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27.悪徳商人ヤマズ、龍の国サキで眼を覚ます

(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)

目隠しを外された悪徳商人ヤマズは、自分のいる場所が湿った石の匂いが漂う、狭い石造りの部屋であることを見て、ゾッとした。粗削りの壁は冷たく、わずかな光が差し込む高窓が、唯一の外との繋がりだ。手は厳重に拘束され、硬い木製の椅子に座らされている。身動きを取ろうとすれば、拘束具が皮膚に食い込み、痛みが走る。


眼の前には酷薄そうな男が座っている。その顔は陰に沈み、表情を読み取ることはできないが、鋭い視線がヤマズを射抜く。壁には数多の拷問器具。あまり良い未来は見えない。


「さて、ガターボードの商人、ヤマズ=イリ君。君には聞きたいことがあってわざわざここまで来てもらった」


尋問官の口調は低く、感情を感じさせない一方的な通告だった。


「手荒く拘束しておいてよく言うぜ」

ヤマズは冷静を装い、言い放った。状況はわからないが、命乞いにはまだ早い。


「さて、私には聞きたいことがある」

「そうだろうな」

「もうお気づきだと思うが……シンジローという謎の男と天籟(てんらい)語り手(スピーカー)についてだ」尋問官の言葉に、ヤマズの眉間に皺が寄る。やはりそう来たか、と彼は心の中で呟いた。


「噂は聞いているが、噂は噂。実際に会ったことのある君に聞くのが一番いいと思ってね」

尋問官はつまらなさそうに指先で机を叩く。その仕草には、ヤマズの命運を弄ぶような傲慢さが滲み出ていた。


「アンタは誰だ?なんの目的だ?」

ヤマズは尋問官の振る舞いに臆せず質問を投げかけた。情報は常に力となる。


「いいね。自分の身を案ずるより情報を得ようとするその姿勢。君は見た目より優秀な商人かもしれないな」

嘲りを含んだ薄ら笑いが、ヤマズの神経を逆撫でする。


「今、君のいるところがどこで、私が何者かは、君から情報を聞き出した後に説明してあげよう」

「ありがたくて涙が出るね」

「しかし、私がなぜ君から情報を聞きたいか?だけは説明しておいたほうが良いだろう」


尋問官は、ゆっくりと言葉を選びながら教師のように語りだした。


「まずは歴史のお勉強だ。この世界には多くの都市国家がある。昔は戦争に次ぐ戦争。軍備の増強、国土は荒れ果て、民は困窮した。当時の人々は、生きるために戦い、戦うために生きていた」


意図を測りかね、沈黙を保つヤマズ。


「さて、ここで大きな歴史的転換があった。平和をもたらそうと思った魔術師たちが、契約魔法を人間同士の協定に応用することを思いついた。元々、魔法は精霊と契約し、精霊の力を行使するものだ。この契約を人間や国家間に適用する。相互に不可侵の契約を作り、そこに双方の魔術師が魔力を持ち寄り契約魔法を成立させる。人と人の契約魔法なら個人でも結べるが、国と国になると多くの魔力が必要となり、契約儀式も大事になる。今の都市国家間の和平協定魔法はもう何十年も前に締結された物が多い。これらの協定は、都市国家間の力関係を固定した」


滔々とした説明に、ヤマズは思わず口を挟んだ。


「本当に歴史のお勉強かよ」


尋問官は、わずかに口元を緩め、ヤマズを嗜めるように言った。


「君はあまりいい生徒ではないね。とにかく、この和平協定魔法のお陰で戦乱の時代は終わりを告げた。戦争は鳴りを潜め、軍隊の規模は縮小され、平和の時代が訪れた。かつては剣と魔法が全てだった世界に、交易と文化が栄える時代が訪れたのだ。そういう意味では、君もその平和の時代の落し子なのだよ。裏稼業の商人と言えどね」


「全然平和には思えないけどな」


街に出れば、貧しい人々が溢れ、いざこざも絶えない。平和とは程遠い現実がそこにはある。


「昔に比べれば随分ましなのだけどね。だが、その通り。何十年も前の和平協定で縛られるには世の中は変わりすぎた。だから和平協定に反しない範囲でのいざこざは絶えない。固定化された平和の歪だね。支配下にない獣人を仕掛けたり、牽制のために人を介して傭兵団を雇ったり……おっと、これは君の商売の種だから君のほうが詳しいか」


「俺のシノギまで調べてご苦労なことだな」


尋問官は、ヤマズの苛立ちを愉しむかのように、さらに言葉を続けた。


「さて、こうなると噂のシンジローとやらの反魔法の能力は、この世界にとって極めて危険だ。ということがわかる。何しろ和平協定魔法を任意に破棄できる危険性があるからだ。シンジローの能力は、この世界の秩序の根幹を揺るがしかねない。再び戦乱の時代が幕を開ける。それは、我々が最も恐れる事態なのだ」


ヤマズは黙り込む。それが正に自分が商売の種になると踏んだ理由だからだ。


「もう一つ、天籟(てんらい)語り手(スピーカー)。真偽の程は不明だが、未来視が本物だとした場合、和平協定魔法の任意破棄との組み合わせは危険だなんて言葉では済まされない。一方的かつ効率的な侵略を可能とするからだ。ハマは戦略的な優位性どころか、絶対的な支配力を手に入れることになる」


それもヤマズには分かっていた。分かっていなかったのは本気になった国がどこまでやるか?だった。


「その2つをハマは手に入れた。これは連中が高度な戦略兵器を手に入れたということを意味する。我々としては、事の真偽とハマの意図を早急に確認する必要がある」


尋問官は、そこで言葉を区切り、ヤマズの目をまっすぐに見つめた。


「というわけで、我々にとってこの噂の真偽は死活問題なのだよ。シンジローの反魔法と天籟(てんらい)語り手(スピーカー)を直接、見たものはこの世に数えるほどしかいないようなのでね。君は、その数少ない証人の一人として、我々に協力する義務がある。この世界の平和のために」


「けっ……何が世界平和だ。その力を奪って自分の国のために使おうってんだろ」

自身を拉致するという性急な手段に国の野心が透けて見える。


「その問答に意味があるとは思わないな」

実際、野心も平和もこの尋問官にはなんの関係もないだろう。ただ、国自体の野心は間違いない。そこでヤマズは気付いた。


「分かった。ここは工業都市サキだな。意識を失う前、ブリックが『龍の国』と言ってた。たしかここには都市龍オーゼンが……」


尋問官がヤマズに顔を近づける。


「そこまでだ……ヤマズ君……ヒントが多すぎて、順番がくるってしまったな……和平契約締結から80年、我が国も工業都市としてずいぶん成長してきた。だとするとよりよい市場と交易の場がほしくなってくるのは自然の流れだと思わないかね?」


「知るか!」


「君の意見はどうでもいい……さて夜は長い……君が有用な情報を喋ってくれることを願うよ」


ここがどこで意図が何であるかも関係ない。こいつの役目は俺から情報を引き出すことだけ……ヤマズは国家の本気を見誤ったことを後悔し始めていた。


(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)

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