第21話 聖域の変化と拠点づくり
聖域の植物たちがわずかに動き始め、
ゆうは新たな生活の場を作り上げていく。
今日は“拠点作り”と、聖域の“静かな変化”が交錯する日。
第21話 聖域の変化と拠点づくり
朝の光が聖域に差し込むと、
ゆうはさっそく鉢の様子を見に歩いていった。
世界樹の鉢は、昨日と大きく変わっていない──はずだった。
だが、土の中央に小さな“盛り上がり”ができているのが見えた。
「……あれ?」
指で触れると、土がふわふわしている。
中から根が動いているような、そんな感触。
「気のせいじゃねぇよな……これは、芽が出る前触れってやつか?」
クロが横から覗き込み、鼻を鳴らして尻尾をふるふると揺らす。
その反応は「良い変化」と言っているようだった。
ゆうは思わず頬を緩めた。
「いいぞ……ゆっくりでいいからな」
次に果物の鉢を見る。
昨日よりも葉がしっかりしていて、
小さな新芽がひとつ出ているのが分かった。
「成長早いなぁ……聖域パワーってやつ?」
半信半疑ながらも、
ゆうは植物が元気に育っているのが嬉しくて仕方がなかった。
「よし……そろそろ、家らしくしようか」
ゆうは腰に手を当て、新しい拠点を見渡した。
倒れた世界樹の大樹が屋根の役割を果たし、
周囲の木々が自然の壁となっている。
ここを本拠地にするためには、
最低限の“生活スペース”を整える必要があった。
「まずは作業台だな」
ゆうは太めの枝と平たい木片を選び、
ロープの代わりに木の皮を割いて「紐」状に加工した。
クロが木片をくわえて持ってきたり、
邪魔するように横に寝転んだりする。
「おいおい、それはまだ使うって……あ、返した!えらいな」
そんなやりとりに笑いながら、
組み立てた木の板を地面に固定し、
簡易作業台が完成した。
「おぉ……形になってきた」
次に“収納棚”を作る。
倒れた世界樹の表皮の薄いパーツを剥ぐように切り出し、
岩場に沿わせて固定する。
聖域の岩肌には細かい溝があって、
木片を噛ませるだけで安定する場所が多かった。
「この地形……便利だな。
神様が“ここに住め”って言ってるみたいだ」
クロが「ウォフッ!」と元気よく鳴いた。
ゆうは笑って頭を撫でる。
「そうだよな、お前の家でもあるもんな」
拠点作りが進むほど、
聖域の“空気”が変わっていくのをゆうは感じた。
湧き水は昨日より透き通り、
飲むと体の奥が少し温かくなるように思える。
風が吹くと葉がささやくように揺れ、
日差しは柔らかく、まるで空間そのものが
“喜んでいる”ようだった。
「いや……気持ちの問題だよな、これ」
そう自分で言い聞かせながら、
それでも“普通の森とは違う”のを感じる。
しばらくして、作業はひと段落した。
作業台、収納棚、火を焚くための石組み、
木片を使った簡易椅子。
「……うん、いいじゃん。
ちゃんと“住んでる”って感じだ」
クロは満足そうに鳴いて、
ゆうの周りをくるくる回る。
「めちゃくちゃ気に入ってるな、お前」
ゆうは世界樹の鉢へ目を向け、
そっと手をかざした。
土の上が、ほんの少し膨らんでいる。
小さすぎて見逃すような変化だが、確かに“中で何かが動いている”。
「……明日あたり、芽が出るかもしれねぇな」
聖域は静かに揺らぎ、
新しい命を抱えるように光をまとっていた。
ゆうは気づかない。
今日つくった拠点、
湧き水、
空気、
鉢植えの植物──
それらすべてが少しずつ“彼自身”にも作用していることを。
ただ、穏やかな一日が過ぎていく。
しかしその間に、
世界樹の種は確かに力をため続けていた。
作業台、棚、火床──
ゆうは新しい生活の基盤を整えながら、
聖域のわずかな変化に気づき始める。
次回、第22話「世界樹の芽」。
ついに、世界樹の種が姿を見せる──。




