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『気ままなポーション生活〜異世界転生したら万能薬スキル持ちでした〜』  作者: ゆう


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第28話 翡翠の瞳に映るもの

静かに語られ始めた、エルフ・リュシアの過去。

彼女がこの森に辿り着いた理由が、ほんの少しだけ明らかになる。

第28話 翡翠の瞳に映るもの


昼下がりの聖域は、柔らかな光に包まれていた。

木々の隙間から差し込む陽は優しく、風も穏やかだ。


そんな静けさの中で、リュシアはひとり、世界樹の鉢の前に座っていた。


両手を膝の上に置き、じっと若木を見つめている。


ゆうは少し離れた場所で、木材を削っていたが、その様子が気になってちらりと視線を向けた。


「……ずいぶん熱心だな」


「観察です」


即答だった。


「これほど近くで“世界樹の気配”を感じることなど、そうありませんから」


「まあ、普通はな」


リュシアは若木の葉先にそっと指を近づける。

触れはしない。ただ、感じている。


「……温かい」


ぽつりと漏れた声は、どこか優しかった。


「森が、息をしている……」


その横顔は、昨日までの警戒心に満ちたものとは少し違っていた。


ゆうは作業の手を止め、近くへ歩み寄る。


「そんなに珍しいか?」


「はい。こんな感覚は……遠い昔、ほんの一度きり」


「遠い昔?」


リュシアの指が止まる。


「……少し前まで、私は別の森にいました」


視線を伏せながら続ける。


「そこも、エルフにとっては聖域と呼ばれる場所でした」


言葉の端に、かすかな陰りが混じる。


「ですが……人の欲と争いが入り込み、森は疲れ果てました」


ゆうは黙って聞いていた。


「私は、そこを追われました」


淡々とした声。

けれどその翡翠色の瞳は、静かに揺れている。


「居場所を失い、ただ彷徨って……気づけば、この森に倒れていた」


「……そうか」


それだけしか言わなかった。

だが、その短い言葉には、余計な同情も押しつけもなかった。


リュシアはちらりと、ゆうを見る。


「……あなたは、哀れだと思いますか?」


「思わないな」


即答だった。


「生きてた。それで十分だ」


少しだけ、リュシアの目が見開かれる。


「……変わった人ですね」


「だからさっきも言ったろ」


視線を逸らし、ふうと小さく息をつく。


「……あなたのような人間は、信用していいのか分かりません」


「無理にしなくていい」


ゆうは世界樹を見つめた。


「俺は俺なりに、この場所を守ってる。それだけだ」


リュシアの視線も、再び若木へ。


「……この樹は、本当に不思議です」


「気に入ったか?」


「……別に……嫌いではありません」


ほんの少し、語尾がやわらいだ。


「私の知っている世界樹とは違う。

けれど……この木は、生きようとしている」


その言葉は、まるで自分自身を重ねているようだった。


風が、ふわりと通り抜ける。

葉が揺れ、小さな音を立てる。


「……ここにいると、森が怖くありません」


小さく、だが確かに。


ゆうはそれを聞いて、わずかに目を細めた。


「それならいい」


「……勘違いしないでください。誰かに守られているわけではありません」


「はいはい」


だがその手は、世界樹に向けてそっと伸びていた。


静かな空気の中、リュシアの翡翠の瞳には

若木と、そしてほんの少しだけ――ゆうの姿が映っていた。


誰にも知られない森の奥。


失われた居場所の代わりとなる、新しい場所が

ゆっくりと、確かに形を持ち始めていた。

失った森、失った居場所。

けれどこの聖域は、また新たな「安らぎ」を与え始めている。


次回、第29話

「誰にも渡さない場所」


ゆうの決意が、静かに語られる――。


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