24.宰相ミツバとシバ将軍、進次郎を警戒する
(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)
王子と進次郎が去った後の謁見室。
「ミツバ。そもそも何故、謁見の時、シンジローを認めたのだ?貢物をしたとは言え、奴が怪しい人物であることには代わりあるまい?」
女将軍シバが、声を潜めて、宰相ミツバに問う。展開は不可解だったが、進次郎の意のままに進んだことは間違いないだろう。辣腕をもってなる宰相ミツバがそれを認めたこともシバ将軍には納得がいかなかった。
「そうするしかなかったからですよ……シンジロー……恐ろしい男です」宰相ミツバは静かに答えた。その声は低く、陰鬱だった。彼はゆっくりと玉座から視線を外し、窓の外に広がる王都の景色に目を向けた。
「どういうことだ?」
シバ将軍は訝しげに眉をひそめる。彼女の疑念はまだ拭えない。
「将軍には言っておいたほうがいいでしょうが……元々、王家の宝物庫に天籟の話し手なんてものはありませんでした」
「なんだと?」シバ将軍にとって意外な答えだった。
「あの品の本当の来歴は知りませんが、ただの噂ですよ。だからあのシンジローが盗賊でないことは明らかです」
「それはそうだが……ならば本人がそう言えばいいだけではないか?」
彼女の表情には、依然として疑念が残っていた。
「いえ、それを言わなかったのが恐ろしいところで……宝物庫にあったかないかは関係無しに、王家の所有の正当性を確立させようと暗に持ちかけてきたのですよ。だからこちらは所有の真偽にふれず、シンジローの無実も認めるしかなかった」
宰相ミツバの声には、進次郎の智謀に対する警戒心が滲んでいた。
「だが、もし、我々が盗賊として捕縛したらどうなる?」
シバ将軍は問いかける。実際、自分はシンジローを捕らえるよう指示したのだ。その可能性は十分に高かっただろう。
「その場合、王子が聖者に盗賊と濡れ衣を被せることになります。助けられた民も黙ってないでしょう。王家の名声に傷がつきます。いずれにせよ私も王子も彼が盗賊でないことは知っているのですから、捕縛されても断罪される可能性は低かった。将軍も無実の者とわかればそんなことはしないでしょう」
宰相ミツバは淡々と説明する。誠実でないふるまいは彼女が最も嫌うところだ。
「では、もし貢物を断っていたら?」
「あまりメリットはないですね。他国に持っていかれる可能性がありますし、未来視の能力が本物だった時、新たな火種になり得ます。つまり、天籟の話し手の来歴が有耶無耶な今、貢物として受け取り、シンジローを臣下にする……しかなかったのです」
「なるほど……」その場にいながら、背後で繰り広げられていた駆け引きの深さまで見えていなかった将軍は、素直に感心した。
「最も恐ろしいのは、シンジローはあのような結果になることを最初から見通していたということです。彼の真意はまだ見えません。故に、警戒をしておいたほうが良いでしょう。ただの聖者でないのは明らかです。あまりにも駆け引きと交渉に慣れすぎている……」
王宮内で宮廷政治に長けたものは多いが、それらとはまるで別次元だった。突然、外部から来てなんの後ろ盾もなく、意のままに交渉してみせる胆力。それは経験に裏打ちされたものであるのは明らかであり、突然得られる能力だとは到底思えなかった。
国の機密情報を一手にひきうけるミツバですらそんな人物の噂を聞いたことがなかった。
「シンジローの意図はわかりません。である以上、獅子身中の虫となりえる存在です。最大限の警戒が必要でしょう」
「承知した」
力強い返答。王家に仇なす者を排除するのが、自分の役目なのだから。
(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)




