第9話 生命の草を探して
森の奥へ踏み入るゆうとティリア。
ティリアの母の命を救うための《生命の草》を探して。
しかしその道は、森の禁域──黒獣の縄張りでもあった。
第9話 生命の草を探して
朝の光が木々の隙間から差し込み、森の霧を金色に染めていた。
洞窟の前でゆうは背伸びをし、深く息を吸った。
「……よし、行くか」
クロがゆうの横に寄ってきて、軽く鼻を押し付ける。
ティリアも、少し緊張した様子で背負い袋を締め直した。
「森の奥……ほんとに行くの?」
「お前が言ってた《生命の草》が必要なんだろ。
だったら、行くしかないさ」
ゆうは笑って見せたが、胸の奥には不安が渦巻いていた。
この世界はまだ何も知らない。
見えない危険がいくつ潜んでいるのかもわからない。
だが──ティリアの母を助けたい。
その思いが、足を前に出させた。
「クロ、頼りにしてるぞ」
クロは一度だけ短く吠え、森の奥へ向かって駆け出した。
ゆうとティリアがその後を追う。
***
森は、洞窟の周辺よりもはるかに暗く、重い空気が漂っていた。
木々の幹が黒く太く、まるで“何かを拒む”ように立ち塞がる。
ティリアが小声で呟いた。
「この辺り……“黒獣”がよく出るって噂の場所……」
ゆうが横目でクロを見る。
彼はまるで当然のように森を進み、危険の匂いを嗅ぎ分けていた。
「黒獣って……狼みたいなやつか?」
「ううん。もっと大きくて、速くて……
人の言葉もわかるほど賢くて……
森を支配してる“魔獣”だって……」
ゆうは思わず苦笑した。
「人の言葉がわかるって……それ、もう魔物ってより仲間みたいなもんじゃないか?」
ティリアは苦笑しながらも、少し震えていた。
「見たことはないけど……村のみんなはすごく怖がってた」
クロは、その話を聞いているのかいないのか、静かに森の奥を見つめていた。
その瞳には、どこか知っているような色が宿る。
ゆうはクロの頭を軽く撫でた。
「まぁ……黒獣がいても、クロがいれば問題ないさ」
「……そうだといいけど」
***
しばらく進むと、森の空気が変わった。
生暖かく、どこか湿り気を帯びている。
木の根が複雑に絡まり、道はほとんど獣道のようになっていた。
クロが急に立ち止まり、低く唸った。
「……グルルッ」
ゆうが前に出る。
「どうした?」
クロの視線の先──
大きな岩の割れ目から、淡い緑色の光が漏れていた。
「あれ……光ってる?」
ティリアが目を見開く。
「あの光……古い薬師の書にあった。
《生命の草》は緑に光るって……!」
ゆうの胸が高鳴る。
「本当に……あるのか」
慎重に割れ目をくぐると、そこは小さな空洞になっていた。
湿った空気の中で、岩の根元から一本だけ光る草が生えている。
「……これが、生命の草……」
ティリアの声は震えていた。
ゆうは手を伸ばす。
光の葉は、指に触れた瞬間、わずかに脈打つように揺れた。
「摘むぞ。ティリア、袋を」
「は、はい……!」
ゆうが丁寧に根元から草を摘み取り、ティリアに渡す。
その時だった。
「──グルァァァッ!!!」
岩壁の向こうから、獣の咆哮が響き渡った。
空間が震え、ティリアが悲鳴を上げる。
クロが即座にゆうの前に立ち、牙をむいて唸る。
「黒獣……?」
ティリアの言葉が震える。
ゆうはクロを見た。
クロの目が、火のように赤く光っている。
まるで“仲間を守る”という強い意志が宿った目つきだった。
ゆうは唾を飲み込み、握り拳を作る。
「……来るぞ」
次の瞬間、木々が裂けるような音を立て、
闇の奥から巨大な影が飛び出してきた──。
ついに見つけた《生命の草》。
だがその瞬間、森の“本当の支配者”が姿を現す。
次回、第10話「黒獣の咆哮」。
ゆう、ティリア、そしてクロが、運命の対決に向けて動き出す──。




