第17話 森の奥の聖域
森のさらに奥へ踏み込んだゆうとクロ。
そこで彼らが見つけたのは、
静寂と光が満ちた、異様なほど神秘的な空間──。
ゆうはそこで“特別な力”を持つ水に出会う。
第17話 森の奥の聖域
ゆうとクロが見つけた新しい拠点の候補地──
大樹が倒れて自然の屋根を作り、小さな湧き水が走るその場所は、
どこか異様なほど静かだった。
「……空気が澄んでるな」
ゆうは深く息を吸い込む。
森の匂いに混じって、わずかに甘い香りが漂っていた。
湧き水のそばには苔が厚く生え、淡い光を発している。
光る苔──普通ではない。
「これ……前の洞窟にはなかったよな」
ゆうが指で触れると、ひんやりと冷たい。
光は弱いが、夕暮れでも地面がぼんやりと照らされるほどだ。
クロが湧き水の前に立ち、真剣な表情で周囲を見回す。
尻尾はゆっくり揺れ、どこか慎重な動作。
「お前も何か感じるのか?」
クロは小さく「ウォフ」と鳴き、
そのまま湧き水の奥へ歩き出した。
ゆうも後を追う。
湧き水は泉ではなく、細長い“水脈”のように続いていた。
その先──
開けた空間があった。
「……なんだ、ここは」
木々が自然と円を描き、
まるで“円形の部屋”のようになっている。
地面には枯葉がなく、
風もないのに、薄い光が常に揺らぐように漂っている。
まるで──
魔力そのものが満ちている場所
のようだった。
ゆうの腕の毛が総立ちになる。
「……ここ、ただの森じゃねぇな」
クロが中央へ進むと、
木々の上──葉の隙間から光が差し込み、
まるでクロだけを照らすように円形の光が落ちた。
クロはその光の中に座り、静かに瞳を閉じる。
ゆうは驚いた。
「落ち着いてる……まるで、自分の場所だってわかってるみたいだな」
その時だった。
ゆうの足元にある苔がふっと明るく光り、
湧き水の音が僅かに大きくなった。
そして──
ゆうの胸の奥で、何かが“反応”する。
(……なんだ……この感覚……)
体の奥がじわりと温かくなり、
まるで力が満たされていくような感覚。
ゆうは慌てて皮袋を確認する。
水脈近くに置いていた“ポーション用の水袋”が、
かすかに光っていた。
「……おいおい、これは……」
ゆうは皮袋を持ち上げる。
水の中に光の粒が溶け込んでいる。
(浄化……いや、違う。
水自体に“力”が宿ってやがる。
ここは……魔力源か?)
ゆうが皮袋を握ったままクロを見ると、
クロが静かに目を開いた。
その瞳は、
“ここを守る”
と言っているようだった。
ゆうは息を飲んだ。
「ここ……お前の縄張りでも特別な場所なんだな」
クロはゆっくり頷くように尻尾を揺らした。
ゆうは湧き水をもう一度見た。
透明で、底が見えるほど澄んでいる。
だが、ただの水ではない。
ポーションの質を何段階も引き上げる“聖域の水”。
ゆうは胸の奥で何かがカチリと音を立てた気がした。
「ここだ……
本拠地は、この場所しかねぇ」
風が吹かないはずの森で、
一瞬だけ優しい風がゆうの頬を撫でた。
まるで森が、ゆうの選択を歓迎しているかのように。
「よし──ここを俺たちの家にするぞ、クロ」
クロが力強く吠え、森に響き渡った。
新たな拠点作りが、ここから始まる。
“黒獣の聖域”──ゆうが見つけた、異世界で初めての“本拠地”だった。
新拠点となる森の聖域。
そこには、ただ静かなだけでなく、
ポーション作りを根本から変えるほどの力が眠っていた。
次回、第18話「聖域の拠点作り」。
ゆうはここで“森の家”を本格的に作り始める──。




