4.猫少女ヴェルニーの受難
(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)
日が落ちる前に、進次郎とヨーコは街までたどり着いた。木の塀で囲まれた活気ある街。
門の向こう側には、路地がくねっており、その左右に建物が立ち並んでいる。
「さぁついた。ここが私の街、ガターボード。少しガラは悪いけどいい街よ」
門をくぐりながら、ヨーコが紹介する。
「おお……かなり栄えてますね」
数百人は居住していそうな集落だ。進次郎は世界の状況を探り出そうと、あらゆるものに興味を向けてみる。
「街を出るとバジリスクみたいなモンスターがいるから気をつけて。街の中なら塀も門もあるしある程度は安心。夜は出歩かないことね」
進次郎は街の様子を引き続き観察する。人々の姿は現世と変わらないようだ。通りの看板の文字は見たことないものだが、なぜだか理解できる。
「ここまでくれば大丈夫。シンジロー、改めてありがとう」
と、ヨーコは進次郎に頭を下げて礼をする。
「いえ、どういたしまして。私も助かりました」
ヨーコの言葉に、進次郎は安堵の表情を浮かべた。
右も左もわからない状況の中、聡明な彼女の存在は心強かった。
「シンジローはこれからどうするの?」
ヨーコの問いかけに、進次郎は少し口ごもる。
「それなのですが…実は…」
進次郎が言いかけたその時、路地の奥から音が響いた。何かが重い箱が落ちるような鈍い音。二人は顔を見合わせ、音のする方へ向かう。
路地の奥では、数人のガラの悪そうな男たちが、少女を足蹴にしていた。
「やめたまえ君たち!」
進次郎は躊躇なく、割って入った。
「なんだ?お前は?」
男の一人が、いかにも悪人然とした顔で進次郎を睨みつけた。
「私は進次郎と申します。子供に暴力を振るうことは見逃せません」
穏やかな言葉遣いだが、口調は鋭かった。
「いいんだよ!こいつはよ!どうせもうじき死ぬんだからよ!」
ガラの男は嘲笑うかのように言い放った。
「なんだと?」
聴き逃せない言葉に進次郎は眉をひそめる。
「こいつはアホだからよ。はした金のために代償契約をしやがった!」
「?」
男は吐き捨てるように言ったが、進次郎には理解できない。
「だから、俺らもこうやって少しは回収しないといけねぇんだよ!邪魔するな!」
男は少女を再び蹴りつけようとする。
「事情はわかりませんが、暴力は見逃せません」
進次郎は少女を救うべく、迷わずツカツカと暴漢に歩み寄る。
「てめぇ!」
暴漢は、進次郎の気迫に押されつつも、怯むことなく殴りかかろうとする。
「やめなさい!暴力での取り立てはご法度でしょ!」
ヨーコの鋭い警告が響いた。彼女の声には、有無を言わさぬ威圧感がこもっていた。
「あっ!コースカ商会の……ヨーコ!」
暴漢たちは、ヨーコの声に驚き、動きを止めた。
彼らの顔には、動揺の色が浮かんでいる。
「あんたのところがいつもギリギリのヤバい取引してるのは知ってるけどさ。子供相手に暴力沙汰はギルド的にもまずいんじゃない?アンタのせいで除名処分になったら、アンタらのボス、アンタらのことさぞかわいがってくれるだろうねぇ?」
ヨーコは口悪げに警告した。
「くそっ!おい!引き上げるぞ!」
いかにも三下っぽい台詞を残して、暴漢たちは逃げていった。
「今度こんなことやったら、警告無しでギルドに報告するからね!」
ヨーコが追い打ちをかける。
「大丈夫だったか。君」
進次郎が少女に近寄る。茶色いオレンジがかった髪、ボロボロの麻布の服を着た小柄な少女。顔に軽いあざはあるが、大きな怪我は無いようだ。そして、少女の頭部には可愛らしい猫のような耳があるのに進次郎は気付いた。瞳孔も猫のようで、縦長に見える。
(これは…人間…ではないのか……獣人?いずれにせよ、やはりここは日本とは異なる世界だということだな)
猫耳の少女は力なく項垂れて、泣き腫らしている。
「もう大丈夫だ。君、怪我はないか?」
「助けてくれて…ありがとう…でも…もうわたしダメなのニャー……」
かろうじて答えるが、彼女の涙は止まらない。
(語尾はニャーだが、言葉は通じそうだ……)
進次郎は真面目にそんなことを思いながら、少女に優しく問う。
「君、名前は?」
「ヴェルニー…」
消え入りそうな声で答える猫少女ヴェルニー。
「ヴェルニー……良い名前だ。なぜこんなことに?」
「わたしが…わたしが……全部悪いんだニャー」
ヴェルニーはうつむきながらしゃくりあげる。今、状況を聞き出すことは難しそうだ。
「シンジロー。ここでは人目もあるからひとまず私の商会に行きましょう」
ヨーコは優しく、ヴェルニーの肩に手を回し、連れ立った。
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