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29.宴、コースカ商会の夜

(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)

「いやぁ、シンジロー殿の仕事ぶりは惚れ惚れしますな」


コースカ商会総帥のリュードは高価なワイングラスを片手に、穏やかな笑みを浮かべた。相談役就任1ヶ月を祝うための晩餐にリュードが進次郎を招待したのだ。ヨーコとリュードとシンジローのささやかな宴。ヴェルニーとマシタはお留守番だ。


「いえいえ、まだ1ヶ月お手伝いした程度で何も」


進次郎は控えめにグラスを傾け、謙遜して答える。だが、既に王都の貴族たちの中でも一目置かれる存在になっていた。王子も頼りきりで、いずれ国父のような立場になるのではという噂も流れるほどだ。


「でも、この一ヶ月で王家の人たち、シンジローのことをものすごい頼りにしてきてない?夜にウチまで来る人いるし……宰相と将軍は目の敵にしてるっぽいけど……」


ヨーコが少し呆れたような口調で言った。が、その声には誇らしさが混じっている。


「そうですね……そこはご迷惑をおかけして申し訳ない」


「いやいや、そんな気にしないでください。王宮の方がうちに来て、顔がつなげるなんて、良いことづくめですよ。うちはまだまだ余所者なんでありがたいですよ」


リュードがことさらに商人としての利を示すのは、進次郎への、そして彼の連れてきたヨーコへの、さりげない気遣いだった。


「そう言っていただけるとありがたいです」


進次郎もその気遣いを受け止め、グラスのワインを一口飲んだ。


「でも、シンジローめちゃめちゃ仕事してない?偉い人から街の困りごとまで……獣人街の相談もまだやってるし……」


ヨーコの問いに、進次郎は遠い目をして答える。


「何でもやるのが私の仕事でしたから……」


「シンジローの仕事って何?」


「政治家です。この世界ではそういう言葉は無いようですが……」


「セイジカって……何でもやるの?」


「何でもやります。国の方針を決めたり、法律を決めたり……毎日、道端で演説をするのも欠かせません」


「そんなことまでやるの?なんのために?」


「政治家の仕事は、この世の中を少しでも良くすること。そのためですよ」


「はっはっは!さすがシンジロー殿!ヨーコも素晴らしい人を連れてきてくれたものだ!」


リュードは豪快に笑う。


「ちょっ……まぁ確かに私が連れてきたかもしれないけど……」

いきなり引き合いにだされて慌てるヨーコ。


「ところで……シンジロー殿があのガターボードの盗賊なのでしょう?」


リュードは急に声を低くし、真剣な眼差しを進次郎に向けた。


「と!父さん!それは」


ヨーコが慌てて口を挟む。


「いや、シンジロー殿が盗賊でないなんてことは分かってる。最初にうちに来たときから察してはいたよ。王家にその天籟(てんらい)語り手(スピーカー)を収めた話を聞いたら、もう疑いようはなかったよ」


リュードは笑みを浮かべた。


「なんだー最初から分かっていたんだったら、教えてよ〜〜」


「すまんすまん。流石にどういう人物か分かってなかったからな。私は人を仕事ぶりで見る。シンジロー殿の仕事ぶりは、素晴らしく、何よりも実直な人柄が出ている。素晴らしい人物だよ。お前が行動を共にするに足る人物だ」


「ま、そういう評価なら良かったけど。それにしてもシンジローは、相談役になってからスピーカーもシンジローコーブン?の力も使ってなくない?」


この一か月、進次郎は天籟(てんらい)語り手(スピーカー)も『進次郎構文』の異能も一切使ってこなかった。そこに意図的なものをヨーコは感じていた。


「お父さんの言葉通りで、人を信じさせるには自分の仕事ぶりを見てもらうしかないからですよ。最初から道具や力に頼る人間は信頼されません。自分の力で信頼を勝ち取らないと」


それは進次郎の政治家としての信念だった。


「全くそのとおりだ!いや、気に入った!シンジロー殿!」


リュードは、残りのワインを一気に飲み干し、進次郎の言葉を激賞した。


「ふーん。そういうものかなぁ。父さんと馬が合うようで何よりだけど」


ヨーコは肘をつき、二人の男が交わす熱い会話を眺めていた。異なる世界の政治家とこの世界を知り尽くす商人。二人の間に、確かな信頼と、奇妙な友情が生まれていた。


宴は朝まで続いたが、ヨーコは早々に脱落した。


(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)

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