第34話 リュシアの役割
第34話 リュシアの役割
朝、聖域は静かに目覚めていた。
やわらかな光が世界樹の若葉を照らし、
ほんのりと湿った土の匂いが漂っている。
ゆうは湧き水から戻ると、ふと異変に気づいた。
「……ん?」
世界樹の周囲が、昨日よりも整っている。
落ち葉が払いのけられ、土も少し均されていた。
「……これ、リュシアがやったのか?」
「……何のことでしょう」
少し離れた場所で、彼女は知らん顔をしていた。
「いや、世界樹の周り。きれいになってるだろ」
「……気になっただけです」
そう言いながらも、視線が若木へ向いている。
「誰も踏み荒らさないようにした方がいいと……思っただけです」
「なるほどな」
ゆうは小さく笑う。
「じゃあ、ここはリュシアの担当ってことでいいな」
「……担当、ですか」
「この森の守り役、みたいな感じで」
「勝手に決めないでください」
そう言いながらも、否定の力は弱かった。
「でも、助かるよ。
俺は生活まわりで手一杯だし」
「……あなたは、森の準備に集中してください」
「お、頼もしいな」
その言葉にリュシアは一瞬だけ視線を逸らし、
小さく鼻を鳴らした。
「当然です。
この木は……聖なる存在ですから」
指先が、そっと鉢の縁へ触れる。
「あなたが育てているとしても、それは変わりません」
「うん、まあな」
ゆうは頷きながら、聖庭水の瓶を取り出す。
「でもさ、あんまり気負いすぎるなよ?」
「……何故ですか」
「“守らなきゃ”って思いすぎると、疲れるから」
ちらりと笑う。
「ここはさ、“生きていく場所”なんだろ?」
リュシアは少し驚いたように目を瞬かせた。
「……あなたは、本当に変わっています」
「それ、褒め言葉として受け取っていいか?」
「微妙なところです」
だが、少しだけ口元が緩んでいた。
⸻
午前中、ゆうが簡単な棚を作っていると、リュシアが近づいてくる。
「……それは何ですか」
「ん? 食料とか道具置く場所。地面に置きっぱは不便でさ」
「……合理的ですね」
「社会経験の賜物です」
そう言って、少し誇らしげに笑う。
「あなたは、不思議なくらい“普通”です」
「失礼だな、それ」
「ですが……安心します」
その言葉は、驚くほど素直だった。
「普通でいることは、悪くありません」
ゆうは少し照れたように頭をかく。
「そう言ってもらえるなら、まあいいか」
⸻
昼過ぎ、森の風が少し強くなる。
リュシアは無言で周囲を確認し、低く呟く。
「……風の流れが変わっています」
「雨でも降りそうか?」
「いえ……ですが、東側の木々がざわめいています」
「警戒モードか?」
「念のため、様子を見てきます」
「了解。無理はするなよ」
「心配しなくても、戻ります」
そう言って森へ入っていく背中は、もう迷いがなかった。
その姿を見て、ゆうは思わず呟く。
「……すっかり、この場所の一部だな」
クロが「クゥン」と鳴き、同意するように尻尾を振る。
⸻
夕方、リュシアは問題なしと報告して戻ってきた。
「異常はありませんでした」
「助かった。見回り役は君に任せられそうだな」
「……役割が決まりつつありますね」
「悪くないだろ。居場所って感じするし」
その言葉を受け、リュシアは少し考えるように黙った。
「……私は、この森の“守り”になります」
静かだが、確かな声だった。
「あなたと、世界樹のために」
ゆうは少し驚きつつも、穏やかに笑う。
「心強いよ。ほんとに」
「……だからといって、調子に乗らないでください」
「はいはい、肝に銘じときます」
そう言いながら笑う彼に、
リュシアもほんのわずかだけ、微笑んだ。
こうして彼女は――
自らの意志で、この聖域の“役割”を選んだ。
……呼んだか?
ユウだ。
番宣なら、もう少し砕けた感じでいこうか。
――――
どうも。
物語の片隅で、だいたい振り回されている側の男、ユウです。
高笑いする悪役令嬢。
完璧すぎるカリスマ。
薔薇より鋭く、誰よりも美しい女――
それが
エリザベート・フォン・ローゼンクロイツ。
本来なら「近寄るな」が正解なんだろうけど……
なぜか目を離せないし、気づけば応援している。
失敗しても格好いい。
策を張っても尊い。
怒っても、なぜか人気が上がる。
……ずるい人だよ、本当に。
でもだからこそ、この物語は面白い。
笑って、呆れて、気づけば惚れてる。
そんな悪役令嬢の奮闘記だ。
⸻
『悪役令嬢になりたいのに、全部善行扱いされてしまうんですが!?』
もし少しでも気になったなら、
エリザベートを覗いてみるといい。
……沼に落ちても、責任は取らないけどな。
それじゃ。
物語の中で会おう。




