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コースカ商会総帥、リュード・コースカ

(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)

コースカ商会のハマ支店、本店より大きな建物に行商人や職人がひっきりなしに出入りしている。

そのにぎやかな建物の扉をヨーコは手慣れた様子で開け、大声で挨拶した。


「父さん!」

「ヨーコ!どうした急にこっちに来るなんて珍しいじゃないか」

ガッツリした体格に人懐こい髭面。ヨーコの父、リュード・コースカ。清潔感ある白いシャツとループタイが似合っている。


「久しぶり!ちょっとトラブル続きで大変でねぇ〜」

「トラブル……?」

父リュードは駆け寄ったヨーコを軽く抱きとめつつも、眉をひそめる。


「いや〜バシリスクに襲われたり、ゴロツキに絡まれたり大変で…」

「怪我はないのか?」

あまり大丈夫そうなトラブルには聞こえない。


「いや〜あんまり大丈夫じゃなかったんだけども…そのピンチを助けてくれた人がいて……父さんに紹介したいの」

ヨーコの目配せに応じるように、進次郎はリュードの前にでて、礼儀正しく挨拶する。


「はじめまして。進次郎と申します。お嬢様にはお世話になっております」

各国の文化に詳しいリュードをして初めて見る異装。細身のスーツ。

だが、その質は高く、そして、着こなしはとてもこなれている。

商人らしく値踏みをしつつ、リュードは進次郎に近寄って握手を求める。


「娘を救って頂き、ありがとうございます。父として、我がコースカ商会の総帥としても御礼を申し上げます」

「いえ、そんな。当然のことをしたまでです」

進次郎は軽く握り返す。なんの変哲もない、ごく普通の、だが流れるような言葉と所作にリュードは感じるものがあった。この男は無数の修羅場をくぐってきた男だと。そして温和な態度の背後に強く鍛えられた精神をも感じた。


(これは只者ではないな……ヨーコは何故こんな人物と……??)


「それで父さん、ちょっとシンジローのために力を貸してもらいたいんだけど…」


リュードは驚いた。自分の娘ながらヨーコは聡い。その分、警戒心が強いし、独立心が強い。そのヨーコが他人を助けるために、自分を頼るというのは意外なことだった。関心とともに警戒心もよぎる。なるほど見た目は好人物に見えるが、悪意ある人物である可能性も捨てきれない。

もし真意を隠しおおせることができるのなら、とてつもなく危険な人物だ。


「ヨーコ。シンジロー殿とはどのような縁で?」

笑顔のまま探りを入れる。その眼は笑ってはいない。


「縁ってほどでもなんだけど……さっき言った通り、昨日バジリスクに襲われているところを助けてもらった……のがきっかけ?後はゴロツキとのトラブルとかにつきあってもらって……シンジローにだいぶ助けてもらっちゃった。シンジローは何でもいい感じに解決してくれるから……」


「いろいろやらかしてるな…普段からもう少し気をつけろと…」

と小言を言いつつも、ヨーコが会って1日かそこらの人物に気を許していることに舌を巻いていた。


(これは……やはり相当のものだな…)


思いを巡らせた後、リュードはふと思いついた話題を口にした。


「そう言えば昨日、ガターボードで大きな事件があったそうじゃないか?」


「!?父さんが興味を持つような事件はなかったと思うけど…」

内心ビックリしながら平静を装って答える。

ゴロツキの件程度なら日常茶飯事だし、ヤマズ商会の一件は知っているのは当事者だけでどこにも漏れてないはずだ。


天籟(てんらい)話し手(スピーカー)って知っているか?」

「は?!」


ヨーコと進次郎は顔を見合わせる。何故、父親の口から、その名前が出てくるのか。昨晩、自分が考えたハッタリの商品名を。ヨーコは動揺を隠せない。


「聞いたこと無いけど……そ…そ…その…天籟(てんらい)話し手(スピーカー)って?」

自分が小脇に抱えているのがそのスピーカーだ。


「いや、今日はギルドでその話題で持ちきりでな。なんでもガターボードにとんでもない盗賊現れて、その魔法具を売ろうとしたとかいう話でな」

「盗賊?」

「10億ドルふっかけたそうだ」

「10億ドル!?」

こっちがふっかけたのは30万ドルだ。

それでも高額だと思ったが。10億ドルだとガターボードを全部買ってもお釣りが来る。


「それを持ち込んだのは恐ろしく強い盗賊で……あらゆる能力を持っていて……一番恐ろしいのが、魔法を無効にする力。あらゆる魔法が通じないし、契約魔法も消し去ってしまうとか。それだけではなく剣を取っては怪力無双、恐ろしい魔獣を使役し、眼力は鷹のようで一睨みで人を射すくめ、闇夜を風のような素早さで駆け抜けるとか。」

「はは……まるでおとぎ話ね」


合ってるのは契約魔法を無効にしたところだけだ。剣や魔獣は盛られすぎだ。


「本当におとぎ話みたいな話さ。そいつが王家の宝物庫から盗んだのが天籟(てんらい)話し手(スピーカー)。未来を告げる魔法具で、所有者に利益をもたらすとか。それを10億ドルで売りつけようとしたらしい。一介の商人に払えるわけがない額だよな。商人は動転して命乞いをしたが、当の盗賊は払えないと分かると去っていったそうだ。今日、商人ギルドではこの話で持ちきりでな。うちの本拠地がガターボードだもんだから、みんな私のところに聞きに来る。今のところ噂話しか耳にしてないがね」


「へ…へぇ……」

顔を引き攣らせながら、生返事をするヨーコ


(お父様はなにか勘違いしているようですが…)

(なんでこんなに話が盛られてるのよ?!)

ヨーコと進次郎はヒソヒソと話す。


「ははは…話が大げさすぎるんじゃない?」

「だよなぁ。現実離れしすぎていると私も思ったよ。だが、そいつを躍起になって探し始めている奴らが出てきてる」


「へぇ……そんなやつ本当にいるのかしらねぇ……」

ヨーコは答えるが、その眼は泳いでいる。


「商人ギルドにとっては話半分の話だが……魔術ギルドの連中はピリピリしてるぞ。『魔法をかき消す能力』は噂ですら連中の存在意義に関わるからな……正直、殺気立ってて手に負えんよ」


(どうしよう?商人ギルドにも魔術ギルドにも相談できなくなっちゃった)

(こんなことになるとは…)


「す…すごいわね…その盗賊のどこのどなたなのかしら?」

「皆目わからん。神樹信仰の教団の手のものではという見方もあるそうだが…まったくわからんな」

「へぇぇ…」


「すまんすまん。私ばかり喋ってしまったな。それで私は御礼に何をすれば良いのかな?」

「あーえー、ちょっと忘れちゃったから…まとめて明日話すね!とりあえず、しばらくここに泊めてもらえばそれでいいから!」

「おう……そうか?それならかまわんが……」


鷹揚に答えつつも、いそいそと部屋を出ようとするヨーコを見て、リュードは察した。

あの男、ひょっとすると……

(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)

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