エピソード0
歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。
そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと
そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。
二十五歳のとき、人生のレールが180°向きを変え、
気づいたときには、もうその列車の切符が切られていた。
父親は自営業だった。
景気や流れひとつで、すべてがひっくり返る仕事。
その年、父の収入は高校生のバイト代ほどにまで落ち込んだ。
家の中の空気は非常に重く、いつも明るかった母が眉間にしわを寄せ、色々な請求書を睨みつけていた。
俺はその頃、全国を回るバンドをやっていた。
高校生の時にバンドと出会い、勉強より夢中になって、時間を捧げた。
将来はプロになる、というベタの思想。大学だけは出て、というベタな両親。
既存の学力でいける大学に行き、ほぼ単位もとれずにバンドを理由一年で退学。これもベタな親不孝だ。
そんな親不孝のツケが回ってきたのか、家計崩壊に強く後ろめたさを感じた。
だから、俺が稼がないと。
バンドは個人競技ではない、メンバーに迷惑をかける。
辞める、ではなく、一時脱退。
落ち着いたら戻るつもりだった。
その言葉を信じていたのは、
周りよりも、たぶん俺自身だった。
一時脱退前最後の遠征、3泊4日で東京、名古屋、大阪でのライブ。
各地でお世話になったスタッフの方々に一時脱退の旨を伝え回った、一身上の都合で、と。
本当の理由はメンバーにしか言えなかった。
そんな遠征中もずっと、頭の中では家のことを考えていた、もし帰ったら家がなくなっていたらどうしよ
う、両親がいなかったらどうしよう、など最悪なことばかり考えてしまう。
いざライブを終え、家に帰ると、家の外観は変わりなく存在していて、一つ最悪の事態を回避。
玄関をあけると重い空気は変わりないが両親が無事で居てくれた、最悪の事態はすべて回避できていたよ
うだったが、あたりを見渡すとありとあらゆる物が家からなくなっていた。
生活最低限の家具家電のみで、他の物は売りに出したという。
危なかった。家がなくなる妄想もあながち遠い話ではなかったと。大学生の一人暮らしのようになったリ
ビングを見回して思った。
バンドにも区切りがつき、残ったのは、
これからどうやって金を稼ぐかという現実だけだった。
正直、急いで就職をしてもたかが知れている。
宝くじでも当たらない限り、何も変わらない。
あてもなく、金がなさすぎて、
助けを求める相手は限られていた。
俺は、夜の世界で成功している、
高校の時にかわいがっていた一個下の後輩に連絡をした。
ネオンの下で、現実的に金を生み出している男。
耳にしていた彼の月収は1,000万近かった。
「金、貸してくれないか」
送信した瞬間、もう後戻りできない気がした。
かわいがっていた後輩に久しぶりに送るメッセージとしては考えうる一番最悪なものだ。
返ってきたのは、
現実そのものみたいな言葉だった。
「貸すことはできません。でも、お金を生み出すお手伝いはできます。
一緒にホストクラブで働きませんか?」
こうして俺は、家族の借金と、
自分の人生の残骸を抱えたまま、
夜の世界に足を踏み入れた。
――戻るつもりで離れた音楽は、
この時点で、もう
遠くに霞み始めていた。
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