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再会、ヴェルニーとマシタ

(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)

ハマについた翌日、進次郎とヨーコはヴェルニーに案内されて、彼女の家族の家に向かった。

街の中心部からはだいぶ外れたところにあるらしい。


「国を獲るとか言った割には、こんなところに来てる暇あるの?」

「まぁまぁ、せっかくヴェルニーの弟さんに会えるんですから」

納得してないヨーコを進次郎はなだめる。元々、ヴェルニーが進次郎とヨーコを会わせたいと言ったのだから、会っておくべきだろう。


ヴェルニーが目指しているのは、獣人街。ハマの郊外にあり、スラム街と言ってもいい。道は左右にごみが積まれており、お世辞にも綺麗とは言えない。


そんな荒れた道もヴェルニーにとっては馴染みの道のような迷うことなく二人を先導していく。

「こっちだニャー」


雑然とした、荒れた路地の奥に、ヴェルニーの弟の家があった。

家とは言っても扉もなく、かろうじて天露しのげるだけのあばら家。


「ジュール!おねぇちゃんがかえってきたニャー!!」

窓らしき隙間にヴェルニーが首を突っ込んで叫ぶ。


「姉ちゃん!」

床に転がったガラクタを蹴飛ばしながら、ヴェルニーとよく似た、小柄な少年が姿を見せた。ボロボロの服に、ボサボサと伸びた髪。ヴェルニーと同じように猫の耳がある。声は快活だが、肌には擦り傷やあざが見える。


2人は抱き合って、頭を擦り付ける。ヴェルニーは眼に涙を浮かべている。

「元気そうで良かったニャー!」

「危ない連中のところに行ったまま帰ってこないから心配してたんだぞ!」

ジュールと呼ばれた少年は声をぶつけて泣いている。


「ごめんニャー!わたしもいろいろ危なかったんだけど、シンジロー!が私のことを助けてくれたのニャー」


進次郎は、ジュールのもとに進むと、膝を折って目線を合わせる。

「はじめまして。ジュール君」

「姉ちゃん助けてくれてありがとう……シンジロー」

泣きながらもジュールは進次郎に礼を言う。


「むしろ私のほうが助けてもらっているよ」

そう進次郎は微笑んだ。


「シンジローは悪いやつをぶっ飛ばしてくれたの?」

眼をキラキラ輝かせながらジュールは聞いた。


「いや…ぶっ飛ばしたわけでは……」


「ふふーん。シンジローはぶっ飛ばすよりすごい力があるのニャ!」

さも自分の手柄であるかのようにヴェルニーは自慢げに胸を張る。


「すごいや!どんな力なの?」

「シンジローが当り前のこと言うと、なんかいい感じになるのニャ」

雑な説明だが、流布している噂話よりは遥かに的を射ている。


「うーん?アタリマエのこと?」

「そう当たり前のことを言うと、当たり前のことが起こるのニャ」

「よくわからないけどすごいね!」


ジュールはよくわからないなりにも姉の言うことに納得したようだ。

目を輝かせるジュールとヴェルニーに目線を合わせて、進次郎は語りかける


「ヴェルニー、ジュール。君のお父さんお母さんはいるのかな?是非ごあいさつしたい」

「……いないニャ……遠くへ行っちゃって…戻ってこないニャ……だからワタシががんばらないと…」

肩を落としながら、ジュールを引き寄せるヴェルニー。


「そうか……悪いことを聞いた」

「ちょっと…進次郎いいかしら?」

ヨーコは手招きをして顔を近づけると、ヴェルニーとジュールに聞こえないように進次郎にささやいた。


「このへんの獣人の大人は徴兵に駆り出されるのよ」

「なぜ?」

「ハマみたいな都市国家は国の間で和平協定が結ばれていて、正規の兵が出せないの。それで獣人を集めて、無関係の形で出すのよ。末端が勝手にやった。みたいにして処理しちゃうの」

「鉄砲玉みたいなものか……」

「テッポーダマ?はわからないけど、とにかく使い捨て。だからヴェルニーの両親もおそらくは……」

「そうか……」

進次郎は一瞬、歪ませた眉の根を戻して、笑顔でジュールに向き直った。


「ジュール君。お姉さんがいなくて大変だったろう。何か困ったことはなかったかな?ご飯は食べれてるかな?」

「……えっと…姉ちゃんのお金があったから…それで…」


ジュールは俯いて言い淀む。


「あの……その……」

うつむいた眼には恐怖の色が浮かんでいる。この子は明らかに言えないことを抱えている。


ヴェルニーも心配そうに弟の顔を覗き込む。


「そうか……大変だったようだな……」

進次郎は察して温かい言葉をかけ、膝を折り、ジュールの細い両肩に柔らかく手をおいた。

「でも、助けを求めることは恥ずかしいことではない。助けを求めることは、助けを求めるという勇気だ。


そして一際優しい声でジュールに諭した。


『助けを求めるということは、誰かの助けをもらうということだ』

そういうと、また白い閃光がひらめく。


「シンジローの……力?」ヨーコが見るのはこれで3度目。

ヴェルニーの言った「当たり前の事を言うと、いい感じになる」の進次郎の力。


ジュールの眼に生気が蘇り、うなだれていた姿勢から背筋が伸びていく。

そして、堰を切ったかのように語りだした。


「あっ!あの!ぼく、この辺を仕切っているマシタに悪いことを手伝わされてて……言うこと聞かないと暴力を振るわれて…」


悪事を下っ端に暴力で押し付ける。どこの世界にもある光景だ。


「……そうか…勇気を出して、よく言ってくれた」


進次郎は顔を強張らせつつも、猫少年を優しく抱きとめる。そ

の温かい抱擁にジュールは大声を上げて泣き始める。


「そんな……マシタが……」

ヴェルニーの両の手が固く握りしめられている。


「ヴェルニー、マシタという人を知っているのか?」

「マシタは……私の幼馴染……そんな事する子じゃないニャ……」


その時、ジュールの泣き声に被せるように大きな声が割って入った。


「おうおう!ヴェルニー!戻ってきたのか!?」

表の路地から、猫獣人の若者が現れた。ヴェルニーより大きく、進次郎と同じくらいの身長、黒い髪。ガラは悪いが、精悍な体つきをしている。


「マシタ!」

ヴェルニーが黒髪の猫少年を睨みつける。


「ヴェルニー!久しぶりに会えて嬉しいぜ!」

マシタと呼ばれた少年は両手を広げながら無造作に近づいてくる。


「マシタ!ジュールに悪いこと手伝わせたってホントなの?!」

ヴェルニーがいつになく強い口調でマシタに聞く。

歯を食いしばって睨みつけるその姿は今にも襲いかからんばかりだ。


「人聞きが悪いな……俺はよ。俺達で生きていくために仕事を取ってきて、みんなにチャンスをあげてるんだよ!文句言われる筋合いはないね!」

悪びれる様子もなく、尊大に答える。


「でも……人から盗むとか…悪いことばっかりやらせてる!」

ジュールが懸命に告発する。


「しょうがねぇだろ。俺達みたいなハンパなのにはそういう仕事しか回ってこねぇんだからよ!」

「マシタはそんな事する子じゃなかった!」

「……んだよ!」

感情の応酬で距離が詰まる二人の間に進次郎が割って入る。


「マシタ君。君が生きるために仕事を受けているのはわかった。でも悪事は感心できない」

「るせぇな!他所の大人は黙ってろよ!こっちはこっちの事情があるんだよ!」


少年の拒絶の言葉がガラクタ転がる路地に響く。この荒れた境遇では綺麗事で済まされない状況なのは間違いないだろう。


「君も好きでこんな事をやってるんじゃないだろう?悪い奴らに強要されてるんじゃないのか」

「うるせぇな!こっちは仕事があるから受けてるだけだ!いい金になるんだよ!」

「悪い奴らは、弱い立場のものを使い捨てる。君も危ないことだけ押し付けられているじゃないのか?」

「るせぇ!黙れ!」


取り付く島もない。進次郎は攻め方を変える。

「そうか……わかった……せめて、この二人を巻き込むのはやめてもらえないか?」

「嫌だね!ジュールには散々仕事回してるんだ。抜けられちゃあ困るんだよ」

マシタの恫喝にジュールが怯える。いつもこんなやりとりをしているのだろう。


「それは君の事情だ。ジュール君の事情があるだろう」

「関係ないね!」

マシタは怯えるジュールに歩み寄り、掴みかかろうとする。進次郎の力の加護があったとは言え、恐怖が無くなったわけではないようだ。


「マシタ!勝負ニャ!勝負で決めるニャ!」

マシタがジュールに伸ばした手をヴェルニーが払う。


「んだと?!」

「私が勝負に勝ったら二度とジュールを巻き込まないで!」

ヴェルニーは両手を広げてジュールをかばう。指一本触れさせない構えだ。


「ヴェルニー、暴力沙汰は良くない」

「暴力じゃないニャ!私達の種族にはこういうときの勝負があるのニャ!」

「勝負?」

「かけっこ!!」


ヴェルニーはその華奢な胸を張って言い切った。


(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)

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