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歌舞伎町が僕を食べる。  作者: 夜坂ネオン


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エピソード12 アイバン

歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。


そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと


そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。


 次の出勤日。


掃除を終えて、

フロアに出る前、

麗が声をかけてきた。


「今日、俺の姫が

枝、連れてくるんで」


一瞬、

意味が分からなかった。


「……え?」


麗は、

当然みたいな顔をして続ける。


「アイバン、

狙ってください」


言葉は、

日本語のはずなのに、

頭に入ってこない。


枝。

アイバン。


何の話だ。


俺の表情を見て、

麗は少しだけ笑った。


「要するにっすね」


そう前置きしてから、

噛み砕く。


「俺のお客さんが、

友達連れてくるんすよ」


なるほど。


「で、その友達が

誰を指名するか」


指で、

軽く俺を指す。


「そこ、

奏楽さんが取る感じっす」


ようやく、

意味がつながる。


四人。


麗。

麗の姫。

その友達。

俺。


四人で一組。


それが、

アイバン。


「俺からも、

姫からも、プッシュします」


あっさり言う。


「行けると思いますよ。

アイバン、楽しいっす」


楽しい。


その言葉に、

少しだけ違和感を覚えた。


俺は、

まだ一度も

“楽しい”と思える接客を

していない。


それでも、

この話は、

今までとは違う。


初回じゃない。

完全な飛び込みでもない。


用意されたチャンス。


もちろん、

俺の実力で

作った流れじゃない。


麗の力だ。

姫の力だ。


でも、

流れに乗れるかどうかは、

俺次第。


「……わかりました」


そう答えながら、

胸の奥が

少しだけざわついた。


枝を取れるか。

取れないか。


指名が、

動くか。

動かないか。


ここで何も残せなければ、

また、

何もなかった一日になる。


業界用語の意味が

分かった瞬間、

この席が

どれだけ重要かも

分かってしまった。


――これは、

チャンスだ。


逃したくないと、

初めて、

はっきり思った。


 ほどなくして、

麗の姫と、

その“枝”がやってきた。


枝を連れてきた姫は、

以前、

麗に呼ばれて

一度だけ席につかせてもらった姫。


麻衣だった。


まだ枝の顔は

はっきり見えない。


でも、

麻衣と雰囲気が

どこか似ている。


静かで、

落ち着いた空気。


席に案内され、

まずは麗と、

一人目のホスト。


その次が、

俺。


心の中で、

深く息を吸う。


「初めまして。

奏楽っていいます」


いつもより、

少しだけ声を明るくする。


「ホスト始めるまで、

音楽やってたんで」


そう言いながら、

枝の顔を見る。


大人しそうで、

綺麗な顔立ち。


一瞬で、

分かる。


――失敗できない。


緊張感が、

背中を走った。


「ありがとうございます。

茉奈です」


柔らかい声だった。


「私も、

音楽、結構好きです」


――悪くない。


掴みは、

いい感じだった。


残り、

九分ほど。


この時間で、

何かを残さなきゃいけない。


「二人は、

何友達なんですか?」


そう聞くと、

麻衣が答える。


「高校の同級生です。

卒業してからも、

年に数回、

飲みに行くんです」


――もらった。


反射的に、

俺は麗を指した。


「俺と麗も、

高校の時の

先輩後輩なんだよね。

麗!」


パスを出す。


「はい。

奏楽さんには

高校の時から

お世話になってて」


少しだけ、

大げさに続ける。


「頭、

上がんないっすよ。

学校の人気者でしたし」


実際は、

そこまででもない。


でも、

これは麗からの

後押しだった。


茉奈が、

少し驚いた顔で笑う。


「そうなんですね。

同じ職場で働くなんて、

よっぽど仲がいいんですね」


――手応えがある。


あと、

一押し。


「高校からの付き合い同士ってことで、

これでアイバンできたら、

めっちゃ良くない?」


軽く、

提案する。


茉奈は、

麻衣のほうを見る。


麻衣が、

小さく、

こくりと頷いた。


「……じゃあ、

アイバンで

お願いします」


その言葉を聞いた瞬間、

胸の奥が、

少しだけ熱くなった。


麗と、

一瞬だけ目が合う。


照れくさい。


でも、

確かだった。


初めて、

自分の力で

席を動かした。


小さな成功。


間違いなく、前に進んだ。

よんでいただきありがとうございます。

感想、評価、レビュー思ったままにお願いします

ブックマークしていただけるよう謹んでまいります。

今後とも長いおつきあいをよろしくお願いします。

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