第23話 若返りの朝
世界樹の芽が動き始めた翌朝。
ゆうの身体にも、静かな変化が訪れようとしていた。
第23話 若返りの朝
その朝、ゆうは妙な感覚で目を覚ました。
全身が軽い。
森での作業続きで、
起きた瞬間は腰や肩が重いのがいつものはずだった。
「……昨日、そこまで無理したっけ?」
体を起こすと、背中の張りがまったくない。
肩も軽く、節々も痛くない。
「いやいや……休んだからだろ」
自分に言い聞かせながら立ち上がると、
クロがこちらへ駆け寄ってきた。
だが──
その動きに少し違和感があった。
クロはいつもより“念入りに”ゆうの匂いを嗅ぐ。
「なんだよ、どうした?」
クロは鼻を鳴らし、顔を寄せたり離したりしながら
ゆうの周りを一周。
まるで「お前誰だ?」と確かめているようだった。
「おいおい……寝汗でもかいてたか? 臭いなら言ってくれ」
クロは否定するように短く「ウォフ」と吠えたが、
どうにも様子がおかしい。
そのとき、ゆうはふと視界の“クリアさ”に気づいた。
「……視界が……広い?」
森の奥までよく見える。
光のコントラストが強く、
細かい葉脈までハッキリ見える。
50歳を迎えてから、
朝に物がぼやけることが増えていた。
「……もしかしなくても、目が良くなってる?」
いやいや、と自分で否定しながらも、
見えるものすべてがくっきりしている。
ゆうは、とりあえず世界樹の鉢の様子を見に向かった。
小さな芽は昨日よりわずかに伸び、
光を受けて柔らかく揺れている。
「おはよう。今日も元気だな」
芽の成長を確認すると、
ゆうは湧き水で顔でも洗おうと岩場にしゃがみこんだ。
水面に映った自分の顔を見た瞬間──
ゆうは固まった。
「……あ?」
顔が、違う。
まず、
朝いちばんの“むくみ”がない。
目尻のシワが薄くなり、
ほうれい線も見当たらない。
顔の輪郭がすっきりして、
あごのたるみが消えている。
「……いやいやいや、嘘だろ……?」
湧き水に手を入れ、
もう一度ゆっくり顔を覗き込む。
映っていたのは、
40代前半くらいの頃のゆうに近い姿。
20代ほどではないが、
明らかに数年、いや十数年は若返っていた。
胸がドクン、と跳ねる。
「……なん、で……?」
昨日、少し濃くなったポーションの味。
よく眠れたこと。
身体が軽いこと。
視界の透明感。
全部が一本に繋がる。
ゆうは、
世界樹の芽が出た日から変化が始まったと悟った。
「でも……そんな馬鹿な……」
信じられないように頬をつねる。
痛い。
現実だ。
クロが不安そうに顔を覗き込んでくる。
「……大丈夫だよ。
ちょっと驚いただけだ」
ゆうは震える声を抑えながら笑った。
しかし、心はざわついていた。
この若返りは偶然なのか、
聖域の力なのか、
世界樹の恩恵なのか。
「……もしかして……
俺の作ったポーション、強くなってる?」
そう呟くと、肩がふるえた。
ゆうは立ち上がり、
落ち着くために深呼吸をした。
「まあ……悪い変化じゃないよな」
そう自分に言い聞かせる。
少し若返っただけ。
身体が軽くなっただけ。
視界が良くなっただけ。
……それがどれほど異常なことか、
ゆうはまだ本当に理解していなかった。
ただ一つ確かなのは──
聖域の中心で、世界樹の芽がひっそりと揺れていた。
その揺らぎが、ゆうの運命をさらに変えていく。
ゆうはまだ信じられない。
だが、聖域で起こる変化はこれで終わりではなかった。
次回、第24話「受け入れるか、拒むか」。
若返りをどう捉えるのか──ゆうの心が揺れる。




