26.悪徳商人ヤマズと悪辣魔術師ベツリ、拉致される
(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)
悪徳商人ヤマズと魔術師ベツリは、赤煉瓦団のアジトに呼ばれた。じめじめとした部屋には据えたビールと埃の匂いが満ちている。
ヤマズが不機嫌そうに聞く。
「呼びつけておいて何の話だ?」
「なに、シンジローの件で随分苦労していると聞いてね」
「余計なお世話だ」
ブリックの言う通り、ヤマズたちは苦戦していた。興味を持ってもらえて商人たちの間で噂にはなったものの、商人のつてを辿って、王家に接触しているが、どうも要領を得ない。進次郎と面識があることを伝えても、はぐらかされていた。魔術師ギルドも最初こそ色めき立ったが、証拠がなにもなかったので、騒ぎも沈静化してきていた。
「そっちは随分羽振りが良さそうじゃないか」
赤煉瓦団の団長ブリックは、椅子に深く体重を預けていた。その手は、重たそうな布袋を宙に投げては受け止めるという、手遊びを繰り返している。布袋が彼の掌に着地するたびに、「ジャラリ」と、重い金属の音が響く。まず大量の金貨の音だ。
「良い話と悪い話がある。どっちからが良い?」
ブリックは、その金貨の重みに飽きたかのように、気だるそうに言う。
「もったいぶらずに教えろ」
足元を見るかのような二択に苛立ったヤマズは、短く切り捨て、本題に入るように促す。
横で魔術師ベツリは沈黙したまま、冷静にブリックの様子を観察していた。
「じゃあ、まずは悪い方からだ。昨日、シンジローが王家の臣下となった。謁見の場で、天籟の語り手が貢物として王家に捧げられた。残念だったな」
ブリックの言葉は、地下室の冷たい空気を一瞬で凍りつかせた。
「なんだと!?なぜ?ふざけるな」
ヤマズとベツリは、同時に椅子から立ち上がり、ブリックに食って掛かった。
ヤマズは、未来を告げる天籟の語り手を、ベツリは、進次郎の持つ規格外の力を、それぞれが自分の野望のために狙っていた。今回の王家招聘は、二人の抱いていた野望が、いずれも潰えたことを意味する。二人が激昂するのは当然だった。
「俺にくってかかったってしょうがねぇよ。まぁ、王家が出てくるようなものなんだから、最初から、お前らの手に余るものだったってことよ」
ブリックは肩をすくめ、嘲笑を隠さない。
「うるせぇ!それだけでかいヤマだってことだろうが!俺の眼は間違ってなかった!」
唾を飛ばして食い下がるヤマズ。焦燥で声が上ずっている。
「たしかに悪いニュースだが…良いニュースってのはなんだ?」
ベツリが、冷静に促す。 ここまできて、自分たちにとって良いニュースがあるようには到底思えない。
「良い方は……お前らの身柄を高く買ってくれる人が現れた…ってことだ」
ブリックがそう言うがいなや、彼らの視界が暗闇に閉ざされた。背後から大きな麻袋を頭からすっぽりと被せられたのだ。ざらついた麻の感触が彼らの顔に絡みつく。
「なっ!何をしやがる!」
もがく間もなく、さらに後ろから屈強な腕が首を力強く締め上げてきた。呼吸を止められ、ヤマズもベツリも力のかぎりあがく。
「お前らの話に興味を持ってくれる国があってな。妖精の国と龍の国だ。」
ブリックの声は、麻袋の向こうで遠く、楽しげに響いた。
首を締め上げる力がさらに強くなり、意識は急速に遠のいていく。
「お前らの身柄を引き渡すだけで大金が入るんだ。こんな良い話は無いだろう?」
ブリックの身勝手なつぶやきと、チャリッという金貨の入った袋を投げる音が辛うじて聞こえる。
「良い旅を」
それが、彼らが聞いた最後の言葉だった。
(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)




