2. その力、「進次郎構文」
(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)
選挙戦の最中、異世界に転移した進次郎。状況把握もできない中、怪物が女性に襲いかかろうとしている現場に遭遇する。襲われているのは黒髪短髪の女性、見た目は日本人にも見える。襲いかかろうとする怪物は8本足の黄金のトカゲ。こちらは明らかに地球上の生物ではない。
「きみ!大丈夫か!Are you Okay?」
進次郎は大声で声をかける。日本語が通じるかわからないので、英語もとりまぜて呼びかけた。
「あっ!こっち来ないほうが良いわよ!こいつらヤバいから!」
怪物に襲われている女性が進次郎に返答する。怪我はないようだ。
「君も危ないだろう!私がこいつの気を逸らすから逃げなさい!」
「気を逸らすってどうするのよ!?」
「待ってなさい!」
進次郎は怪物に近寄り、手を振って注意を引く。そして怪物が振り返った時に、小石を強めに投げた。小石は怪物にあたり、怪物は進次郎に向き直る。注意は引けたようだ。
進次郎は距離を取りつつ、小道を戻って逃げ、茂みの中に入る。
「ちょっとちょっと!なにしてるの?!こいつは素早いのよ!」
茂みの中では怪物に追い詰められてしまう。逃げ道がないはずだ。
茂みがガサガサ動き、しばらくすると、池に近い方から声がした。
「お〜〜い。かいぶつ〜〜こっちこ〜〜い」
間の抜けた声。だが、トカゲの怪物はその声がする方に駆け寄る。
怪物が離れたことで、襲われていた女性はホッと一息をつく。
次の瞬間、彼女は後ろから声をかけられた。
「……君……こっちだ……今のうちに一緒に逃げよう」
「えっ?声はあっちの方からしてたのに?」
「持っていたスピーカーを使っただけだ。とにかくこっちへ。」
「スピーカー??」
先程まで選挙演説に使っていた肩掛け式の拡声スピーカー。
進次郎はそのワイヤレスマイクで離れたところから音声を出して怪物の気を引いたのだった。
二人は、走って怪物から距離を取る。小さな橋を超え、怪物の姿も見えなくなった。
「はぁ……はぁ…ありがとう。助かったわ」
「無事で何よりだ」
「なにアレ?スピーカー?見たことがないんだけど……魔法具?」
「ただの拡声器です。役に立ってよかった」
今頃は怪物がスピーカーにかじりついているだろう。
「いいの?大事なものなんじゃない?」
「まぁ……大事かもしれませんが…後で取りに行けばいいですよ」
「そう?ホントにありがと。私はヨーコ。貴方は?」
ヨーコと名乗った女性は手を差し伸べる。この世界にも握手の文化はあるようだ。
進次郎は彼女の手を握る。
「私は進次郎。シンジローと呼んでくれ」
「分かったわ。よろしくねシンジロー」
「ところで…君は何故怪物に襲われていたんだい?」
進次郎としては聞きたいことは山程あるが、まずは二人の安全の確保が最優先だ。
「ちょっと商談で山の集落まで出てて……」
「女性一人では危ないだろう……」
「そうね…実際やばかった。でも、危ないからこそ金になるってところはあって……」
「あの怪物はなんだい?私は見たことがなくて…」
「バシリスクを知らないの?ここらは奴らの住処で……」
そこまで言いかけると、周囲から音がする。
先程の8本足の怪物が4〜5匹近づいて来た。
「まずい……武器も…スピーカーもないし……走るか?」
進次郎は走れるが、先程まで襲われていたヨーコは、まだ肩で息をしている。逃げ切るのは難しそうだ。
(まずいな……しかし、彼女を守らなくては……)
進次郎は迷わず、ヨーコを背後にかばい怪物たちに向き直る。
腕っぷしに自信はないが、彼女を守るしかない。
「逃げて!シンジロー!」
「君を置いては行けない。私が時間を稼ぐから君が先に逃げなさい」
「奴らは素早いの!私の足ではもう逃げ切れない!」
怪物たちが距離を詰める。
(倒すのは無理だろう……せめて彼女が逃げれる時間を作れれば……)
進次郎はあくまでヨーコをかばい、勇気づけるように声をかけた。
「大丈夫です。私が君を守るということは、君は大丈夫だと言うことです」
進次郎がヨーコを励ましたその瞬間、周囲に白い閃光が走った。
「これは!?」
白い閃光に包まれた怪物たちは瞬く間に石となっていた。
そこにあるのは物言わぬ、8本足のヘビの石像たち。
「な…何が起きたの??石化能力?魔法??」
「よくわからないが…大丈夫だったようだな……」
「貴方の言った通り大丈夫だから大丈夫になったみたいね…」
「そうだ…大丈夫だから大丈夫だ」
「なにそれおかしい……大丈夫だから大丈夫って……そんなの当たり前じゃない……ふふっ……」
ヨーコは、緊張からほぐれて笑い出した。笑いながら脱力してへたり込み、天を仰ぐ。
「大丈夫だから……大丈夫なのよねぇ……」
その声には無事だった実感が籠もっている。
進次郎も一緒に笑った。何が起きたかはわからないが、とにもかくにも眼の前の一人の女性を救えたことに心から安堵した。
彼は未だ知らない。彼の言葉がこの世界の因果に干渉する能力「進次郎構文」であることに。
その能力がこの世界に波乱と安寧をもたらすことに。
(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)