第18話 世界樹の種と木の鉢
聖域で見つけた謎の種。
ゆうはそれをただ埋めるのではなく、
“鉢植え”にして育てることを決める。
異世界の知識ではなく、
田舎キャンパー時代の“木工スキル”が輝く回。
第18話 世界樹の種と木の鉢
森の聖域の中心に横たわる巨大な倒木──
それに気づいた瞬間から、ゆうの胸は妙な高鳴りを覚えていた。
「やっぱり……とんでもなくデカい木だよな」
幹には脈のような紋様が走り、
触れると冷たいのに温もりが宿る奇妙な感触。
クロはその前で静かに座り、
まるで“敬意”を払うかのように目を伏せている。
「……お前、これがヤバい木だってわかってんだな」
ふと、根元付近に奇妙な光が反射した。
ゆうは近づき、枯葉をかき分ける。
緑と金が混ざった楕円の種。
「……やっぱりただの木の実じゃねぇよな」
手に取ると軽く振動しているような感覚があった。
クロが低く「ウォフ」と鳴き、
まるで“それは重要なものだ”と訴えかけてくる。
ゆうはしばらくその種を見つめ、それから呟いた。
「……植えるなら、このまま土に埋めるんじゃなくて……
ちゃんとした鉢に植えてやりたいな」
異世界の知識ではなく、
田舎キャンプ時代の“植物育成オタク”としての癖が勝っていた。
「よし……木をくり抜いて鉢にするか」
倒木は巨大だ。
しかも世界樹クラスなら木質も極端に硬いはず。
ゆうはナイフを抜き、幹の軟らかそうな部分を探した。
すると、不思議なことに──
切り込みを入れた木肌は、
ゆうのナイフを吸い込むようにスッと切れた。
「……おいおい、世界樹って切れるもんなのか?」
クロが見守る中、ゆうは夢中で木を加工し始めた。
内側をくり抜き、
底を平らにし、
側面に水抜き穴を開け、
さらに周囲に“模様”の溝を彫っていく。
気づけば、
世界樹の幹から作った簡易のウッドポット
が完成していた。
「……できた。
思ったより良い出来だぞ、クロ」
クロは尻尾を振り、完成した鉢の周りをぐるぐる回る。
ゆうは聖域の柔らかい土を掘り、
その土を鉢へ入れていく。
「土はこの聖域の土が一番良さそうだな。
なんか……栄養が詰まってる感じするし」
最後に、
手に持っていた世界樹の種をそっと置いた。
「……大事に育てるからな」
土をかぶせ、
鉢を湧き水のそばへ静かに置いた。
その瞬間──
鉢の中の種が微かに光を放ち、
土の表面へ薄く金の紋様が浮かび上がった。
ゆうは思わず息を呑む。
「今……光ったよな?」
クロが「ウォフッ」と頷くように鳴いた。
ゆうは鉢を見つめながら、
この世界での知識が全くないことを思い出す。
「……世界樹の種だなんて、
ゲームでしか知らねぇけど……育ててみる価値はあるよな」
知識の裏付けはゼロ。
でも、だからこそ挑んでみたいという気持ちが芽生えていた。
「よろしくな。……俺の新しい家族だ」
ゆうがそう呟くと、
聖域の風が優しく吹き、
鉢を包み込むように光が揺れた。
クロがその横に座り、誇らしげに胸を張る。
ゆう、クロ、そして世界樹の種。
三つの“新しい生活”がこの場所から始まろうとしていた。
世界樹の種を世界樹の木の鉢に植えたゆう。
その選択は、
聖域だけでなく、森全体に静かな変化を呼び始めていた。
次回、第19話「発芽」。
種は、本当に芽を出すのか──。




