凍える、雨宿り
僕は記者をしている。
地元の印刷会社が発行するフリーペーパーの専属記者だ。
「隣の町で神社の祭があるよ」と先輩に教えられ、愛車で出かけてきた。
小さな町に、観光客はそれなりにいる。
「撮れるとこあるかな……」
神社裏手の滝で行われるメインイベントの神楽。なので滝壺をぐるりと観客が取り囲んでいるのだ。
小雨もパラついてきて、できれば借りもののカメラを濡らしたくない。
滝壺の右の斜面に、テレビ局のカメラマンが陣取っている。
ちょっと高いけどあそこに登れば絶好の撮影スポットだし雨宿りもできる。斜面の雑草をロープ代わりに掴み、ぐ、と土を蹴った。
「草が抜けちゃうわ」
ぎくりとした。立ち入り禁止?
振り返ると、同じくカメラを下げた記者風の美人が僕を睨んでいる。
「根っ子を張ってる草が抜けると、斜面が崩れやすくなるの。むやみに抜かないで」
「すみません……」
テレビカメラはいいのか、と喉まで出かかった。
「しかも桜の下の草なんて」
「え?」
「ここの町はね、桜を恐れてるのよ」
「少し前、山に入った人が倒れた桜の下敷きになって亡くなったの」
美人記者さんは、地方新聞に載りそうな事故のことを教えてくれた。
フリーペーパーにその手の深刻な話題は不向きなんだけど。
「その人は山の達人なのに、信じられないようなミスばかりしていた」
「ミス?」
「桜を切るのにチェーンソーでなく、鉈を使っていた」
「……」
「わざわざ薄暗い夜明け前に山に入った」
「……」
「複数人で行うべき伐採をひとりで行っていた」
「……」
「何故だと思う?」
「不法伐採とか。売り物にするつもりで」
「そうね。おそらくそうだろうと皆思ったわ」
「それ、ミスなんですか?」
「売り物にするなら皮よね。そして傷つけないよう慎重に倒す」
「ええ」
「その人は、桜の幹を自分の腰より高い位置で切っていたの」
「え?」
そんなもったいない。皮を取りたいなら、低い位置を切るべきなんじゃないのか?
「ロープを張って少しずつ調整しながら倒すべきなのを、ロープすら持っていなかった。黙って倒れてくる場所にいた」
「……」
逃げることもしなかった? 何故?
「百年を越える桜を切ってはいけないというのが、この町のルール」
美人記者さんは微笑む。
「皆それで納得したの。ああ、あれは桜に殺されたんだ、ってね」
はは、と僕は笑ったはずだった。
けれど背中に恐ろしく冷たい雨が貼りつく。
美人記者さんは、もう花も散った桜に溶け込むように、わらった。
ノンフィクションを元にした創作です。
怖い話苦手です。もう書かん……




