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進次郎が異世界に行ったら異なる世界だった  作者: ビヨンドほうじ
第1章 進次郎、異世界に行く
9/9

9. 決着、誕生日に生れた君に

(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)

挿絵(By みてみん)


暗い目をした男は、シンジローらに近づきながら、芝居がかった声で嫌味ったらしく挨拶をする。


「コースカ商会のヨーコ嬢、そしてシンジュロー?だったかな?はじめまして。私は魔術師ベツリ。そして哀れな少女ヴェルニーにはお久しぶり。もうすぐさようならになるがね。」


魔術師を名乗った男は、ヴェルニーに冷たい目線を送り、つづけて、ヤマズに目を向けて口悪く迫る。


「っつたく、お前のところの使用人が知らせに来てくれて助かったぜ。まさかこんなことになってるとはな……ヤマズ。勝手に契約解除されるとこっちが困るんだよ」

「いや、しかし」

「大体、俺が債権買取の金払ってんだから、お前が勝手に解除するのは筋が違うだろうがよ」

「あ……あぁ…」


ヤマズは気まずそうに答える。この魔術師がヤマズにこの債権詐欺を持ちかけた張本人らしい。

この魔術師は自分で金を払って債権をまとめ、ヤマズに渡した。条件はヴェルニーへ代償契約を施すこと。ヤマズからすれば元手無しで債権が手に入るアルバイト程度の仕事だった。


「自腹で金払ってお膳立てして、満了まで後少しだ。解除なんてしたら俺が大損だろうがよ!」

魔術師ベツリは自分の利益をがなり立てる。


「ベツリ。この魔法具があれば、この娘の借金なんかゴミみたいなもんだ!分け前は渡せる!」

ヤマズは天籟(てんらい)話し手(スピーカー)に既に魅了されている。

「勝手なこと言うな!俺は金よりも大事なもののためにわざわざ仕組んでんだからよ」

「この契約魔法で貴方が得る利益は?」


ヨーコが割って入る。

魔術師ベツリは、こともなげに答える。

「……自分の魔術総量の上限の10%アップ」

「はぁ?そんなもののためにヴェルニーの命をかけたの?」

ヨーコ自身も利に聡いタイプだが、他人の命を軽んじる言動は許せなかった。


「そんなものって言うなよ。魔力総量の上限ってのは魔術師にとっては生命線なんだぜ。これひとつで大きな山に関われるかが決まるんだ。知らないのか?」

魔術師ベツリは手をひらひらさせてからかうように言う。


「……知ったこっちゃないわよ…反吐がでるわ」

ヨーコは魔術師を睨みつける。


「こういうのはさ絶対成立する契約にするのが大事なわけ、だからさ、こいつみたいに頭の弱いやつ相手にするのが一番いいんだよ」

「最低っ!」

ヨーコが食って掛かろうとするのを、進次郎が制し、魔術師ベツリに声を掛ける。


「ベツリ君。君のメリットは聞いてない。契約者同士の意思の問題だろう?ヤマズ君とヴェルニー君の」

進次郎はあくまで冷静に問う。だが、言葉の端々に力みがあった。

「そうだよ……そうなんだが、それだと俺が困るって話をしてたんだが……聞いてなかったか?」

「それは君の言い分だ。この契約、解除してもらおう」

「いやいやいや……もっと良い解決策があってさ……強制執行っていうんだけど」

「何?」

「代償契約の条件にはこうある。『第10条強制執行、本契約の術者は両者の合意によらず任意の時期に、強制的に回収を実行できる。ただし、成功報酬と代償は全体の半分とする』つまり、その娘の魂の半分と俺の魔力総量上限の5%アップの引き換えだ!」

魔術師ベツリは鞄から巻物を取り出し、文言をさす。

「なんだって?」

突然の説明に進次郎はたじろぐ。

「俺もこの条件の発動を使うのは初めてだ。今回みたいに勝手に契約解除されそうなときの予防措置なんでね…魂が半分になった猫人間がどうなるか……興味あるね……」

ベツリが巻物を掲げてつぶやき始め、巻物から紫色のモヤが染み出してくる。禍々しい紫。

「契約魔術が発動する!まずい!このままではヴェルニーが!」

ヨーコが叫ぶ。

ヴェルニーは恐れに眼を見開いて、そして膝をついて、うなだれた。

「ヨーコ、シンジロー、ありがとう……もう良いんだニャー」

ヴェルニーは諦めを受け入れようとしていた。

「やっぱり……やっぱり……全部…全部…わたしがわるかったんだニャー」

涙が頬を伝う。

「せめて、生きてもう一度おとーとに…会いたかったニャー」

弱々しく呟く。巻物から出たもやが、ヴェルニーの生命を狙うかのように近づいてきた。

そのもやを押しのけるように進次郎は割って入り、弱々しく震えるヴェルニーの小さい肩を、優しく包みこんだ。


「ヴェルニー。聞いてくれ」

ヴェルニーが泣き顔を上げる。

「『人はこの世に生まれた以上、生きるんだ』『君の人生なのだから、君は生きるべきだ』」

そして薄暗い部屋に白い閃光が煌めいた。ヨーコを救ったときのように。

光の中、砂時計の紋が砕け散る。尽きた砂も残った砂も、砂時計そのものが宙に弾け飛んだ。禍々しい紫色のもやも霧散した。

「ば……馬鹿な?強制執行ができない?」

魔術ベツリがたじろいで、巻物を見る。そこにあるのは、なにも書かれてない、空白の巻物だった。

「け…契約が白紙に?解除でも執行でも上書きでもなく、なかったことになっている?そんな馬鹿な!」

魔術ベツリとヤマズは信じられないという表情。

「わ…わたし……助かった?」

ヴェルニーは自分の肩を見る。そこには契約の砂時計の紋はもうなかった。

「もう大丈夫よ。あなたの弟と明日の誕生日迎えられるわ」

ヨーコが優しい声で、ヴェルニーに安堵を与える。

「そうです。『明日が誕生日ってことは、明日は貴女がうまれた日』ってことでですね」

進次郎はヴェルニーに語りかける。

「なにそれ……当たり前だニャー」

「当たり前のことが、大事なんです」

進次郎は微笑み返す。

「ヨーコ!シンジロー!ありがとおおおおおおお!!」

喜びを爆発させるかのようにヴェルニーは進次郎とヨーコに抱き着いた。

呆気にとられているヤマズと魔術師ベツリにヨーコは近づいて、告げる。

「ヤマズ。残念だけど交渉はおしまいね。解除じゃなくて強制執行をしたのだから条件不成立。またね。」

スピーカーを肩にかけて、ヨーコは部屋を後にする。

ヤマズは呆然として反論も出ない。


「では失礼します。あまり悪いことをすると次は何が起こるかわかりませんよ?」

進次郎はそう警告するとヴェルニーと共にヨーコの後を追った。


残された悪党二人は、今起きた混乱を飲み込めず立ち尽くした。


「さっき天の声が言った『大きな取引。災い』そのままじゃないか……天籟(てんらい)話し手(スピーカー)……本物なのか……」

「契約魔法を『なかった』ことにするなんて……ありえない……」

二人とも呆然と呟くのみであった。

(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)

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