35.都市龍オーゼンの襲来、応戦の準備
(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)
龍が来る。その絶望的な報せは、港湾都市ハマの応戦の準備と避難を慌ただしくさせた。
犠牲者を出さないように、一般人を街の外に疎開させ、龍を王宮の広場に誘い出し、そこで決着させるというのが作戦の概要だ。
王宮の広場では、龍に対抗するための準備が着々と進められている。
何しろ、相手は空を自在に舞い、炎で全てを焼き尽くす龍だ。
城壁に弓兵を配し、広場にはブレスを防ぐための塹壕やレンガの塀を作る。
シバ将軍自らが指揮を取っている。白い鎧と赤い髪が遠くからでも眩しく見える。
進次郎とヨーコは、高くそびえる城壁の上から、眼下の慌ただしい準備の光景を眺めていた。兵士たちが動き回り、資材を運び上げ、刻一刻と迫る脅威に備えている。
「龍と戦うって、どーするのよ?逃げたほうがいいんじゃない?」
いつもは冷静なヨーコの声が、今はわずかに上ずっていた。諦めたような口調でもある。
巨大な敵を前に、現実感が薄れているようだった。空はどこまでも青く、危機が迫っていることが嘘のようだ。
「わかりません。わかりませんが、我々もできるだけのことはしましょう。ヴェルニーとマシタも獣人街で龍が来るのを見張ってくれています」
進次郎は淡々と言うが、その視線は鋭く、青い空の中から迫りくる危機を睨みつけているようだった。
「できることねぇ……」
ヨーコには、具体的に何ができるのか、まったく見当がつかない。城壁の縁には、ありったけの弩弓が設置されていたが、龍の硬い鱗に、矢が通用するのかは、あまりにも心許ない。試したものなどいないのだ。その準備の光景は、慰めにはなっても、勝利を確信するほどではない。兵士でもない商人の自分に何ができるかは検討もつかない。
進次郎が城壁の上で、錆びついた古い鉄づくりの物体に目を留めた。それは、他の武具とは異質な存在感を放っていた。その物体を凝視してから、隣のヨーコに問いかける。
「何見てるの?見たこと無いわね……鉄の筒?」
ヨーコもまた、その物体の正体がわからず、首を傾げた。
「これは……大砲だと思います。砲弾を火薬で発射するものです」
進次郎の言葉に、ヨーコはハッと顔を上げた。
「あぁ……昔の戦争で使われたって聞いたことある!」
古い伝承を思い起こす。
「今は使えないんですか?」
進次郎が尋ねる。
「最近は戦争がないから……」と、ヨーコ。
戦争に使うための技術の多くはこの数十年で失われた。武器職人の存在も若さ故に聞いたことがない。
「これって龍と戦うのに使えませんか?」
「砲弾は職人が作れそうだけど……火薬さえ調達できれば……もしかしたら……父さんに聞いて調達してみる!」
自分のやるべきことが明確になった瞬間、ヨーコの顔に活力が戻った。彼女は元気よく踵を返し、城壁の上を駆けていった。
前代未聞の危機に、何か一つでも準備の足しになればと、街の誰もが駆けまわっている。
(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)




