31.隣国の使者、来訪する
(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)
進次郎に呼び出しがかかる1時間前、謁見室の一角で、王子、宰相ミツバ、シバ将軍は、工業国家サキの使者と対峙していた。使者は工業都市サキの重鎮オーギ大臣。彼の纏う灰色の礼服は、一切の装飾を排した質素なものでありながら、その鋭い目つきと整えられたひげと相まって、相手に冷徹な印象を与えた。
オーギ大臣は礼儀正しく挨拶をする。しかし、その声には感情の起伏がなく、まるで文章を読み上げているかのようだった。
「ウィリアム王子に置かれましてはご機嫌麗しゅう。お父上は息災ですかな」
「探りは良いでしょう。サキからの使者として、まさかオーギ大臣自らがいらっしゃるとは、さぞ重要な用があるのでしょうな」
王子は無下に返す。謁見室の空気は鉛のように重い。
「では単刀直入に申し上げることをお許しください。我が国は、貴国が周囲の国家への侵略の意図があると懸念を持っております」
大臣はずばりと言ってのけ、その視線は王子の目を射抜く。
王家の三人に、緊張が張りつめる
「まるで心当たりがありません。何の話ですかな?」
と宰相ミツバは返す。ミツバは、わずかに目を細め、大臣の真意を探ろうとした。
「貴国が他国を侵略しうる兵器を手に入れられたとか?」
と、オーギ大臣。その口元には、挑むような意図が感じられた。
「なんのことでしょう?仮に何かの力を手に入れたとはいえ、我々の間には和平契約があるではありませんか?」
宰相ミツバは冷静に返す。
「まさにそれです。その契約を覆す存在……といえば伝わりますかな」
「まるでわかりませんな」
「白々しくとぼけられても無駄です」
「全くわかりません」
追求は平行線だ。
「では率直に申し上げましょう。貴国で新たに雇い入れたシンジローの反魔法の力と未来を見通す天籟の語り手、この2つです」
「何を?!」
鋭く反応する王子を手で制して、玉座の隣りに立つ、宰相ミツバが代わりに答える。
「確かにシンジローは我が国の相談役。彼は確かに有能な人物です。しかし反魔法とはまるで心当たりがありません」
「しらばっくれているようですが、こちらも裏は取っています。彼は契約魔法を無効化する能力を持っています。彼の存在自体、和平契約を揺るがすものだ。と我が国では考えています。2国間だけでなく、この世界にとって危険な存在です」
オーギ大臣は説明する。彼の声は、確信に満ちていた。
(シンジローが……そんな力を?……それを我らに黙っていたのか?)
ウィリアム王子、宰相ミツバ、シバ将軍の三人は内心驚く。互いに目配せをするが、言葉は出ない。
なおも大臣は続ける。その口調は、ますます追及の度を強めていく。
「さらに天籟の語り手。貴国が保有する『未来を見通す魔法具』いやはやそんな恐るべきものがあるとは知らなかった。泰平な世ですら、縦横に活躍できそうな宝具。乱世ではさぞ便利でしょうなぁ。シバ将軍もさぞ戦いやすいことでしょう」
「我軍はそのようなものに頼らなくても精強だ」
不快感をにじませ、シバ将軍は腕組みをしたまま答える。
宰相ミツバは計算を巡らせる。
オーギ大臣は2つの思い違いをしている。所有と有用性。天籟の語り手がハマ王家伝来の所有のものだと。この1ヶ月、天籟の語り手は全く機能しておらず、預言の恩恵も無い。ただ、探りかもしれない。いずれにせよ、触れないほうが良いだろう。
「確かに天籟の語り手は我が王家が保有しているが、他国に害を成すものではありません」
ミツバは声のトーンをわずかに上げ、言葉に力を込めた。
「それを信じろと?反魔法の使い手シンジローと天籟の語り手を同時に公にしたのは明らかに軍事的意図があってのことでは?」
いいがかりだ……とも言い切れない。特に天籟の語り手は、所有の正当性を謳うために意図的に布告した負い目もある。
「我らとしては看過できない事態です。よって、我が国としては、貴国に対して、反魔法の使い手シンジローと天籟の語り手を放棄するか……共同管理とすることを提案する」
オーギ大臣は断固たる口調で言い切った。その言葉は通告に近かった。
王子は側近の近衛兵に進次郎を連れてくるように小声で合図した。
(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)




