第10話 黒獣の咆哮
生命の草を手に入れたその瞬間、
森の支配者――“黒獣”が姿を現す。
ゆうとティリア、そしてクロ。
三人が初めて向き合う、“森の本当の恐怖”だった。
第10話 黒獣の咆哮
巨大な影が森の奥から飛び出した。
木々をなぎ倒し、地面を揺らすほどの衝撃。
その姿に、ティリアが悲鳴を上げた。
「や、やだ……黒獣……!」
ゆうの目に飛び込んできたのは、カバのような太い胴体、
そして熊のような腕を持つ巨大獣。
全身が黒く、毛は鎧のように硬そうだった。
「で、でかすぎだろ……!」
黒獣はゆうたちを見つけると、唸り声を響かせた。
「グオオオオォォ……ッ!!!」
牙が食いしばられ、ヨダレが滴る。
明らかに“敵”として認識している。
ティリアが震えながらゆうの服を掴んだ。
「逃げなきゃ……死んじゃう……!」
ゆうはクロを見た。
クロはゆうの前に立ち、巨大獣を射抜くように睨みつけていた。
「クロ……!」
クロの毛が逆立ち、低い位置から深い唸り声が響く。
「グルルルル……ア゛ッ……!」
それはこれまで聞いたことがない声だった。
まるで獣ではなく、
“森そのもの”が唸っているような重く冷たい響き。
黒獣がクロを見た瞬間──
動きが止まった。
その赤い瞳が、驚きと怒りの入り混じったように揺れる。
「……え?」
ティリアが気づく。
「どうして……黒獣が、黒獣に怯えてるの……?」
ゆうは息を飲んだ。
クロの体から、黒い靄のようなものが立ち上り始めていた。
まるで“同族としての威圧”を森に撒き散らしているようだ。
ゆうの心臓が高鳴る。
「お前……まさか……」
黒獣が怒りの咆哮を上げ、突進してきた。
木々をなぎ倒し、地響きを立てながら一直線に。
「ティリア、下がれ!」
ゆうはティリアを抱えて後ろへ飛び退く。
クロが地を蹴り、黒い影のように前へ飛び出した。
「グルアアアアッ!!!」
クロの咆哮が森全体を震わせた。
次の瞬間、黒獣の足が止まった。
一瞬の静寂。
クロが影のように動き、巨体の横腹に噛みついた。
黒獣の毛皮を引き裂き、血しぶきが飛ぶ。
「グオォォッ!!!」
巨獣が暴れ、クロが振り払われそうになる。
ゆうは息を呑みながら、ポーションを握りしめて叫んだ。
「クロ! 無茶すんな!」
しかしクロは振り向かない。
その目はただ一つ、
“守るべきもの”を見据えている。
ゆうとティリアを守るために。
ゆうの胸に、熱い何かが込み上げた。
「……頼む。クロ……負けるな……!」
黒獣の咆哮とクロの唸り声が交錯し、森全体が振動する。
ティリアが震える声で呟いた。
「どうして……どうして黒獣が、黒獣に……?」
彼女はクロを見て、絶句した。
「まさか……クロって……“本物の黒獣”……?」
ゆうはその言葉に返事ができなかった。
ただ、目の前の黒い影は──
自分とティリアを守るために、命を懸けて戦っている。
それだけは、はっきりとわかった。
戦いはまだ終わらない。
森が鳴り響く。
新たな黒獣の咆哮が、空へと響いた──。
⸻
ついに始まった黒獣との戦い。
その中で見え始めるクロの正体。
次回、第11話「黒き守護者」。
クロがなぜゆうに懐いたのか――
そして彼が持つ“本当の役割”が明らかになる。




