸が、

少しだけ跳ねた。


「クソ配信者に貢いでる

馬鹿な私を、放っとかないで」


「毎日連絡くれてさ」


「お金目当てだとしても、

クソ配信者に行くよりは

いいかなって」


言葉が、

簡単に返せなかった。


でも、

確かに感じた。


これは、

ただの愚痴じゃない。


もしかしたら。


ほんの少しだけ、

流れが変わる兆し。


そんな夜だった。

よんでいただきありがとうございます。

感想、評価、レビュー思ったままにお願いします

ブックマークしていただけるよう謹んでまいります。

今後とも長いおつきあいをよろしくお願いします。

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