49. 進次郎、悪徳商人ヤマズに謝罪し、感謝する
(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)
王子のいら立ちの退出の後、謁見室の緊張と混乱は頂点に達した。人々はどよめき、口々に語りあっている。「王子の乱心か……」「いや、天籟の語り手が預言をもたらす魔法具でなかったのは確かだ……」「しかし、シンジロー殿に二心があろうとは思えぬ……」
ただ、王子ほどに一方的に進次郎を糾弾する声は無かった。
「これ……どうなっちゃうの?」
栄えある勝利式典での思わぬ展開に、戸惑うヨーコに進次郎が声をかける。
「ヨーコ。ついにこの時が来ました。行きますよ。ついてきてください」
とまるですべて予期していたかのような口ぶりで。
「ついにって……何が?」
問いには答えずに、進次郎はヤマズに向かって歩を進める。
その悪徳商人は相変わらずのでっぷり太った赤ら顔。敵対していた進次郎を陥れたことで、勝ち誇った笑みを浮かべている。
「なっ……なんだよ聖者殿、処罰は免れたようだが、王子からあそこまで嫌われちゃ王家相談役もおしまいだな……かはっ!いい気味だ」
そのあざけりの言葉に、進次郎は頭を下げつつ、謝罪の言葉を返した。
「大変申し訳ありません。私は聖者などではないのです」
「は?」
ヤマズにとってその謝罪はあまりにも意外だった。
「むしろ、聖者の対極の存在……目的を達成するために、嘘も、策も、脅しも厭わない……私は政治家なのです……ヤマズさん、あなたのような生き馬の目を抜くような商人に近いのだと思います。現に、今も私はあなたを利用してしまっている……」
頭を上げ、ヤマズを見つめる進次郎の表情は、神妙で、心底すまなそうなものだった。
「なんだその顔は?利用?何を言ってる?」
ヤマズには、進次郎が言っていることも、その悲し気な表情もまるで理解できてないようだった。
進次郎は再び、深々と頭を下げる。
「ですが、本当にありがとうございます」
「なに?」
ヤマズは突然の謝意に戸惑う。
「私の『セクシーな解決策』があなたのおかげで成功しそうです。あなたを利用する形になったこと、申し訳ないと思っています」
「セクシー?何のことだ?!」
何一つ理解できないという困惑の表情を浮かべるヤマズ。
対照的に進次郎は晴れやかな顔で言い切った。
「一人でも多くの人を救うことができれば、それが私にとってのセクシーです」
「ま、負け惜しみか?」
ヤマズはかろうじて言い返すが、進次郎が強がりでなく、本心から言っていることは明白だった。
「あなたは行動力があり、見る目もある方です。かならずや良い商人になれます」
進次郎はヤマズの困惑の目を真っ直ぐ見据えて、賞賛を送る。
ヤマズは反応に困って、僅かに目をそらしてしまう。
「どうか人を傷つけることないよう、まっとうな道を歩んでください。私からのお願いです」
進次郎は改めて深々とお辞儀をする。
「お……おぅ」
予想外の謝意と激励を受けて、ヤマズは毒気が抜かれたような顔をした。
「ではごきげんよう」
進次郎がさわやかな笑顔で挨拶をしたところで、ヨーコが進次郎の左手首を掴む。
「シンジロー!『セクシーな解決策』って……これが元の世界に帰るための作戦なの?どういうこと?」
ヨーコが何度も聞いてきた質問。今まで何度もはぐらかされてきた疑問。
進次郎が言うところの『セクシーな解決策』が一体何なのか?いまだにわからないのだから無理もない。
「そうです。あと少しです」
進次郎は、ヤマズの傍らにあるスピーカーをもちあげ肩に掛ける。
この世界に来る直前の選挙演説で、自らスピーカーを片付けたときのように。
「行きましょう。最後のピースを嵌めるために、ヴェルニーが手を打ってくれています」
先程からヴェルニーの姿が見えない。
そしてヤマズが落としたはずのマイクも床から消えていた。
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