44. 宰相ミツバ、45精霊を撃つ
(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)
「ミツバ!打つ手があるのか?」
ウィリアム王子がすがるように聞く。危機の連続で王子の端正な顔もやつれつつある。
宰相ミツバは、それには答えず、無言で足元に転がった魔法杖を拾い上げる。
「あまりの破壊力に気圧されて、気づいていませんでしたが、そもそも精霊同士には相性があります。相克と相生……今も45精霊の力は全てが発揮されているわけではない……」
独り言のように呟いて、魔法杖の先端を眼の高さに構える。
「非常識すぎて……成功するとは思えませんが…精霊同士の相打ちを狙えば……あるいは……」
宰相ミツバは、起死回生の策を弱々しく呟く。
「そんなことできるのか?」
ウィリアム王子の弱々しい声。
「私も元は魔法使い。どの属性であれ、精霊との交信を行うことはできると思います。しかし、こんな高位精霊とつながりを持ったことはない……正直怖い……」
いつもは冷静沈着な宰相ミツバが弱音を吐く。
「シンジロー殿、さっきの無茶な言葉をミツバにもかけてやってくれないか」
シバ将軍が、進次郎の肩に手を載せて、かすかな茶目っ気を交えてお願いする。
「承知しました」
進次郎は微笑んで、危機に立ち向かう勇気を振り絞ろうとしている宰相ミツバを応援する。
「何事もやってみてください。『一度やれれば、二度目もやれます』」
その言葉とともに、白い幾何学模様が、ミツバを包み込む。魔法杖も発光を始める。
その輝きで白い繭の空間がさらに明るさを増す。
「ふ……こんなこと一度だってできるものか!」
弱気な言葉とは裏腹に、その言葉の裏には静かな覚悟の響きがあった。
「行くぞ!」
危機を食らいつかさんばかりの高揚した笑顔を見せながら、ミツバは魔法杖を横に構え、詠唱を始める。
「全精霊に申す!アシャの理に誓い、万象の秩序をここに定める。 五元の鎖よ、力を喰らい、理を貫け!我、鎖をつなぐ楔を定める者也!五柱の理よ巡れ、鎖を環して調律し相剋せよ! 」
一気に詠唱を終えると、ミツバが魔法杖を掲げる。先端の白い光の輝きはツタのように広がり、進次郎たちを包む、白い光の繭を食らいつくし、大樹のようになって、破壊吹き荒れる大地に屹立する。
大樹の枝は、その一つ一つが、力強く伸び、思う様力を振るう、精霊たちに接触する。
大樹の枝が、火精霊たちの動きにふれると、彼らは一瞬、停止し、そして、彼らの全身から放たれる灼熱の炎は、その勢いを極限まで維持したまま、対峙する氷精霊たちに狙いを定めた。
火精霊たちの放つ灼熱の波は、万象を灼かんと、荒れ狂い、空気を歪ませ、氷精霊たちの氷塊に襲いかかる。氷は瞬時に融解し、激しい音を立てて水蒸気へと爆発した。凄まじい熱と蒸気の奔流がほとばしる。
先程、ミツバが見た、相剋の片鱗――それが今、最大限に発揮された。
溶解の危機に瀕した氷精霊たちは、反射的な生存本能で力を振り絞る。彼らは、生き残るため、隣接する水精霊たちが生み出した巨大な濁流に向かった。
濁流は、すぐさま凍りつき、巨大で荒々しい氷の壁と化す。凍結から身を逃れるように、水精霊たちは激しく水面を揺らし、苦悶の波動を放った。
水精霊の痛みが、怒りの力へと転じる。氷塊を含んだままの濁流が土精霊たちへと容赦なく襲いかかる。土精霊たちは岩塊と砂塵をまき散らし、崩壊の悲鳴を上げた。
土精霊たちが、自らを巨大な岩の柱へと変貌させた宙に伸びる。結果、風精霊たちの生み出した広大で破壊的な暴風は、この無数の岩柱の群れによって遮断され行き場を失う。
行き場を失った暴風は、方向を変え、唯一の逃げ場である戦場中央――最初に相剋の連鎖を生み出した火精霊たち――へと逆流し、火炎を吹き消していった。
五大精霊はお互いの相克を発揮し、姿を消した。
そこに残ったのは、白く天をつく大樹だけだった。
激しい精霊の衝突が収束した広場は、この世の破壊を集めた様な有り様になっていた。灼熱で石畳はガラス化し、急冷された溶岩のような石が転がる。更にはそれらを押し流した濁流の水、歪んだ地面に渺渺たる風が吹いていた。
王宮は半壊し、壁が崩れて謁見室の中が露出しているのが見える。
完全なる破壊の光景。だが、それをもたらした精霊たちの姿はここにはない。
轟音は鳴りを潜め、無音の光景が広がっている。
「まさか……本当にうまくいくなんて……」
ミツバは、へなへなと地面にへたり込んだ。へたり込む石畳には、暴風で様々なものが散らばっている。
「ミツバ!一度できたから二度目もできそうだろう?!」
シバ将軍が、へたり込むミツバに軽口で声を掛ける。
「こんなこと……二度とごめんです」
ミツバは先程のシバ将軍と同じセリフで返した。
「それに……精霊の頂点の精霊王がまだ残っています。」
破壊された大地に屹立した光の大樹が、枝葉の方から散り、中空に消えかかろうとしている。
その消えつつある大樹の根元に、黒い魔術師が立っている。
精霊王はまだそこにいる。
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