第16話 森に残されたもの
ルークの訪問により、
“人間が森に来る可能性”を初めて実感したゆう。
だからこそ、彼は決意する。
より深い森に新拠点を構えると──。
第16話 森に残されたもの
見習い神官ルークが森を去っていったあと、
ゆうは洞窟の前で深く息を吐いた。
「……ついに来ちまったか。
人間が、ここまで」
クロが隣で尻尾を揺らしながら見上げてくる。
ゆうはその頭を軽く撫でた。
「ルークは悪いやつじゃなさそうだったが……
一度人が来たってことは、また来る可能性あるよな」
森の奥へと視線を向ける。
自分の焚き火の煙──
ティリアが帰ったときの足跡──
黒獣の咆哮の痕跡──
(この場所が“人間に見つかる”ってことだ)
ゆうは、心のどこかに嫌な予感を覚えていた。
「ここは……あくまで“最初の家”。
第二拠点ってことにして、
もっと奥に“本当の拠点”を作るべきだな」
クロが「ウォフ」と低く短く鳴く。
その反応はいつもの“同意”の声だった。
「やっぱりお前も感じてたか」
***
夕暮れ前、ゆうは簡単な荷物をまとめた。
水の入った革袋、削った木のナイフ、干し肉、
そして“ポーション用の水入りの皮袋”。
洞窟を振り返る。
木の壁、ベッド、燻製棚──
ここは十分暮らせる。
だが“知られる”場所としては危うい。
「ここは第二拠点に残しておく。
誰かが迷い込んできても、最低限の生活はできるように」
ゆうの言葉に、クロは洞窟の中へ入り、
自分の寝床の周りを回って名残惜しそうに鼻を鳴らした。
「そんな顔すんなよ。
もっと広くて、もっと静かで、お前の縄張りにもなるような……
いい場所を探そうぜ」
クロが誇らしげに胸を張る。
「よし、行こう」
***
ゆうとクロは、これまで踏み入れたことのない森の深部へ向かった。
足元は苔が厚く、木々は高く天へ伸び、
空を覆う葉が光をわずかに通すだけ。
一歩踏み出すたび、空気が少しずつ変化する。
「……静かだな」
鳥の声も、小動物の走る音もない。
ただ、風と木々の呼吸だけが聞こえる。
クロは耳を動かしながら周囲を警戒していた。
ゆうは思わず口笛を吹いた。
「こりゃ……キャンプだったら最高の場所だな」
しばらく歩くと、森の奥の奥に開けた場所を見つけた。
大樹が倒れて自然の屋根を作り、
湧き水が岩肌を伝って小さな水場になっている。
風が優しく抜け、獣道からも遠い。
ゆうは息を呑んだ。
「……ここだ」
クロがゆうの横に立ち、静かに鼻を鳴らす。
一瞬、黒い瞳が誇らしげに光った。
「ここを本拠地にしよう。
人が絶対に来ない、森の奥の……俺たちだけの場所だ」
ゆうはその場に腰を下ろし、
湧き水をすくって飲んだ。
冷たさが喉に染み渡り、心の奥まで澄んでいく。
「いい……すげぇいい……!」
クロが尻尾を大きく振り、ゆうの顔を舐めてきた。
「よし、ここを新しい家にしよう。
俺たちの……森の拠点だ」
その言葉に、森の奥で風が鳴った。
ゆうとクロは、誰にも知られない静かな地で、
新たな生活を始める準備を進めていく。
ゆうとクロは、洞窟を“第二拠点”として残し、
さらに深い森へと足を踏み入れた。
その先に広がるのは、
未知の場所、未知の気配、そして新たな出会い。
次回、第17話「森の奥の聖域」。
ゆうが見つけた新しい“家”には、思わぬ秘密が眠っていた──。




