25.猫少年マシタ、目を輝かす
(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)
コースカ商会ハマ支店の応接で、シンジロー、ヨーコ、ヴェルニー、さらにはマシタがテーブルを囲んでいた。
「シンジロー!俺うまくできてたな?」
近頃はすっかり進次郎に懐いたマシタが、目を輝かせ上機嫌で聞く。その顔には、大役を果たした後の満足感が浮かんでいた。
「お見事でした。みんな、天からの声だと思って聞き入ってましたよ」
進次郎は、マシタの労をねぎらうように笑って答えた。
『我…天カラノ預言ヲモタラスモノナリ……汝ハ我ガ所有者カ?』
マシタがふざけて、先程の、荘厳な響きを意識したセリフを繰り返す。
彼の声は普段よりも低く、厚みがあるように聞こえた。
今回はマシタが、遠く離れた場所から、進次郎が持っていたマイクで喋っていたのだ。その甲斐あって、神々しい演出は大成功だった。
「私もやりたかったニャー」
ヴェルニーが耳を横向きに伏せ、残念そうに語る。
彼女の黒い瞳には、ほんの少しの不満が宿っていた。
「いや、お前がやったら『私、天からの預言をもたらすものなりニャー』とかになって台無しじゃん」
マシタがすかさずツッコミを入れる。
「ひどい!そんなこと無いニャ!」
ヴェルニーは頬を膨らませて抗議する。
「まぁまぁ。ヴェルニーだと声がかわいすぎるのは確かですからね」
進次郎が二人の間に割って入る。
今回は、王族を相手にする手前、低い声のほうがもっともらしいという理由で、進次郎がマシタに依頼したのだった。マシタは頼られたことで高揚し、ヴェルニーはヴェルニーで可愛いと言われて、上機嫌で小さな猫耳を動かしている。
「でも、スピーカーあげちゃって良かったの?大事なものでしょ?使われてすぐ電池なくなっちゃうんじゃない?」
ヨーコが心配そうに尋ねる。あのスピーカーは、進次郎が異世界から持ってきた唯一の道具だった。
「そうならないように電池を抜いておきました」
そういうと進次郎はポケットから、円筒形の電池を二つ取り出してみせた。
「あ〜なるほど。でもそしたら、王家の人、使い方わからないんじゃない?動かないし」
「そこは相談役に聞いてくるでしょう。適当に答えますよ。」
進次郎は、涼しい顔で答える。
「いやーそれにしてもシンジローが王家相談役とはねぇ……これも狙い通りってこと?セクシーな解決策とかいう?」
ヨーコは、進次郎が起こす予想外の展開に、呆れと感嘆がないまぜになったような表情を浮かべながら、シンジローの真意が気になって仕方がない。
「概ねは。あとは3手か4手ですかね」
「全然わからないわねぇ」
ヨーコはシンジローの真意を探るように顔を覗き込む。
「一つヒントを挙げましょう。『元の世界へは私の力で帰れるけど、私の力では帰れないのです』」
「なにそれ?それも進次郎構文?」
「さて、どうでしょう?私の思惑が当たっているといいのですが」
シンジローは足を組み、窓の外の遠く、空の彼方を見つめる。その瞳の奥には、彼にしか見えない大きな盤面が広がっているようだった。
「獣人街の相談所は畳むのか?」
マシタが不安そうに聞く。彼は、進次郎との相談所での日々を、かけがえのないものと感じていた。
「折角、みなさんがきてくださってますから、相談役としての仕事と一緒に進めましょう。今まで通りマシタ君も手伝ってください。君の力が必要です」
進次郎の言葉に、マシタは「待ってました」とばかりにガッツポーズをする。顔には再び、満面の笑みが戻っていた。
「シンジローはなんかどんどん仕事増やすのが好きねぇ」
ヨーコの呆れたようなつぶやきを、シンジローはいつもの爽やかな笑顔で受け流した。
爽やかな笑顔の向こうの策謀はまだ見えない。
(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)




