3. 謎の力、ひとつの仮説
(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)
8本足のトカゲ、バシリスクの集団を謎の力で石化させ、危機から逃れた進次郎とヨーコ。
「ヨーコ、君はこれからどうする?」
立ち上がりながらヨーコに問いかける。
「そうね~また襲われないうちに街までもどるわ」
ヨーコも立ち上がって、足についた砂を払った。
「では、私も街まで連れて行ってもらえないか?私はこの辺に不案内でね」
進次郎はこの世界のことがまるでわからない。ヨーコに聞きたいことはたくさんある。
「もちろん!二人の方が心強いしね!
ヨーコは快諾し、一つの提案をした。
「でもその前に貴方のスピーカーを回収していかない?」
「回収してもいいが……危なくないか?」
またあの怪物が出ないとも限らない。
「危なかったら逃げましょう。今度は一匹だから大丈夫」
と、こともなげに言った。
2人は道中注意しながら、先程の池までの道を戻る。新たなバシリスクは見当たらない。
池の畔で、進次郎は自分が設置したスピーカーを探す。
「このあたりのはずだが…」
茂みの中に、スピーカーが無造作に置かれていた。
そしてもう一つ意外なものがスピーカーの前にあった。それはバシリスクの石像。
「こいつも石になってる?さっきのやつらと一緒に?」
ヨーコは石像におそるおそる触る。
「そのようですね?この生物は石になる特性でも?」
進次郎も近寄ってつついてみると、硬い音がする。明らかに生物の音ではない。
「逆よ。こいつに噛まれると石になっちゃうの。石化のバシリスク。バシリスク自身が石になるなんて聞いたこともない」
進次郎はギョッとする。
「石化?私も君もかなり危なかったのでは?」
「そうよ絶体絶命だった…ふたりとも石になってた可能性は高かったわね」
(この世界にやってきて早々に石になるところだったのか……気が抜けない世界だな……)
進次郎の背中に冷たいものが走る。
「では何故、こいつらは石に?」
「うーん。わからないけど、私の知らない魔術トラップか……そもそも仕組まれたものか……」
ヨーコは腕を組みながらしゃがんで考え込む。
「仕組まれた?」
「何かの力によるとしても、距離が離れたところにいたこいつも石になってるのが説明つかないのよね……事前に仕込んでおけば、同時に石化したことにも説明がつくかなって思ったんだけど……」
ヨーコは自分の頭をコツコツ叩きながら考える。
「なるほど……」
「でも、それはないと思う。襲われたのも助けられたのも偶然だし…
仮にそうだとしても意図がわからなすぎる」
「それはそうですね」
バシリスクを襲わせて一斉に石化させることには何の意味もなさそうだ。
「それで一つ、思いついた仮説があるのだけど……」
「仮説?」
ヨーコがファンタジーな世界に似つかわしくない科学的な思考の持ち主であることに進次郎は驚いた。
「そう。この現象はシンジローの能力によるものなんじゃないかって思ってる」
「まさか。私にそんな石化能力はありませんよ」
進次郎は即座に否定した。そんな能力があったら日本中大混乱だろう。
「石化能力……ではなくて……多分、もっと違う力……」
「というと?」
進次郎はいぶかしむ。
「私には、シンジローが『大丈夫だから大丈夫』と言った瞬間に光が発して発動した……ように見えた」
「それはそうでした」
「実際私達はそれで『大丈夫』だった。そして、離れたところにいるこいつも『石化』したから私達は文字通り『大丈夫』ってわけ」
「つまり、この状況は『大丈夫』という結果をもたらす能力であれば説明がつくと?」
「そういうこと。話が速くて助かるわ」
「しかし、その仮説だと、私の能力は『言葉が現実化する』能力ということになりませんか?」
「そこよ。そんな能力はありえない。そんなことできたらなんでもできちゃう……ただ、辻褄は合うのは確かね……うーん……」
ヨーコはしゃがんだまま顔を伏せてさらに考え込む。
「では早速、試してみましょう!」
進次郎は勢いよく宣言する。
「何を試すの?!」
ヨーコがガバッと顔を上げる。
「私の言葉が現実になるかどうかですよ」
「いきなり?!条件や副作用があるかもしれないのに?」
「何事も試すのが私のポリシーです!」
進次郎はそう力強く宣言すると、立ち上がって早速、力を試す。
「街に移動!!!」
その力強い言葉とは裏腹に何も起こらなかった。
「……ダメね」
ヨーコは肩をすくめて落胆する。
「ダメみたいですね」
進次郎もダメだったことは認めるが気落ちした様子はない。
「目的が漠然としすぎてるからかも……でも『大丈夫』なんてすごい漠然としてるし……」
「じゃあ、簡単なものから試してみます」
言うが早いか、進次郎は木の葉を地面に置く
「木の葉よ浮け!」
この葉はピクリともしない
「うーん、木の葉も動かないんじゃねぇ……」
続けて進次郎は色々試す。
「石よ浮け!」
「雨よ降れ!」
「地よ割けよ!」
「天よ轟け!」
「ちょっと!だんだん物騒になってきてるわよ!」
「簡単すぎると発動しないのかなと思って……いずれにしても何も起こらないようです」
これ以上試しても何も起きなさそうだ。
「やっぱりなにか条件あるのね……見込み違いだったのかも……」
ヨーコはなおも考える。
「また白い光がでたら考えましょう」
進次郎があっさり諦めの言葉を口にすると、ヨーコも同調した。
「そうね。とりあえず歩いて街まで行きましょう。そう遠くは無いから」
「そうしましょう。ここだと何があるか分からない」
進次郎はワイヤレススピーカーを肩にかける。二人は日が傾きかける中、街への道を急いだ。
(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)