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猫少女と猫少年、かけっこ勝負

(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)

猫少女ヴェルニーと猫少年マシタのかけっこ勝負。このあたりで一番高い建物、物見の塔の上に括り付けられた旗を先に取ったほうが勝ちという勝負。シンプルながら、かけっこと言うにはあまりにも立体的すぎる勝負だった。そもそもその塔はちょっとしたビルくらいあり、簡単に登れるようには見えない。

現世で言うなら、パルクールすら超えている。


「ヴェルニーたちの種族が街で走ってるのは見たことあるけど……こういう勝負があったとは知らなかったわ」

ヨーコは腕を組んで準備する2人を見ている。


「あんな塔に競争で登れるもんですか?」

「彼らは身軽だからね……でも、あの猫少年のほうが体が大きいから有利だとは思う」

「それはそうでしょう」進次郎も同意する。

「シンジロー、貴方の力でサポートできる?」

「自信はないですが……やってみましょう……」


進次郎はまだ自身の力がどのようなものであるのかわからない。

当たり前の事を言えば本当になるのか。

『大丈夫』だとか『勝てば官軍』といえばヴェルニーが勝てるのか。

それでもサポートできることならなんでもやろうと考えている。


路地裏の空気が張り詰める。曇り空から、小粒の雨が降りはじめる。


「俺に勝とうなんざ、千年早いな、ヴェルニー。俺が勝ったらお前にも俺の仕事を手伝ってもらうぜ」

黒い髪と耳を揺らしヴェルニーをにらむ。


「アンタ私に勝ったことないのによく偉そうなこといえるニャ?」

身長は頭1つも低いながらも、不敵な態度をとるヴェルニー。


「昔の話だ」

ヴェルニーの煽りに苛つきながらも、かがんでスターティングポジションに付く。

クラウチングスタートというより、猫が獲物を狙うときのような姿勢だ。

ジュールが、二人の傍らに立ち、開始の合図に入る。

スタート前の近況の沈黙。

「位置について…用意……」ジュールが両手を斜めに上げ、ベルを鳴らす。


カラン!


ベルの音共に、マシタが地面を強く蹴り、勢いをつけスタートする。あっという間にヴェルニーを置き去りにした。路地に力強い踏み込みの音が響く。ヴェルニーが遅れて追いかける。その差2メートル。

路地のゴミ、崩れかけた木箱、ぬかるみ。二人は障害物を軽々と避けて進む。この街でそだったふたりはこんな勝負には慣れている。マシタは力強く。ヴェルニーは軽やかに。それぞれのスタイルで街路をつむじ風のように駆け抜ける。

つづいて、二人は壁を駆け上がり、屋根の上に出た。スラムの風景が二人の眼下に広がる。屋根から屋根へと飛び移り、二人は疾走する。屋根は二人の足音とともに軋む。ヴェルニーは軽やかなステップでマシタとの距離を詰める。やがて手が届く距離になった。不安定な場所では体の軽いヴェルニーが有利のようだ。

「行けそうですね」

「そうね。立体的コースだとヴェルニーが有利かも…」

二人がより高い屋根に移ろうという瞬間、マシタは急旋回してしゃがみ込み、追いすがってきたヴェルニーの足元を払う。不意をつかれたヴェルニーはバランスを崩し、屋根から転落してしまう。建築用に積まれた木々の上の転げ落ちるヴェルニー。体が叩きつけられる衝突音。進次郎とヨーコが息を呑む。

「ウニャ〜!」

ヴェルニーは瓦礫の中から声を出した。意識はあるようだ。だが、二人の差は高さも含めて10メートル以上。

「言ったろ勝てないって。お前は単純すぎんだよ!」

振り返り、嘲りつつも、走り続けるマシタ。勝負は決まったも同然だ。


「やっぱり普通に勝負はさせてくれないみたいね。シンジロー、助けられる?」

「やってみます……ヴェルニー君は必ず勝てる。『勝てるということは、負けないということです』」

進次郎は宣言した。そして白い閃光が……光らなかった。


「嘘!?光らない!?」

「……!?」


2人が動揺する間に、ヴェルニーが体を弓のようにしならせて跳ね起きた。後ろ足を壁に押し付けて力を貯める。


「うー!にゃー!」


その体さばきは、夜空に打ち上げられる花火のようだった。落ちる前に立っていた屋根まで一息。手が軽く屋根に触れると同時に、屋根の下の壁を蹴って、あっという間に屋根の上に戻った。そのまま滑らかに次のステップ。城門を打ち砕く砲弾のように水平に飛び、距離を詰め、塔を登り始めようとしていたマシタにあっという間に追いついてしまった。呆気にとられるマシタの肩を踏み台にして、跳躍し、はしごの段を次々と蹴って、見る見る登っていく。そのさまはさながら、地面から天に伸びる稲妻の様だった。


ヴェルニーは最後の足場を蹴り、大きく跳躍し、一回転し、塔の頂上に悠々と降り立った。そして、路地の花を摘むかのようにやすやすと旗を手にした。

雲が途切れ、陽の光が風にはためく布を照らした。

マシタは、塔の下で、信じられないという表情で、ただ立ち尽くしていた。


「……やったニャー……!」

ヴェルニーは誇らしげに旗を掲げる。


「すっご……」

ヨーコも呆気にとられて見つめている。


「ねーちゃんやった!」

ジュールは無邪気にはねながら姉の勝利を祝っている。

ヴェルニーは旗を持ったまま身軽に塔を降りる。


「ヴェルニーが勝ったのは良かったけど……シンジローの能力は発動しなかった?」


進次郎の能力は「誰かを助けるために、発言どおりになる能力」のはず。

その条件が間違っているのではとヨーコは不安にかられた。


(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)

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