第11話 黒き守護者
黒獣との激闘の果てに明かされる、クロの正体。
そして、ゆうは決断する──
村へは行かず、この森で生きていく。
第11話 黒き守護者
黒獣の巨体が地面に倒れた。
衝撃で地面が揺れ、森の奥に鳥たちが飛び立つ気配が広がる。
ゆうは息を呑み、ゆっくりと前に進んだ。
「……終わったのか?」
クロは肩で息をしながらも、堂々とその亡骸の前に立っていた。
血に濡れた黒い毛並みは光を反射し、まるで炎のような威厳を放っている。
ティリアは震えながら言った。
「黒獣同士の戦い……こんなもの、初めて見た……。
クロは……本当の黒獣の王……?」
ゆうはクロを見つめた。
クロはその大きな瞳を細め、静かにゆうへ顔を向ける。
その目は、「気づいたか?」とでも言いたげだった。
ゆうは苦笑しながらクロの頭に手を伸ばした。
「お前……すげぇ奴なんだな。最初から俺を守ってくれてたんだ」
クロは静かに喉を鳴らし、ゆうの手に体を寄せる。
この森で一人倒れていたゆうに最初に寄り添った理由。
それは同情でも偶然でもなく──
「守護者として、人間を見捨てなかった」という本能だったのかもしれない。
ティリアが涙ぐんだ声で話す。
「ありがとう……クロがいなかったら、私も……ゆうも……」
ゆうはティリアを見た。
手の中には《生命の草》がしっかりと握られている。
その葉は淡い光を放ち、彼女の震えた手を照らしていた。
(彼女のお母さんが救われるなら、それでいい──)
森の風が静かに吹き、ゆうの心に決意を刻む。
「ティリア。お前は……村に戻れ。
お母さんを救ってやれ。それが一番大事なことだ」
ティリアが目を見開いた。
「え……? ゆうは一緒に来ないの……?」
ゆうは火のような戦いの跡を見ながら、はっきり首を振った。
「悪いが、俺は村には行かない。
俺の力が知られたら……おそらく、ろくなことにならない」
“ポーションを作れる”
“素材なしで治癒が可能”
この世界ではそれは奇跡であり、同時に“争いの種”だ。
ゆうは苦笑した。
「俺みたいなおっさんが、村でチヤホヤされる世界じゃねぇよ。
森のほうが、まだ落ち着く」
ティリアは唇を噛んだ。
「でも、でも……助けてもらったのに……!」
ゆうはティリアの頭をそっと撫でた。
その肩が小さく震える。
「恩返しなんて考えなくていい。
お前の母ちゃんが元気になってくれたら、それだけで十分だよ」
クロがゆうの横に並び、ティリアに近づく。
穏やかな目でティリアを見つめると、軽く肩を鼻先で押した。
「……クロも、そう言ってるな」
ティリアはついに耐えきれず、涙を流した。
「絶対……また来る。
ゆうとクロに……ちゃんとお礼を言いに来るから」
「ああ。森の奥で待ってる。
この場所なら、人も来ないし……俺には丁度いい」
ゆうは空を見上げた。
迷いが晴れたような、まっすぐな目だった。
ティリアは涙を拭き、深く頷いた。
「行ってきます。……お母さんを助けてくる」
ゆうとクロはその背中を静かに見送った。
やがて少女の足音が遠ざかり、森の静寂が戻る。
ゆうはクロの背に手を置き、にやりと笑った。
「……さて、黒き守護者さんよ。
ぼっちのおっさんと、ここでスローライフ続けようぜ」
クロが誇らしげに「ウォフ」と鳴き、頭を寄せてきた。
森の奥で、二つの影がゆっくりと歩き出す。
新しい日常が、静かに幕を開けた。
ティリアは希望を胸に村へ戻り、
ゆうとクロは森での静かな暮らしへ戻っていく。
次回、第12話「森に残る理由」。
ゆうがこの森で暮らす本当の意味が、少しずつ形になっていく──。




