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32.隣国の使者、選択を突きつける

冷え切った謁見室に進次郎が扉を開けて入り込む。続いてリュードとヨーコのコースカ親子。謁見室にはウィリアム王子、宰相ミツバ、シバ将軍の三名と灰色の礼服のオーギ大臣が待っていた。


「相談役、進次郎参りました」


進次郎の声は、会議室の冷たい空気を震わせた。いつもの細身のスーツ。だが、急な呼び出しに珍しく息を切らせている。


王子が玉座から身を乗り出す。その顔には、隠しきれない焦燥の色が浮かんでいた。


「おお!シンジロー!火急の呼びたてすまない」


「何があったのでしょう?」


「工業国家サキのオーギ大臣が貴君に反魔法の力があると言って聞かぬ。また、天籟(てんらい)語り手(スピーカー)によって他国を侵略する意図があるともな」


王子の言葉は重く、冷たい石の床に響く。進次郎は一瞬、眉をひそめた。

「なぜそのようなことになったかわかりませんが……私にはそんな能力ありません」


進次郎はあくまで冷静に弁解する。


「そのとおりだ。相談役殿は日々我が国のために働いてくれているが……そんな能力を使ったことはない」

王子は進次郎を庇って言う。


「お初にお目にかかります。シンジロー殿。私はサキの大臣オーギです」

丁寧な挨拶をしながらもその眼は獲物を捉える猛禽のようで、進次郎の行動を見抜くべく鋭く観察している。


「見たこともないような細身のスーツに鋭い眼光。やはり我々の掴んだ情報は正しかったようです」

「情報?」

進次郎は反射的に問い返す。


「貴国の商人、ヤマズ=イリが詳細に語ってくれましたよ。あなたのその危険な能力も宝具の力も」


その告発に進次郎はポーカーフェイスを貫き通したが、ヨーコは「ヤマズが?!」と口に出してしまう。ハッと口元を押さえたがもう遅い。


大臣の目は、その反応を見逃さなかった。


「お嬢さんは心当たりがあるようですな。我々の理解は正しいようだ。よって、我が国は貴国が和平契約破棄への意志あり……とみなさせていただきます」


冷酷な宣告だった。会議室がより冷え込んだ。


「ふざけるな!当家にそのような意図はない!」

王子が激昂する。


「それを示すにはシンジローと天籟(てんらい)語り手(スピーカー)の放棄か共同管理が必要です。じっくりと考えていただきたい」


大臣の言葉には、交渉の余地を一切感じさせない冷たい確信があった。


「我々が断れば?それこそ和平契約上、相互に害する行為はできないはずだ。一方的な要求も」

宰相ミツバの反論に、大臣は口元に薄い笑みを浮かべた。


「無論。ただ、貴国が、我が国の意図とは無関係に不幸な未来に見舞われることはありえるかもしれませんな。そう、龍に襲われるとか」


会議室に、張り詰めた糸のような緊張が走る。


「……都市龍オーゼンか!?」


シバ将軍が思わず身を乗り出す。その声には、恐怖と怒りが混ざり合っていた。都市龍オーゼン。伝説の存在。


「私からはなんとも。我が国は工業都市として知られていますが……かつては龍の国と呼ばれていましたからな……この滞在中に回答をいただきましょう」


オーギ大臣は使者として一方的に条件を告げた。交渉ではなく、これは脅迫だった。大臣は満足げに一礼し選択を迫る。


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