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進次郎が異世界に行ったら異なる世界だった【第3章開始】  作者: ビヨンドほうじ
進次郎、セクシーな解決策を模索する
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ヤマズとベツリ、赤煉瓦団を頼る

(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)

獣人街の入り組んだ路地。弱肉強食が匂うその路地の奥に、赤煉瓦団のアジトはあった。そのアジトの重々しいテーブルの前で、赤煉瓦団長のブリックはぬるいビールを飲みながら二人の男の話を聞いていた。二人の男はでっぷり太った商人ヤマズと、痩せぎすの魔術師ベツリ。


「お前らがあの嘘くさいおとぎ話を広めた張本人とはね……お前ら頭に酒がまわってんじゃないのか?」


無精髭のブリックは手をひらひらさせながら二人を嘲った。


「いや、本当の話だ。嘘だったらどれだけ良かったか」


かぶりをふってヤマズは答える。


「っつってもよう。この王家おひざ元のハマでそんな魔法具の話聞いたことねぇ。そのシンジュロー?ってのもな」と、ブリックは手元の陶器製ジョッキの縁を指でなぞりながら、言葉を返す。


「ヤツが足がつかないようにうまくやってるってだけだろうが。俺はこの目で、天籟のスピーカーもシンジュローも見たんだ」


身を乗り出し、繰り返し主張するヤマズの言葉から、恐怖と恐れがにじみ出ていることにブリックは興味を持った。図太いので有名なヤマズがここまでおびえるとは普通ではない。少なくとも何かがあったのだろう。


「その濁った目を取り換えた方がいいんじゃねぇのか?あとは酒の回った血を抜くかだな。どっちでも手伝ってやるよ」


腰からナイフを引き抜き、目の前でちらつかせてブリックはなおも冗談めかして言う。


「茶化すな。幻でも何でもない。俺の契約魔法が無効化されたのは本当だ」


ヤマズの巨体の横で、静かにしていたベツリが口を開いた。彼の声は平坦で冷静だが、その言葉には重みがあった。契約魔法はこの世界での取引の要。それが無効化されるのは前代未聞だ。太陽が西から昇るようなものだ。ブリックは顎に手をやりながら、少し考えるそぶりを見せた。


「まぁ……そっちは気になるな……ベツリ先生は道端の猫を蹴っ飛ばして回るほど性格は悪いが、頭はキレるし、腕もいい……」

「俺は猫を蹴飛ばしたりしたことはない」

不快そうに反論するベツリに対して、ブリックはおどけて両手をあげながら話を進める。


「冗談だよ。で、そのシンジュローってヤツの人相は?」


「鋭い目の細身の男。髪は黒。服装が特徴的だった。見たこともないほどピッチリとした細い紺色のジャケットとシャツを着ていた。仕立てがとんでもなく良かった。高価な衣装だだろう」


ヤマズの説明はよどみなかったが、やはりその言葉はわずかに震えていた。


「へぇ……見たこともないほど細身のジャケットとシャツね……」


ブリックは神妙な顔つきで、顎の無精髭に手を当てつつ、目を細め、ヤマズとベツリの後ろの壁を凝視する。


「心当たりはあるのか?」

ヤマズが身を乗り出す。


「さっきまでは全く無かった……が……今、そこの戸口に立っている男がそう見えるが?」


ブリックは顎でドアを指すと、ヤマズとベツリがものすごい勢いで振り向く。戸口に立つのは、細身のシルエットの男。一昨日、ガターボードで二人を圧倒したあの男に間違いなかった。

あの夜と同じ姿で、ごく自然にそこにいた。傍らに猫獣人の少年を伴っている。


「シシシシ…シンジュロー?」


ヤマズは震える声でつぶやいた。ベツリもまた、目を見開き、信じられないものを見るかのように戸口に立つ男を見つめていた。


「先日はどうも。またお会いしましたね。…ところで、私の名前はシンジュローではなく、進次郎です。そう名乗ったはずですが。」


室内に緊張が走る。

「貴様!何しに来た!俺たちを追いかけてきたのか?!」

身構える二人に、進次郎は意外な返答をした。

「いえ、私は赤煉瓦団の団長の方に会いに来ただけです」

このガラが悪い場所でも進次郎の態度は堂々としていて、恐れがない。


「へぇ、それは光栄だ。いま巷を騒がしているシンジュローさんがこんな汚いアジトにご訪問とは」

ブリックはゆらりと立ち上がり、手に持ったナイフを進次郎に突きつけた。


「で、そのシンジュローさんがウチに何の用で?俺がアンタが探している赤煉瓦団の団長ブリックだ」


進次郎は暴力の脅しに動揺することもなく、要求を言ってのけた。

「私は進次郎と申します。このマシタ少年を、しばらくお借りしようと思いまして」

「なんだと?」

ブリック初めて、進次郎の後ろにいる少年が、自分が小間使にしている猫獣人の少年マシタであることに気づいた。


「おぅ……マシタよぅ……変なやつ連れてきやがって……こっちとしては、便利なんで勝手にもってかれると困るんだが……なんの目的だ?」


盗みか、使いっぱしりか、ブリックが思いつくのはその程度だった。


「私はしばらくここで、住人の皆さんの相談に乗ろうと思いましてね。この街に詳しい彼の助けが欲しいのです」

「相談?」

かなり意外な申し出だった。この獣人街に外から人間が入ってくることは珍しいし、そこに居つくこともない。だからこそブリックたちのような集団が幅を利かせられるのだが。


「えぇ。この街の皆さんはいろいろと生活にお困りのようですので」

「クソ溜めみたいな町だから、誰でも困りごとは売るほどあるが…」

きれいごとをあまりにさらりと言ってのけるので、ブリックも毒気を抜かれて、駆け引きもなく答えてしまった。

「悪いようにはしませんよ」


「ふん……いいぜ。アンタの好きにしな」

ブリックはナイフをしまい、手をひらひらさせながら二つ返事で許可をだした。

あまりにもあっさり話しが通ったことにびっくりするマシタ。だが、ヤマズとベツリはそれ以上に呆気にとられていた。


「ありがとうございます。このご恩はいずれ……」

進次郎は深々とお辞儀をすると、ヤマズとベツリに一瞥もせずに、猫少年マシタとそのまま出て行ってしまった。



★☆


ヤマズとベツリは黙っていられない。


「ばっ!馬鹿か?何故そのまま帰した?」

商人ヤマズがブリックの胸ぐらをつかみ、二重顎で迫る。


「おいおい落ち着けよ。なんで俺がヤツとやりあう必要があるんだ?お前らが言うとおりだとするととんでもない使い手なんだろ?」


確かにブリックには進次郎とやりあうメリットはない。が、狙ってる獲物をやすやすと返したことは、ヤマズとベツリとしては納得行かない。


「ま、ウチのシマで何かやらかすのは気に入らねぇが、事を構えるほどでもない。スジを通しに来たのも悪くねぇ。こっちの痛手はたかだか獣人のガキの小間使いくらいで、これもどうでもいい。むしろスパイさせるのに都合良い」

あっけらかんと言ってのけると、胸元のヤマズの手を払いのけ、自分の椅子にどっかり座りこんだ。


「ブリック。お前、このヤマを独り占めするつもりじゃないだろうな?」

憎々し気なヤマズの視線をブリックは軽く受け流して返す。

「知らんよ。そもそも俺はまだ何も信じちゃいないし……ただ、まぁ、お前らもうちのシマで動くときは俺に一声かけろよ。じゃないと筋通す分だけあのシンジローの方がマシだってことになる」


そこまで言うと、ブリックは足を黒いテーブルにどっかりと乗せ「さぁ、今日はここまでだ。帰った帰った」と、いまだ納得いかないヤマズとベツリを追い返してしまった。


(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)

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