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『気ままなポーション生活〜異世界転生したら万能薬スキル持ちでした〜』  作者: ゆう


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第39話 世界樹の光の中で

第39話 世界樹の光の中で


聖域の空気が、いつもより静かだった。


夕暮れ。

世界樹の若葉が淡い光を帯びて揺れている。

昼間の喧騒が嘘のように消え、森は深い呼吸をしているかのようだった。


「今日は……なんだか、空気が違うな」


ゆうが呟くと、クロが低く唸った。

警戒しているというより、何かを察しているような声音。


「ゆう」


背後からリュシアの声がした。

彼女は弓を背にしたまま、眉をひそめて世界樹を見ている。


「世界樹が……反応しています」


「反応?」


「はい。まるで……何かを伝えようとしているように」


世界樹は、ゆうの調合した聖庭水を吸うたびに瑞々しさを増していたが、

今はそれとは違う、淡い光の粒がふわりと浮かび始めていた。


ぽう、ぽう――

光は小さな蛍のように聖域を漂い、

ゆうとリュシアの周囲をゆっくりと包み込む。


「きれい……だけど、危なくはないよな?」


ゆうは無意識にリュシアの前へ出た。

その背にクロがぴたりと寄り添う。


リュシアは世界樹に近づき、目を細めた。


「……大丈夫です。攻撃性はありません。

でも、これは……世界樹が“誰か”に反応するときの現象です」


「誰か?」


「おそらく……あなたに」


その言葉と同時に、世界樹の幹が微かに震える。


次の瞬間――

光の粒が一斉に舞い上がり、まるで祝福のようにゆうの体に降り注いだ。


「うわっ……!」


眩しさに思わず目を覆う。

胸の奥が熱くなるような、温かい感覚が全身に広がる。


「ゆう!」


リュシアが駆け寄ろうとした瞬間――

光が強く明滅し、世界樹の根元から風が巻き起こった。


「危ない!」


ゆうは手を伸ばし、リュシアを庇おうとする。

だが――


間に合わなかった。


風が二人を包み込み、リュシアの身体がふわりと浮いた。

光の渦が彼女を引き寄せ、ゆうの方へと弾き飛ばす。


「きゃ――っ!」


「リュシア!」


反射的に、ゆうは両腕を広げて受け止めた。

彼女の身体が胸の中にしっかりと収まり、衝撃が膝に伝わる。


倒れこみながらも、ゆうはリュシアを強く抱きしめた。


「大丈夫か!?」


「ゆ、ゆう……離れ……」


「いや、今は離せない。光がまだ――」


言い終わる前に、世界樹の光がゆっくりと収まり始めた。


まるで、ふたりの無事を確かめたかのように。


リュシアはゆうの胸の中で震えていた。

その細い指が、ゆうの服をぎゅっと掴む。


「こ、こんな……あなたが、私を……」


「当たり前だろ……大事なんだから」


「っ……!」


その一言で、リュシアは息を止めたように動きを止めた。


そして、ゆっくり顔を上げる。


近い。

ほんの数センチの距離。


震える瞳が、まっすぐゆうを映していた。


「……何度も思いました」


「え?」


「あなたを守りたいと。

あなたのそばにいたいと。

でも……それが何なのか、言葉にできなくて……」


ゆうの胸に置かれた手が、少しだけ震える。


「ゆう……あなたが光に包まれたとき……

私……心が張り裂けそうでした」


「リュシア……」


「私は……あなたを失いたくない」


その瞬間、ゆうの胸にあった迷いが、すべて消えた。


言葉で返すより先に――

身体が動いていた。


ゆうはそっと手を伸ばし、リュシアの頬に触れた。


「――っ」


驚いたように目を見開くリュシア。


逃げる素振りは、どこにもない。


世界樹の光が、ふたりの間だけを照らすようにやわらかく揺れた。


「リュシア」


「……はい」


「ありがとう。

俺を守ってくれて。

ここにいてくれて」


リュシアは震える声で答えた。


「あなたが……私を名前で呼ぶと……変になります……」


「なら、もう少し呼ぶよ」


「ゆ、ゆう……」


距離が、自然に縮まった。


ゆうはゆっくり、彼女の頬を包み込む。

リュシアの瞳が震え、薄く開いた唇がわずかに動いた。


そして――


ふたりの唇が、そっと触れた。


甘く、静かな、けれど心に深く響くキス。


風が止まり、世界樹の光がふわりと舞った。


触れた瞬間、胸の奥が何かで満たされるような感覚にゆうは戸惑う。

だが、嫌ではない。

むしろ、この上なく自然だった。


リュシアの手が、ゆうの胸元をそっと掴む。

震えながらも、確かに返されたキス。


短いけれど、深い。


ゆうがそっと離すと、リュシアは目を閉じたまま小さく息を吐いた。


「……ゆう、どうしましょう……」


「どうもしなくていいよ」


「でも……心臓が……苦しいです」


「俺もだよ」


リュシアは少し目を開き、ゆうを見つめた。


「……ゆうが、好きです」


その低い告白は、確かに世界樹に届いた。


ゆうは息を吸い、優しく微笑んだ。


「俺もリュシアが好きだ」


風が、二人の間をやわらかく撫でた。


ゆうは立ち上がり、リュシアの手を取った。


「……帰ろう。聖域の家に」


リュシアはそっと手を握り返す。


「はい……どこへでも。あなたと一緒なら」


ふたりは世界樹の前を離れた。


その背を、世界樹の淡い光が祝福するように照らしていた。


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