30.宴のまどろみ、伝令にやぶられる
(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)
コースカ商会の夜通しの宴の疲れによるまどろみは、けたたましい伝令の声で破られた。
「相談役シンジロー殿、火急の用件にて、王宮に至急参集ください!!」
その声の主は、かつて獣人街の相談所で傲岸不遜な態度をとっていた近衛兵だ。
今は大袈裟なまでに声高に伝達し、職務に忠実である姿を見せている。
「何だこんな朝早く……」
寝ぼけ眼のコースカ商会の総帥リュードは、眼をこする。ヨーコも二階の寝室から降りてくる。
「火急の要件とは?」
進次郎は、昨夜の深酒が嘘のように、背筋を伸ばし、さわやかな顔で兵に近づく。彼は二日酔いとは無縁のようだ。
「は……隣国のサキからの使者が来たとのことのみで、詳細は私も知らされていません」
近衛兵は、報告の義務を果たすべく、端的に、しかし緊張した面持ちで報告する。
「これは……まずいな……」
リュードは呻くように呟いた。二日酔いの顔から、一瞬にして厳しい商人の顔に戻る。
「なぜです?」
進次郎は眉をひそめた。リュードは進次郎がこの世界で会ってきた中で最も世知に長けた人物だ。そのリュードが重々しく言った。
「シンジロー殿、この招集には応じないほうが良いかもしれない」
「サキはハマの隣の都市国家だが、長らく公式の交流は無い……我々、商人は交易するが、それはあくまで水面下の話だ」
「なぜ?」
進次郎の問いに、リュードは深い溜息をついた。
「80年前の和平があまりにも強固な条件で締結されたからだよ。お互いに一歩も譲れない、通称”膠着和平協定”。だからサキが使者を寄こしたということは、その膠着を破る何かの可能性がある……」
「なるほど、だとして私が呼ばれる理由は?」
進次郎の視線が、王宮からの使者である近衛兵に向けられる。
リュードはつばを飲み込みながら答える。
「そこだ。おそらく、シンジロー殿自身がその膠着を破る何かに関係しているのでは……」
リュードの言葉に、進次郎は小さく笑みを浮かべた。
その表情は、どこか諦めているようでもあり、覚悟を決めているようでもあった。
「だとしたら、私がまいた種です」
「まぁ、あんたならそういうだろうな…」
リュードは、進次郎のその潔さを知りつつ、顔を顰めた。
「シンジロー殿!王子がお待ちです!」
近衛兵が、焦燥感を滲ませながら促す。
「わかりました。私とヨーコもついていきます。できるだけあなたの助けになりたい」
リュードはそう申し出、同行の準備を整える。
そこには二日酔いの気だるさは消え去っていた。
そして、リュードの懸念通り、この会合はこの国を揺るがすことになるのだ。
第4章開幕!ここからギアが上がってきます!




