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第二章 帳(とばり)

Google AI Studioで専用のアプリを作り、プロットを読み込ませて作った和風ホラー小説です。

2-1【勧誘】


 翌朝、根守の空は低く垂れ込めた鉛色の雲に覆われていた。

 雨は止んでいたが、それは一時的な休戦に過ぎないようだった。谷底の盆地であるこの村には、昨日の雨の湿気が逃げ場を失って滞留している。空気は液体のように重く、呼吸をするたびに肺の中がじっとりと濡れていくような錯覚を覚える。


 私は制服のブラウスに腕を通した。洗濯したばかりのはずなのに、袖口はすでに生乾きの雑巾のような冷たさを帯びている。

 鏡に映る自分の顔色は、曇天の空と同じくらい優れない。目の下には薄い隈が浮かび、唇は乾燥してひび割れていた。

 昨夜は、ほとんど眠れなかった。

 机に向かい、藍色のノート――『根のねのとばり』と何時間も睨み合っていたからだ。

 白い紙面を前にすると、鉛筆を持つ手が震え、言葉が出てこなくなる。何を書けば「正解」なのか。何を書けば「異端」と見なされないのか。検閲官の視線を幻視しながら言葉を紡ぐ作業は、精神を削り取る拷問に等しかった。

 

 重い足取りで一階へ降りると、台所にはすでに両親が座っていた。

 ちゃぶ台の上には、湯気の立っていない味噌汁と、焼き魚、そして艶やかな白米が並んでいる。ごく普通の朝食の風景。しかし、そこには会話も、食器が触れ合う軽やかな音もなかった。

「……おはよう」

 私の挨拶は、湿った空気に吸い込まれるように消えた。

 母は無言で私の茶碗にご飯をよそう。父は新聞を広げていたが、その目は活字を追っていないように見えた。ただ一点、虚空を凝視している。

「莉桜」

 不意に父が口を開いた。新聞を畳む音だけが、やけに大きく響く。

「学校はどうだ。うまくやっているか」

 父の声は低く、どこか怯えを含んでいた。かつて東京で働いていた頃の、覇気のある父の面影はもうない。この村の役場に出向して三年。彼はすっかり、村の空気に磨耗しきっていた。

「……うん。みんな、よくしてくれるよ」

 私は精一杯の愛想笑いを浮かべて答えた。

 嘘だ。でも、本当のことなど言えるはずがない。

 父は私の顔をじっと見た。親としての心配ではない。何かを探るような、切迫した目つきだった。

「そうか。それならいいんだが」

 父は言い淀み、視線を泳がせた後、声を潜めて続けた。

神代かみしろさんとこのお子さんと、御子柴みこしばさんとこのお嬢さん……あの子たちには、くれぐれも粗相のないようにしているんだろうな?」

 箸を持つ手が止まった。

 父が気にしているのは、私の学校生活の充実ではない。私が「村の有力者」の子供たちの機嫌を損ねていないか、それだけだった。

「……大丈夫だよ。仲良くしてもらってる」

「本当か? 些細なことでも、失礼があってはいかんぞ。神代家と御子柴家は、この村そのものなんだ。お前の態度一つで、役場での私の立場も……いや、この家全体がどうなるか分からん」

 父の額に、脂汗が滲んでいた。

 横にいる母も、不安そうに頷いている。

「そうよ、莉桜。私たちはよそ者なんだから。目立たないように、皆様に合わせて生きなきゃいけないの。分かっているわよね?」

 胸の奥が冷たく冷えていくのが分かった。

 家の中にさえ、私の味方はいない。

 両親の精神は、すでに村のヒエラルキーと「根」の教えに浸食され始めている。彼らにとって私は、守るべき娘である以前に、村の和を乱しかねないリスク要因になりつつあるのだ。

「分かってる。気をつけるから」

 私は食べかけのご飯を味噌汁で流し込んだ。味はしなかった。

「行ってきます」

 逃げるように席を立ち、私は家を出た。


 公務員宿舎から学校へ続く道は、朝霧に包まれて視界が悪い。

 学校までの道のりは、緩やかな登り坂だ。村の構造は、最奥の忌み山を「要」とした扇形をしている。私の住む下流域から学校へ向かうということは、村の中枢、すなわち「根」の密集する場所へと近づくことを意味していた。

 道すがら、数人の村人とすれ違った。

 農作業に向かう老人、軽トラックを運転する中年男性。彼らは一様に無表情で、私とすれ違う瞬間にだけ、じろりと粘着質な視線を投げてくる。

 手首を見る目。

 私には生まれつき『根緒』がない。その空白の手首を確認し、彼らはふん、と鼻を鳴らして通り過ぎていく。

 村全体が巨大な胃袋で、私はその食道を通って、消化されるために中心部へと運ばれている。そんな妄想が頭から離れない。


 木造校舎が見えてくると、少しだけ安堵した。

 古びて黒ずんだ建物だが、そこには同世代の生徒たちがいる。大人たちの異様な視線から解放される場所。

 昇降口で上履きに履き替え、長い廊下を歩く。

 廊下の床板が、私の足音に合わせて軋んだ。古い校舎は湿気を吸って膨張し、まるで生きているかのように呼吸をしている。壁の木目一つ一つが、無数の目となって私を見つめているようだった。


 教室の引き戸を開ける。

 ガタピシと建て付けの悪い音が響いたが、教室の中はいつも通りの喧騒に包まれていた。

 まだ牛松先生は来ていないようだ。

 小学生から中学生までが同じ空間で過ごす複式学級。黒板の前で追いかけっこをする低学年の子供たちや、窓際でおしゃべりをする女子生徒たち。

 一見すれば、どこの田舎にもあるのどかな光景だった。

「あ、莉桜ちゃん! おはよう!」

 席に向かおうとした私に、小学四年生の女の子が駆け寄ってきた。おかっぱ頭の、人懐っこい笑顔を浮かべた子だ。

「おはよう、美咲ちゃん」

 私が微笑み返すと、彼女は興奮した様子で、握りしめていた拳を開いて見せた。

 その掌には、泥にまみれた歪な形の石ころが乗っていた。

「見て見て! 登校中に拾ったの。すごく変な形でしょ?」

「本当だね。ちょっと面白い形」

 私が相槌を打つと、美咲ちゃんは目をキラキラと輝かせて言った。

「これね、きっと『虚空様』の指の欠片だと思うの。昨日、山の方でお祈りしたから、お返しにくれたんだよ。やっぱりあたし、ちゃんと繋がってるんだ」

 無邪気な声だった。

 サンタクロースからのプレゼントを自慢するような、純粋な喜び。

 けれど、その内容は異質だった。ただの石ころを、神木の体の一部だと信じ込み、自分と巨木との接続を確認して喜んでいる。

「……そう。よかったね、美咲ちゃん」

 引きつりそうになる頬を必死に抑えて、私は言った。

 彼女の細い手首には、赤茶けた『根緒』がしっかりと巻かれている。それが誇らしげに揺れていた。

「うん! 筆箱に入れてお守りにするの!」

 美咲ちゃんは嬉しそうに自分の席へ戻っていった。

 背筋に冷たいものが走る。

 この村では、子供たちの無邪気ささえも信仰というフィルターを通して歪められている。彼女たちにとって、巨木への崇拝は遊びの延長であり、絶対的な真理なのだ。


 動揺を隠して自分の席に着くと、ふわりと甘い香りが漂ってきた。

 香水ではない。線香と、高価な白粉が混じったような、上品だがどこか古めかしい香り。

「おはようございます、莉桜さん」

 顔を上げると、いつの間にか私の机の横に、御子柴麗華さんが佇んでいた。

 長い黒髪を緩やかに波打たせ、聖母のような慈愛に満ちた微笑みを浮かべている。教室の喧騒の中でも、彼女の周りだけ空気が澄んでいるように見えた。

「……おはよう、麗華さん」

 私は反射的に背筋を伸ばした。

 麗華さんは、クラスの中心であり、地主の娘として絶対的な権力を持っている。彼女の機嫌を損ねることは、村での死を意味すると父にも言われている。

「今日は少し、顔色が優れないようだけれど、大丈夫?」

 彼女は心配そうに眉を下げて見せた。その仕草は完璧な演技であり、同時に周囲へのアピールでもあった。「私はよそ者を気遣う慈悲深いリーダーである」という演出。

「ええ、少し寝不足で……」

「あら、それは心配ね」

 麗華さんは私の机の端に、白魚のような指を滑らせた。そして、核心を突くように甘い声で囁く。

「でも、今日は持ってきてくださったかしら? 昨日は『家に置き忘れた』とおっしゃっていたけれど」

 心臓がドクリと跳ねた。

 『根の帳』のことだ。

 昨日、私の番だった交換日記を、私は「書くのを忘れた」とは言えず、「家に置き忘れた」と嘘をついて提出を免れた。一日だけの猶予。それが限界だった。

「……うん。持ってきたよ」

 私は震える手で鞄を開け、底に沈んでいた藍色のノートを取り出した。

 ずしり、と重い。

 深い藍色の和紙で装丁され、太い麻ひもで綴じられた『根の帳』。

 和紙の香りではない。古い箪笥の奥から漂うような防虫剤の臭いと、微かな鉄錆の臭い。そして何より、あの鬱蒼とした杉林の奥で嗅いだ、甘酸っぱい腐葉土の臭いが染みついていた。

 昨晩、私はこのノートの前で数時間呻吟した。

 嘘で塗り固めた感謝の言葉。村への愛着。巨木への畏敬。

 本心ではない言葉を書き連ねるうちに、自分が自分でなくなっていくような感覚に襲われた。

「まあ、よかった」

 麗華さんは嬉しそうに両手を合わせた。

「心配していたのよ。莉桜さんの心が、村の教えから離れてしまっているんじゃないかって。でも、ちゃんと書いてきてくれたのね」

 彼女は私の手からノートを受け取ると、愛おしそうに表紙を撫でた。

 その指先は、まるでペットの喉を鳴らすように優しく、そして執拗だった。

「中身はあとで、ゆっくりと読ませていただくわね。莉桜さんがどんな想いで虚空様と向き合ったのか……とても楽しみ」

 彼女の目が、笑みの形を保ったまま、すっと細められる。

「きっと、素晴らしいことが書いてあるはずよね? 三年目の莉桜さんだもの。表面的な言葉ではなく、もっと『深いところ』で繋がった証が」

 有無を言わせぬ圧力。

 それは「以前のような表面的な内容では許さない」という警告であり、中身を検閲するという宣言だった。

 昨夜、必死に捻り出した私の文章は、彼女の審美眼に耐えうるものだろうか。もし「不十分」と判断されたら? 「根腐れ」の兆候があると見なされたら?

 胃の腑が冷たくなる。

「……うん。正直に書いたよ」

「ええ、もちろんですわ。「根の帳」は虚空様へ捧げる心。書かれていることに嘘が混ざるなどあってはなりませんわよね」

 麗華さんは意味深に微笑むと、優雅に踵を返して自分の席へと戻っていった。

 残された私は、机の上に広がる冷たい空白を見つめることしかできなかった。

 鞄の中身は軽くなったはずなのに、胸のつかえは重くなる一方だ。

 言葉は言霊という。書いたことは真実になる。

 麗華さんの言葉が呪いのようにリフレインする。私は昨夜、ノートに何を書いただろうか。

『この土地に根を張りたい』

『皆さんと心を一つにしたい』

 恐怖から逃れるために書いた嘘が、いつか本当に私を蝕み、真実になってしまうのではないか。


 私が青ざめていると、前の席から、ガタリと椅子を引く音がした。

 前の席に座っていた神代慧くんが、振り返らずに背もたれに寄りかかり、伸びをするふりをしたのだ。

 そして、私にだけ聞こえる微かな声で、低く囁いた。

「……真面目に考えるな」

 心臓が跳ねた。

 慧くんは窓の外を見ている。誰とも会話していないような素振りで、独り言のように続ける。

「ただの作文だと思え。感情を込めるな。……思考を同調させたら、戻れなくなるぞ」

 短く、鋭い警告。

 彼の言葉は冷淡だが、そこには明らかな配慮があった。

 慧くんも知っているのだ。このノートが持つ毒性を。そして、彼自身もまた、この毒に侵されないように必死で抗っていることを。

 私は小さく頷いた。彼には見えていないはずだが、気配で伝わったのか、慧くんは小さく息を吐いて頬杖をつき直した。

 適当に合わせる。

 そうだ、これはただの処世術だ。

 そう自分に言い聞かせる。

 けれど、麗華さんの手元にあるはずの『根の帳』が、離れた場所からでも私の心臓と繋がっていて、ドクンドクンと脈打っているような幻覚が消えることはなかった。



2-2【記入】


慧くんの背中は、もう動かなかった。

窓から差し込む鈍い光が、彼の白いYシャツの輪郭をぼんやりと浮き上がらせている。彼はまるで、教室の空気に溶け込む石像か何かのように、完璧な静止を保っていた。

私の鼓動だけが、耳の奥でうるさいほどに鳴り響いている。

「思考を同調させたら、戻れなくなる」

彼が残した言葉の棘が、喉の奥に引っかかって取れない。

その棘の痛みは、昨夜の記憶を鮮明に呼び覚ました。あの藍色のノート――『根の帳』と向き合った、息の詰まるような数時間の記憶を。


          ***


昨夜、深夜一時。

私は自室の机に向かい、ただひたすらに恐怖していた。

窓の外では雨が降り続いていた。根守の雨は、都会のそれとは違う。アスファルトを叩く軽快なリズムではなく、土と葉をじっとりと濡らし、地面が水を吸い込む「ジュウ、ジュウ」という微かな咀嚼音を立てる。まるで村全体が巨大な消化器官となり、天から降る水分を貪っているかのような音だ。


机の上に置かれた『根の帳』は、蛍光灯の光を吸い込んで、そこだけ空間が窪んでいるように見えた。

表紙は厚手の和紙で装丁されており、深い藍色に染められている。中央には筆文字で『根の帳』と記され、その下にはクラス全員の名前が連名で書かれていた。

一番上には神代慧、次に神代沙夜、御子柴麗華。そして一番下に、少し小さめの文字で、高村莉桜。

それは単なる名簿順ではなく、明確な序列を示しているようだった。


私は震える指で、太い麻ひもを解いた。

表紙をめくると、かび臭いような、それでいて甘ったるい香りが鼻をつく。古い線香と腐葉土を混ぜ合わせ、そこに防虫剤を振りかけたような独特の匂い。

このノートは、単なる交換日記ではない。

麗華さんは「みんなで仲良く、心の根を繋げるための日記」と言った。先生も「お互いの良いところ、悪いところを見つめ合い、高め合うための記録」と言って推奨している。

だが、その実態は『告解』であり『密告』だった。


私はページを遡った。自分の書くべき内容を探るために、過去の記録を読み返す必要があったからだ。

三日前の担当は、麗華さんだった。

彼女の文字は、定規で引いたように整然とした美しいペン字だ。インクの滲みひとつなく、紙面には完璧な秩序が保たれている。


『今日も恵みの雨が、私たちの根守を潤してくれました。虚空様もきっとお喜びのことでしょう。

今日のホームルームで、低学年の健太くんが掃除をサボっているのを見かけました。注意をしようと思いましたが、彼は「足が痛い」と言い訳をしました。

嘘をつくことは、心を濁らせる泥です。私は彼のために、放課後一緒に廊下の雑巾がけを行いました。彼の流した汗が、心の泥を洗い流してくれることを祈ります。

追伸:沙夜さんの顔色が優れないのが気になります。巫女としてのお役目がお辛いのでしょうか。彼女の心が、村の重みに耐えられるよう、皆で支えてあげなければなりませんね』


一見すれば、美談だ。下級生を指導し、友人を気遣う優等生の記録。

しかし、行間には冷徹な監視の目が光っている。健太くんの「サボり」と「嘘」は、このノートを通じて先生や親たちの知るところとなるだろう。そして「沙夜の心が耐えられるか」という記述は、心配を装った「沙夜の精神状態への疑義」だ。

麗華さんの文章には、常に「私は正しく、村を見守っている」という絶対的な自負と、他者の綻びを見逃さない鋭利な刃が潜んでいる。


ページをめくる。二日前の担当は、慧くんだ。

『特筆すべきことはない。授業は滞りなく進み、皆、平穏に過ごしていた。

理科の実験器具が不足しているため、牛松先生に補充をお願いした。

麗華の言う通り、季節の変わり目で体調を崩しやすい時期だ。各自、健康管理には留意すべきだろう』


慧くんの文章は、極端に事務的だった。感情を一切排し、事実だけを淡々と述べる。

彼はこのノートの性質を理解しているのだ。余計なことを書けば、それが命取りになることを。だから彼は、誰も傷つけず、自分も傷つかない、無味乾燥な防壁を言葉で築いている。

けれど、その「何もなさ」こそが、この村では異質に映るかもしれない。事実、先生からの赤ペンでのコメントには、『神代家の長男として、もう少し情のある言葉が欲しいものだね』と記されていた。


そして、昨日の担当は沙夜だった。

彼女の文字は細く、頼りなげで、筆圧が弱いために所々インクが掠れている。

『雨の音が大きくて、あまり眠れませんでした。

山の方から、何かが呼ぶ声がしたような気がします。でも、それは風の音だったかもしれません。

お父様が、今年の秋祭りは大切なお祭りになるとおっしゃっていました。

私は、ちゃんとできるでしょうか。

莉桜ちゃんが貸してくれた東京の雑誌を見ました。綺麗な服がたくさん載っていて、少しだけ、羨ましいと思いました』


心臓が跳ねた。

馬鹿だ、沙夜は。どうしてこんなことを書いてしまったのだろう。

案の定、文章の脇には赤ペンで、激しい書き込みがなされていた。

『雑念』『外への憧れは毒』『根を張れ』

先生の文字ではない。もっと神経質で、紙を突き破らんばかりの筆圧。おそらく、麗華さんか、あるいは彼女の父親か。

沙夜の無防備な吐露は、すでに「矯正すべき歪み」としてマークされている。


そして私の番だ。

白いページが、巨大な目となって私を見上げている。

鉛筆を持つ手がじっとりと汗ばむ。

何を書けばいい?

慧くんのように事務的に書けば「よそ者だから心が通っていない」と思われる。

沙夜のように本音を書けば「異端」として糾弾される。

麗華さんのように書くには、私には「正義」が足りない。


『        』


鉛筆を持つ手が動いてくれない。

今日、学校であったことを思い出す。特筆すべきことなんて、何もない。いつも通りの、息が詰まるような一日だった。

嘘を書こうか。

「今日も村の皆様のおかげで、楽しく過ごせました」

そんな空虚な言葉を並べ立てて、誰が信じるだろうか。この村の人々は、言葉の裏にある感情の機微を嗅ぎ取ることに長けている。上辺だけの愛想笑いは、すぐに見透かされる。


私は、無意識のうちに自分の左手首をさすっていた。

そこには何もない。滑らかな肌があるだけだ。

他の皆が持っている『根緒』が、私にはない。

その劣等感、疎外感。それを逆手に取ることはできないか。


私は意を決して、鉛筆を走らせた。


『今日、体育の時間に美咲ちゃんが転んで膝を擦りむいた時、すぐに駆け寄ってあげられませんでした。私はまだ、この村の「痛み」を自分のものとして感じられていないのかもしれません。

皆さんの手首にある根緒を見るたび、自分が根無し草であるような不安に襲われます。

もっと深く、この土地に根を張りたい。皆さんと心を一つにしたい。

どうすれば、本当の意味で根守の一員になれるのでしょうか。

虚空様の声が、私にはまだ届きません。それが寂しくて、怖いです』


書き終えた瞬間、自己嫌悪で吐き気がした。

媚びている。

私は、自分の「よそ者」という立場を利用し、「教えを乞う」という卑屈な姿勢を見せることで、攻撃を回避しようとした。

「馴染もうと努力しているが、まだ未熟な可哀想な子」

そう思われれば、少なくとも「害悪」とは見なされないはずだ。

これは処世術だ。生き残るための、汚い知恵だ。


けれど、文字になった言葉は、妙な重力を持って私に迫ってくる。

『根を張りたい』『心を一つにしたい』

嘘で書いたはずの言葉が、何度も読み返すうちに、まるで最初から私の本心であったかのように錯覚しそうになる。

「そう思わなければいけない」という強迫観念が、嘘を真実に書き換えようとする。

ノートの紙面から漂う甘酸っぱい匂いが、脳の芯を痺れさせていく。


(これでいい……これで、正解なはず……)


私は逃げるようにノートを閉じ、紐を結んだ。

藍色の表紙が視界から消えても、その存在感は部屋の空気を重く淀ませていた。

布団に入ってからも、瞼の裏にあのノートの白いページが焼き付いて離れなかった。

誰かに見られている。

天井の木目から、壁の染みから、無数の目が私を見下ろし、私の心の「根腐れ」をチェックしている。

そんな妄想に怯えながら、私は浅い眠りについたのだった。


          ***


「――起立」


唐突な号令に、思考が現実に引き戻された。

ガタガタと椅子の引く音が重なり、私は慌てて立ち上がった。

いつの間にか、教室の前方の引き戸が開き、牛松先生が入ってきていた。

白髪交じりの短髪に、作務衣のような色あせた服。日焼けした顔に刻まれた深い皺は、年輪のように見える。彼は村の老人たち特有の、温厚だが底の知れない笑みを浮かべていた。


「おはようございます」

先生の声は、低く、よく響く。

「おはようございます、虚空様。おはようございます、先生」

生徒たちの唱和が、驚くほど綺麗に揃う。

私も一拍遅れて口を動かした。この村では、先生への挨拶の前に、まず山頂の虚空様への挨拶がある。

窓の外、霧に煙る山の頂に向かって、全員が深々と頭を下げる。

その角度、静止する時間、呼吸のリズム。すべてが統率されていた。

小学一年生の子たちでさえ、背筋を伸ばし、小さな兵士のように微動だにしない。

この異様な規律正しさは、教育によるものではない。生活の中に、血の中に組み込まれた本能のようなものだ。


「はい、着席」

先生の合図で、全員が一斉に座る。

「今日は湿気が多いから、根が水を吸って山が喜んどるね」

牛松先生は教壇に立つと、愛おしそうに窓の外を眺める。


――先生にはあの山がどんなふうに見えているんだろう……。



授業が始まった。

今日は合同での道徳の時間らしい。

牛松先生が黒板に大きな文字で板書する。

『滅私奉公』

『一木一草』

『和』

どれも一般的な熟語だが、この教室では意味がねじ曲がる。

「いいかい、みんな。森の木々を見なさい。一本一本が勝手に枝を伸ばしたらどうなると思う? 互いに光を遮り合い、共倒れになるね」

先生はチョークをカツカツと鳴らしながら説く。

「隣の木に合わせ、枝を譲り合い、根を絡ませ合って支え合う。個を捨てて森となる。それが『生きる』ということだよ。人間も同じ。自分だけの考え、自分だけの秘密……それは森を腐らせる病原菌だね」


「先生!」

元気よく手を挙げたのは、二年生の男の子だった。

「じゃあ、みんなと違うことを考えるのは、悪いことなの?」

純粋な問い。

教室の空気が一瞬で張り詰めた。

先生は慈愛に満ちた顔で、男の子の元へ歩み寄る。そして、その小さな頭を大きな掌で撫でた。

「悪いことではないよ、タカシくん。ただ、それは『可哀想なこと』なんだ」

「可哀想?」

「そう。みんなと違うということは、根っこが繋がっていないということ。栄養がもらえず、一人ぼっちで枯れていくということ。タカシくんは、一人ぼっちになりたいかい?」

男の子の顔が青ざめる。

「ううん……やだ。みんなと一緒がいい」

「そうだろう、そうだろう。なら、心もみんなと一緒じゃなきゃいかん。虚空様は、寂しがり屋の神様だからね。一人でも違う方向を向いていると、悲しんで山を揺らすんだ」


先生は慈愛に満ちた目で教室を見渡した。その視線は、生徒一人一人を愛でているようでいて、間引きすべき雑草を探す庭師のようにも見えた。


「みんな、分かったね?」


先生の問いかけに、教室中の生徒たちが一斉に頷いた。

誰一人として疑問を挟まない。タイミングさえも完全に一致している。

首を縦に振るその動作は、まるで目に見えない糸で操られているマリオネットのようだ。

ガク、ガク、と首が動くたびに、彼らの自我が零れ落ちていくような錯覚に襲われる。


私は、みんなよりも大きく首を振る健太くんを見た。

『根の帳』で麗華さんに「嘘つき」だと報告されていた小学二年生の男の子だ。

彼は顔を青ざめさせ、誰よりも深く、激しく頷いていた。額が机につきそうなほど必死に。

その小さな背中は「僕は腐っていません、みんなと同じです」と叫んでいるようだった。


昨夜読んだあの日記は、ただの記録ではない。

この教室にいる全員が、全員を監視している。

笑顔で挨拶を交わし、休み時間には無邪気に遊ぶ彼らの瞳の奥には、常に他人の「根腐れ」を探すレンズが嵌め込まれているのだ。

健太くんも、きっと分かっている。自分が書かれたことを。そして次は自分が誰かの「異端」を見つけて報告しなければ、許されないことを。


「はい、みんないい返事だ。虚空様も喜んでおられる」


先生が満足そうに目を細める。

その瞬間、教室の空気がふっと緩んだ。生徒たちの顔に、安堵の色が広がる。

それは教育の場で見られる信頼関係ではない。看守の機嫌を損ねなかった囚人たちの、卑屈な安堵だった。


私は寒気を感じて、自分の腕を抱いた。

制服の袖の下には、まだ『根緒』がない。

その空白の手首が、教壇に立つ先生の目には、どう映っているのだろうか。

そして、優雅に微笑んでいるはずの麗華さんの目には。


「さて、次は……」


先生がチョークを置く音と同時に、視線が私の方へ向いた気がした。

私は慌てて、周囲の生徒たちに合わせるように、小さく首を縦に振った。

遅れてはいけない。目立ってはいけない。

慧くんの強張った背中が、視界の端で微かに震えているのが見えた。


逃げられないんだ。

たとえ、村の最高位に位置していても。

最高位だからこそなのかもしれない。

村の目から……虚空様から……。



2-3【休日】


 七月に入ってからも根守村は、巨大な蒸し器の中に閉じ込められているかのようだった。

 日曜日だというのに、空は相変わらず重たい鉛色に閉ざされている。昨夜の雨は上がっていたが、地面から立ち上る湿気が逃げ場を失い、村全体をじっとりと濡らしていた。

 私は自室の窓を開けたが、入ってきたのは爽やかな風ではなく、腐葉土と濃い緑の匂いを含んだ生温かい空気だけだった。

 今日は日曜日だ。学校もない。あの思想が書き換えられるような授業も、麗華さんの監視もない。

 けれど、この村に本当の意味での「休日」など存在しないことを、私は三年間の生活で嫌というほど思い知らされていた。

 村の構造は、最奥にある忌み山を「要」とした扇形をしている。私の家がある下流域は扇の端にあたり、比較的空気が動きやすいはずなのだが、それでも背後から常にあの巨木――虚空様に見下ろされている圧迫感は消えない。

 私は鏡の前で、精一杯明るい色の服を選んだ。東京にいた頃に着ていた、パステルイエローのブラウスと、膝丈の白いスカート。この村の風景には浮いてしまうことは分かっていたが、少しでも「よそ者」としての自分、かつての自分を保っていないと、湿った空気に溶かされてしまいそうな気がしたからだ。


「行ってきます」

 居間に声をかけると、父と母が同時に振り返った。

 二人はちゃぶ台を挟んで向かい合い、無言で湯飲みを握りしめていた。テレビはついているが、音量は最小に絞られている。画面の中で芸人が大口を開けて笑っているのが、ひどく遠い世界の出来事のように見えた。

「どこへ行くんだ」

 父が低い声で尋ねる。その視線は私の顔ではなく、私の手首――『根緒』が巻かれていない空白の皮膚――に吸い寄せられていた。

「沙夜と、雑貨屋さんに。ノートとか、買いに行くだけだから」

 私は必要以上に明るい声を出した。

「そうか……。神代さんの娘さんと一緒なら、安心だな」

 母が安堵の息を漏らす。

「粗相のないようにね。皆様によろしくお伝えするのよ」

 まるで呪文のように繰り返される「皆様」という言葉。この村における「皆様」とは、近所の住人たちのことではない。もっと巨大で、形のない、監視の網そのものを指しているように思えてならない。

 私は逃げるように玄関の戸を開けた。


 待ち合わせ場所である簡素な火の見やぐらの下には、すでに沙夜が立っていた。

 彼女を見つけた瞬間、胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚を覚えた。

 いつも学校で見るセーラー服や、祭事の際の巫女装束ではない。淡い水色のワンピースに、麦わら帽子。足元は白いサンダル。

 その姿は、どこにでもいる十五歳の少女そのものだった。

 けれど、その「普通」さが、この根守村という背景の中では、あまりにも儚く、脆いものとして映る。

 彼女の細い手首には、赤茶けた『根緒』がしっかりと巻かれている。それが白い肌に食い込む足枷のように見えて、私は一瞬、目を逸らした。

「お待たせ、沙夜」

 私が声をかけると、沙夜はゆっくりと顔を上げた。

 長い黒髪が湿気を含んだ風に揺れる。彼女は私を認めると、花が綻ぶように微かに微笑んだ。

「ううん、私も今来たところ。……おはよう、莉桜」

 その声は鈴を転がしたように澄んでいるが、どこか空気に吸い込まれて消えてしまいそうな頼りなさがあった。

「その服、すごく似合ってる。お人形さんみたい」

 お世辞ではなかった。色素の薄い肌に、水色がよく映えている。

 沙夜は恥ずかしそうに帽子を目深に被り直した。

「ありがとう。でも、ちょっと恥ずかしいな。こんな服、滅多に着ないから……」

「いいんだよ。今日は日曜日なんだから」

 私は彼女の手を取ろうとして、一瞬躊躇い、それから指先だけを軽く触れ合わせた。

「行こう。村井商店、新しい雑誌が入荷してるかもしれないよ」


 私たちは並んで歩き出した。

 村のメインストリートと言っても、車が一台ようやく通れるほどの舗装されていない砂利道だ。道の脇には用水路が走り、濁った水がごうごうと音を立てて流れている。

 山から流れてくる水は冷たいはずなのに、水面からは白い靄が立ち上っていた。

 道すがら、数人の村人とすれ違った。

 野良仕事に向かうお婆さん、軒先でタバコをふかしている老人。彼らは一様に、私たちの姿を見ると手を止める。

 挨拶はない。ただ、じっとりとした視線が、私たちの背中に張り付く。

 特に沙夜に向けられる視線は異質だった。

 それは近所の子供を見る目ではない。神棚に飾られた供物や、床の間の掛け軸を見るような、崇拝と監視が入り混じった冷ややかな目つきだ。

 沙夜はその視線に気づいているはずなのに、顔色一つ変えずに歩いている。いや、気づかないふりをすることに慣れすぎてしまっているのだ。彼女の背筋が、糸で吊られたように強張っているのが分かった。


 扇の中骨にあたる道をすすみ、少し開けた場所に出ると、そこに「村井商店」があった。

 トタン屋根の平屋建て。色褪せた「キッコーマン」や「オロナミンC」のホーロー看板が、錆びついた釘で壁に打ち付けられている。

 引き戸を開けると、カウベルがカランコロンと乾いた音を立てた。

 店の中は薄暗く、埃と古い紙、そして駄菓子特有の甘ったるい匂いが充満していた。奥の方からは、防虫剤と線香の匂いも混じって漂ってくる。

 蛍光灯が一本、今にも切れそうに点滅を繰り返しており、そのリズムに合わせて陳列棚の影が伸び縮みしていた。

「いらっしゃい」

 店の奥、帳場の影からしゃがれた声がした。

 店主の村井源造さんだ。七十を過ぎた老人で、いつも店の奥の暗がりに座り込み、じっと店番をしている。

 私は軽く会釈をしたが、源造さんはこちらを見ようともしなかった。手元の新聞に目を落としたまま、微動だにしない。まるで店の一部、古びた置物になったかのようだ。


 私たちはその視界の端をすり抜けるようにして、文房具と雑誌のコーナーへ向かった。

 色褪せたノートや、インクの出なさそうなボールペンが並ぶ棚の隅に、数冊の週刊誌とファッション誌が平積みされていた。

 東京に比べれば数週間遅れの入荷かもしれない。それでも、この極彩色の表紙だけが、この店の中で唯一、外の世界と繋がっている「窓」だった。

「あ、これ」

 沙夜が小さな声を上げて、一冊の少女向けファッション誌を手に取った。

 表紙には、聖子ちゃんカットのアイドルが弾けるような笑顔で写っている。

「見たかったの?」

「うん。……あ、見て、莉桜ちゃん。これ」

 沙夜がページをめくり、ある特集記事を指差した。

 『原宿特集! クレープ片手に竹下通りを歩こう』

 写真の中には、色とりどりの服を着た若者たちが溢れかえっている。クリームとフルーツがたっぷり乗ったクレープ、パステルカラーの雑貨、賑やかな看板。

 そこには「根」も「湿気」も「監視」もない。ただ、消費と享楽だけが許された眩しい世界があった。

「クレープ……食べたことある?」

 沙夜が食い入るように写真を見つめながら呟く。その横顔は、巫女としての仮面が剥がれ落ち、ただの好奇心旺盛な少女に戻っていた。

「あるよ。すっごく甘くて、美味しいんだ。バナナとチョコが入ってるのが一番人気でね」

 私が答えると、沙夜はほう、とため息をついた。

「いいなぁ。東京って、毎日がお祭りみたいなんだね」

「そんなことないよ。でも、ここよりはずっと自由かな」

 私は言葉を選びながら言った。東京の話をすることは、ここではある種のタブーに近い。けれど、沙夜の瞳の輝きを見ると、口を閉ざすことができなかった。

「沙夜も、高校生になったら行けるよ。電車に乗れば、すぐだもん」

 私の言葉に、沙夜の手が止まった。

 開かれたページの上で、彼女の細い指が微かに震える。

 手首に巻かれた『根緒』が、カサリと紙面を擦った。

「……無理だよ」

 沙夜は消え入るような声で言った。

「私は、ここから出られないもの」

「そんなの、決まってないよ。慧くんだって外の高校に行くつもりなんでしょ? 沙夜だって……」

「ううん。慧は男の子だし、跡取りだから外の世界を知る必要があるの。でも、私は……」

 彼女は言葉を濁し、視線を雑誌から床の黒ずんだ木目へと落とした。

「私は、お父様に言われてるの。『お前は村の要だから、根を離れてはいけない』って」

 根を離れてはいけない。

 その言葉の響きが、店内の淀んだ空気をさらに重くした気がした。

 沙夜の瞳から、先ほどの輝きが急速に失われていく。諦めと、受け入れがたい運命への恐怖が、暗い水底のように揺らめいていた。

「でもね」

 沙夜は顔を上げ、無理に作ったような笑顔を私に向けた。

「莉桜が教えてくれるから、私、行った気分になれるの。だから、もっと教えて。東京の話」

 その健気さが、痛いほど胸に刺さる。

 私は必死に笑顔を作り、雑誌の別のページを指差した。

「うん、もちろん。あ、見て。このリボン、沙夜に絶対似合うよ。今度、私が持ってる似たようなリボン持ってくるから付けてみて」

「本当? 嬉しい……」

 私たちは顔を寄せ合い、小さな声で笑い合った。

 どの服が可愛いとか、どの俳優が格好いいとか。そんな他愛のない会話。

 村の教えも、虚空様の視線も、親たちの期待も、この瞬間だけは私たちの間には存在しなかった。

 ただの友達。ただの十五歳。

 店内に漂う防虫剤の臭いさえ忘れて、私たちは束の間の「青春」という甘い空気を吸い込んでいた。


「――おや、仲がいいねぇ」

 不意に、粘着質な声が私たちの世界を引き裂いた。

 ビクリとして振り返ると、いつの間にか帳場から出てきた店主の村井源造が、私たちのすぐ背後に立っていた。

 足音は全くしなかった。

 腰の曲がった小柄な老人だが、その影は異様に大きく伸びて、私たちを覆い隠している。

「こ、こんにちは……」

 私が挨拶をしても、源造は答えない。

 この村の老人特有の—―温和な笑顔が張り付いた顔。

 彼の笑っていない濁った黄色い瞳は、私を通り越し、沙夜だけをじっと見つめていた。

 それは、客を見る目ではなかった。

 近所の子供を見る目でも、孫を見るような温かい目でもない。

 農家が、出荷前の野菜の出来栄えを確認するような。

 大工が、建築資材として適した木材かどうかを見定めるような。

 徹底的に「物」として評価する、冷たく、貪欲な目つきだった。

「沙夜様。ずいぶんと、綺麗になられたなぁ」

 源造が、しわがれた声で言った。

 褒め言葉のはずなのに、背筋に冷たいものが走る。

 彼の視線は、沙夜の顔から首筋、そして『根緒』の巻かれた手首へと、ねっとりと這うように移動していく。

「色が白くて、穢れがなくて……。まるで、剥きたての白桃みたいだ」

 舌なめずりでもしそうな口調だった。

 沙夜が私の袖をぎゅっと掴んだ。彼女の指先が氷のように冷たい。

「ありがとうございます……」

 沙夜は蚊の鳴くような声で答え、深く頭を下げた。

「今年は十五か。そうか、十五か……。いよいよ、だなぁ」

 源造は一人で納得したように何度も頷くと、ニタリと笑った。歯の抜けた口の中が、暗い洞窟のように見えた。

「虚空様も、さぞお喜びになるだろう。精進しなさいよ、沙夜様。沙夜様の体は、もう沙夜様お一人のもんじゃねぇんですから」

 胃の腑に鉛を流し込まれたような気分だった。

 「沙夜様お一人のもんじゃねぇんですから」。その言葉の意味を深く考えたくなかった。

 源造はそれだけ言うと、興味を失ったように踵を返し、再び薄暗い帳場の奥へと戻っていった。

 ハエが飛ぶ羽音だけが、ブーンと耳障りに響いていた。


 私たちは逃げるようにして買い物を済ませた。

 沙夜が買ったのは、結局あの雑誌ではなく、学校で使う変哲もないキャンパスノート一冊だけだった。

「ごめんね、莉桜」

 店の外に出ると、沙夜が申し訳なさそうに言った。

「ううん、いいの。……アイスでも食べながら帰ろうか」

 私は店の前の冷蔵ケースで買った、二つに割れるソーダ味のアイスキャンディーを差し出した。

 沙夜はそれを受け取ると、パキリ、と音を立てて二つに割った。

「半分こ、だね」

 彼女は私に太い方を差し出してくれた。

 私たちは並んで、神社の参道へと続く坂道を歩き始めた。

 口に含んだアイスは冷たくて甘かったが、舌の上ですぐに溶けてしまい、後には人工的な甘味料の味だけが残った。

 空を見上げると、いつの間にか雲がさらに厚くなり、今にも雨が降り出しそうだった。

 湿気を含んだ風が、沙夜の髪を乱暴に煽る。

 さっきまでの、雑誌を覗き込んで笑い合っていた時間は、もう遠い過去のことのように感じられた。

 源造の言葉が、耳の奥にこびりついて離れない。

 『お前さんの体は、もうお前さん一人のもんじゃねぇ』

 私は横を歩く沙夜を見た。

 彼女は黙々とアイスを舐めている。その横顔は、諦念という薄い膜で覆われ、再び「巫女」としての無表情に戻りつつあった。

 その手首に巻かれた『根緒』が、彼女の静脈の上で、どくり、どくりと脈打っているように見えたのは、私の気のせいだったのだろうか。


「莉桜」

 不意に沙夜が口を開いた。

「なあに?」

「私ね、もし……もしも、生まれ変わったら」

 彼女は足を止め、村の向こう、山に囲まれた空のわずかな隙間を見つめた。

「東京で、クレープ屋さんになりたいな」

 それはあまりにも唐突で、そして切実な願いだった。

「……うん。なれるよ。生まれ変わらなくても、きっとなれる」

 私は無責任な嘘をついた。そう言うしかなかった。

 沙夜は寂しげに微笑むと、持っていたアイスの棒を、道端のゴミ箱に捨てた。

 カラン、と乾いた音がして、棒はゴミの山の中に消えた。

「ありがとう。……そろそろ、帰らなきゃ。お父様が心配するから」

 彼女の声は、もう完全に「神代沙夜」のものに戻っていた。


 帰り道、扇の要の方角を見上げると、忌み山の頂にある巨木が、黒いシルエットとなって村を見下ろしていた。

 その枝ぶりは、天に向かって救いを求める手のようにも、逃げようとする獲物を捕らえる蜘蛛の足のようにも見えた。

 私は自分の手首を無意識に摩った。

 そこにはまだ『根緒』はない。滑らかな肌があるだけだ。

 けれど、見えない根が、私たちの足元から這い上がり、確実に自由を奪いつつあることを、私はこの時、肌で感じていた。

 私は今度『根の帳』に何を書けばいいのだろう。

 沙夜と楽しく買い物をしました、と書けばいいのか。

 それとも、彼女が東京に憧れを抱いているという「異端」の兆候を、密告しなければならないのか。

 何もないはずの左手首が、急に締め付けられたように感じられ、私は思わず歩調を早めた。

 背後から、村井源造の粘着質な視線が、まだ追いかけてきているような気がしてならなかった。



2-4【添削】


月曜日の朝、教室の空気は澱んでいた。

週末に降り続いた雨は上がっていたが、校舎全体が巨大なスポンジのように湿気を吸い込み、吐き出せずにいる。黒板の縁には水滴が滲み、天井の板目からは、じっとりと濡れたような染みが広がっていた。

私は自分の席に座り、強張った指先で机の天板を撫でていた。指の腹に、湿気を含んだ木のざらつきが伝わる。

昨日の日曜日、沙夜と過ごした時間は、まるで遠い昔の出来事のようだった。雑貨屋での会話、アイスの味、そして店主の村井源造が向けた粘着質な視線。それら全てが、この教室の重苦しい静寂の中に溶け合い、形を失っていく。


「おはよう、莉桜さん」


頭上から降ってきた声に、心臓が跳ね上がった。

反射的に顔を上げると、そこには御子柴麗華さんが立っていた。

彼女は今日も完璧だった。制服のプリーツスカートには折り目正しくアイロンがかけられ、長い黒髪は艶やかに光を反射している。その立ち姿は、古びた木造校舎の背景から浮き上がって見えるほどに鮮烈で、異質だった。

彼女の両手には、あの藍色のノート――『根の帳』が抱えられている。

まるで聖書か何かのように、大切そうに、恭しく。


「……おはよう、麗華さん」


喉が張り付き、掠れた声が出た。

麗華は私の顔を覗き込むようにして、ふわりと微笑んだ。その笑顔は、慈愛に満ちているようでいて、陶器の人形のように冷たく固定されている。

「週末はゆっくり休めたかしら? 昨日は沙夜さんとお出かけしたのよね」

「え……」

息が止まった。

誰にも言っていないはずだ。沙夜と二人で会う約束をしたことも、雑貨屋へ行ったことも。村井源造が見ていたとはいえ、どうして翌朝一番に麗華がそれを知っているのか。

私の動揺を楽しむように、麗華は小首をかしげる。

「ふふ、驚いた顔。この村に隠し事なんてないのよ。仲が良いのは素晴らしいことだわ。ねえ、沙夜さん?」

麗華の視線が、私の後ろの席へ流れる。

振り返ると、沙夜が蒼白な顔で小さく頷くのが見えた。彼女は視線を床に落とし、両手を膝の上で固く握りしめている。その姿は、叱責を待つ囚人のようだった。

慧くんはといえば、窓の外の景色を眺めたまま、我関せずという態度を貫いている。だが、その背中がいつもより微かに強張っているのを、私は見逃さなかった。


「さて」

麗華が居住まいを正し、持っていたノートを私の机の上に置いた。

ずしり、という重い音が、私の胃の腑に響く。

「莉桜さんの日記、読ませていただいたわ。みんなでね」

「あ……うん」

「とても、胸を打たれたわ。莉桜さんの苦悩、迷い、そしてこの村への愛……。痛いほど伝わってきた」

麗華の声は甘く、とろけるような響きを帯びていた。

しかし、その言葉の端々には、鋭利な棘が見え隠れしている。

「だから私たち、莉桜さんのために言葉を贈ることにしたの。迷える子羊を導くのは、私たちの務めだもの」

彼女の白魚のような指が、ノートの表紙を撫でる。

「開いてみて」


促されるまま、私は震える手で『根の帳』に触れた。

表紙の藍色が、深海の闇のように見えた。開けてはいけない。本能がそう警鐘を鳴らしている。けれど、麗華の、そして教室全体の視線が私に突き刺さり、拒絶を許さない。

私は意を決して、ページをめくった。


紙の匂いが立ち上る。甘酸っぱい腐葉土の臭いと、鉄錆のようなインクの臭い。

そして、私の目に飛び込んできたのは――『赤』だった。

私が鉛筆で書いた灰色の文字が、無数の赤い文字によって埋め尽くされていた。

まるで、私の思考そのものが血管のように張り巡らされた赤い根によって浸食され、絞め殺されているような光景だった。


『今日、体育の時間に美咲ちゃんが転んで膝を擦りむいた時、すぐに駆け寄ってあげられませんでした。私はまだ、この村の「痛み」を自分のものとして感じられていないのかもしれません』


私の書いたこの文章に対し、行間を縫うように、また余白を埋めるように、赤いペンでびっしりとコメントが書き込まれている。


『どうしてすぐに動けなかったのですか? それは貴女の心に「躊躇い」という名の壁があるからです。壁を作るのは、貴女自身の傲慢さです』

『美咲ちゃんの痛みは、私たちの痛みです。それを「自分のものとして感じられていない」と客観的に分析している時点で、貴女は自分が「個」であることを主張しているに過ぎません。それは反省ではなく、自己憐憫です』

『見て見ぬふりをしたわけではない、と言い訳をしていませんか? 行動の遅れは、心の遅れです』


読み進めるたびに、心臓が早鐘を打つ。

彼らの言葉には、一切の悪気がない。罵倒語も、暴力的な言葉もひとつもない。

あるのは、純粋で、透明度が高く、それゆえに狂気じみた「善意」だけだった。


『皆さんの手首にある根緒を見るたび、自分が根無し草であるような不安に襲われます』


この一文には、特に多くの赤線が引かれていた。


『不安になる必要はありません。その不安こそが、貴女がまだ「外」を見ている証拠なのですから。根無し草であることを嘆く前に、なぜ根を張ろうとしないのか、自分の胸に問いかけなさい』

『根緒は飾りではありません。魂のへその緒です。持っていないことを嘆くのではなく、持つにふさわしい器になるよう、魂を磨きなさい。貴女のその劣等感こそが、最も醜い汚れです』


『もっと深く、この土地に根を張りたい。皆さんと心を一つにしたい。

どうすれば、本当の意味で根守の一員になれるのでしょうか』


この、私が必死に媚びを売るために書いた嘘の言葉。

それに対する返答は、私の逃げ場を完全に塞ぐものだった。


『「どうすれば」と問うこと自体が間違っています。理屈ではありません。考えるから間違えるのです。思考を捨てなさい。自我を捨てなさい。そうすれば、自然と根は張られます』

『貴女はまだ、東京という異界の毒に侵されています。「なりたい」と願うのは、「なれていない」自分を肯定していることと同じです。ただ、在りなさい。虚空様の一部として』


そして、最後の一文。

『虚空様の声が、私にはまだ届きません。それが寂しくて、怖いです』


ここには、ページの下半分を埋め尽くすほどの大きさで、麗華の流麗な文字が踊っていた。


『可哀想な莉桜さん。

声が届かないのは、貴女が耳を塞いでいるからです。

「怖い」と感じるのは、貴女の中にやましい心があるからです。

虚空様は全てを見ておられます。貴女のその恐怖も、寂しさも、そしてその裏にある「計算」も。

でも、安心して。私たちがついています。

貴女の心が腐り落ちてしまわないように、私たちがずっと、ずっと見守ってあげますから。

貴女が「正しく」なれるまで、何度でも、何度でも教えてあげます。

それが「愛」でしょう?』


文字が、赤色が、ゲシュタルト崩壊を起こして目に焼き付く。

「愛」「見守る」「教えてあげる」。

美しい言葉の羅列が、これほどまでに恐ろしい意味を持って迫ってきたことがあっただろうか。

これは交換日記ではない。

これは、公開処刑であり、洗脳のプログラムであり、そして「お前の嘘など全てお見通しだ」という死刑宣告だった。

私が保身のために書いた言葉は、全て逆手に取られ、私という人間を否定する材料にされていた。

「自分」を持つことは罪。「考える」ことは罪。「不安」を感じることさえ、村への冒涜。

個人の感情も、論理も、人格も、全てを粉砕し、「村」という巨大な有機体の一部品になることだけを強要している。


吐き気がした。

胃の底から、冷たい泥のようなものがせり上がってくる。

手足の先が氷のように冷たくなり、小刻みに震え始めた。

視界が歪む。ノートの上の赤いインクが、じわりと滲んで、本当に血のように脈打って見えた。


「莉桜さん?」


麗華の声が、鼓膜を優しく撫でる。

顔を上げられない。上げれば、彼女のあの完璧な笑顔を見てしまう。

彼女は机に手をつき、顔を私の耳元まで寄せた。

ふわりと、甘い香りが漂う。線香と白粉、そして奥底にある防虫剤の臭い。


「嬉しくない?」

囁き声が、脳髄に直接響く。

「みんながこんなに、貴女のことを考えてくれているのよ。忙しい中、貴女のために時間を割いて、貴女の魂が救われるように言葉を尽くしてくれたの。……ねえ、嬉しくないの?」


「う……」

喉が痙攣する。

否定すればどうなるか。

「嬉しくない」と言えば、それは彼らの善意を踏みにじる行為だ。「根腐れ」の烙印を押される。

肯定すればどうなるか。

この狂った論理を受け入れ、自分を殺し、彼らの操り人形になることを認めることになる。


逃げ場はなかった。

右を見ても、左を見ても、前を見ても、後ろを見ても。

この村には、彼らの「正義」しかない。


視界の端で、慧くんがじっとこちらを見ているのが分かった。

彼の瞳には、何の感情も浮かんでいない。助け船を出すつもりも、同情するつもりもないようだ。ただ、実験動物の反応を観察するように、冷徹に私を見ている。

沙夜は、顔を覆いたくなるのを必死に堪えているようだった。彼女自身もまた、この村の論理に縛り付けられた生贄なのだ。


私は、乾いた唇を無理やり引き上げた。

頬の筋肉が引きつり、痙攣する。

笑顔を作らなければならない。麗華さんと同じ、感情を殺した、完璧な仮面を。


「……う、れしい……です」


自分の声が、他人のもののように聞こえた。

魂が削り取られ、足元にボロボロとこぼれ落ちていく感覚。


「ありがとうございます。……私のために、こんなに……」


涙が滲んだ。

それは感動の涙ではない。悔しさと、恐怖と、そして屈服の涙だった。

けれど、麗華にはその区別などどうでもいいようだった。

彼女は満足げに目を細め、私の肩に手を置いた。その手は熱く、まるで焼きごてを当てられたように重い。


「よかった。やっぱり莉桜さんは、素直な良い子ね」

麗華は私の肩を優しく、しかし逃がさないように強く揉んだ。

「分かってくれればいいの。私たちは家族同然なんだから。これからはもっと、心を曝け出してちょうだいね。隠し事はなしよ?」


隠し事はなし。

その言葉が、呪いのように木霊する。

彼女は私の嘘を見抜いている。その上で、あえて泳がせているのだ。私という存在を村に「歓迎」するための「矯正」として。


「さあ、授業が始まるわ。今日も一日、虚空様に見守られて、清く正しく過ごしましょう」


麗華は軽やかな足取りで自分の席へと戻っていった。

スカートが翻るたびに、あの甘ったるい臭いが空中に撒き散らされる。


チャイムが鳴った。

古びた鐘の音が、ゴーン、ゴーンと、校舎全体を揺らすように響く。

それは授業の合図ではなく、逃げ場のない檻の扉が閉まる音のように聞こえた。


私は机の上の『根の帳』を閉じることもできず、ただ呆然と、赤い文字で埋め尽くされた紙面を見つめ続けていた。

文字たちが蠢く。

『自己憐憫』『傲慢』『劣等感』『毒』。

それらの言葉が、私の皮膚の下に潜り込み、根を張り、私という人間を内側から食い荒らしていく。


(これが、根守……)


東京でたまに感じた孤独なんて、生温かいものだった。

ここでは、孤独になることすら許されない。

私の心の中まで、彼らは土足で踏み込み、監視し、自分たちの色に塗り替えようとする。


ふと、前の席の慧くんが、背中越しに小さく溜息をついたのが聞こえた。

それは、諦めとも、憐憫ともつかない、微かな音だった。

彼もまた、何かを書かされたのだ。あの事務的なコメントの下に、どんな感情を押し殺していたのだろうか。

けれど、今の私には彼を慮る余裕などなかった。


自分の手首を見る。

そこにはまだ、何も巻かれていない。

白く、無防備な手首。

けれど、私には見えた気がした。

目には見えない、赤黒く粘着質な「根」が、すでに私の手首に巻き付き、脈打っているのが。

『根の帳』を通じて、私は彼らと繋がってしまった。

契約書にサインをしてしまったのだ。


牛松先生が教室に入ってくる。

「おはようございます、虚空様。おはようございます、皆さん」

いつもの挨拶。いつもの笑顔。

けれど、私にはもう、先生の顔が人間のものには見えなかった。

皺の一つ一つが木の皮のように裂け、瞳の奥には底知れぬ空洞ウロが広がっている。


「おはようございます、虚空様。おはようございます、先生」


私も唱和する。

私の声は、周囲の生徒たちの声と混ざり合い、溶けていく。

「私」が消えていく。

教室の湿度が、さらに上がった気がした。肺の中までカビが生えそうな、濃密で、逃げ場のない空気。

窓の外では、鉛色の空の下、巨大な忌み山が、私たちを見下ろしていた。

その頂にあるはずの巨木が、枝を広げ、笑っているような幻覚が脳裏をよぎる。


『よくできました』


頭の中で、誰かの声がした。

それは麗華の声でも、先生の声でもない。

もっと低く、もっと古く、そして無機質な、木々が擦れ合うような声。


私はガタガタと震える手で、ノートを閉じた。

閉じても、あの赤色は網膜に焼き付いて離れない。

私は知ってしまった。

この村において、「善意」こそが最も凶悪な凶器であり、「絆」こそが最も強固な鎖であることを。


もう、逃げられない。

私はゆっくりと、息を吐き出した。

吐き出した息さえも、この教室の空気に取り込まれ、誰かの肺へと吸い込まれていく。

循環する狂気。

私はそのサイクルの一部に、正式に組み込まれるのだ。


(第二章 完)

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