明るい朝、セクシーな解決策
(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)
商会での朝が来た。窓から差し込む朝日が、食堂を明るく照らし出す。そこには昨晩のドタバタが嘘のように穏やかな時間が流れていた。
朝からヴェルニーは元気で、その小さな体いっぱいに喜びを表現している。
「今日はわたしの誕生日!わたしが生まれた日だニャー!!」
そう叫びながら、ヴェルニーは尻尾をぶんぶん振り、跳ね回る。借金も契約もなくなり、肩の荷が下りたのだろう。本来の明るさを取り戻したヴェルニーの姿に、進次郎とヨーコも顔がほころんだ。
三人で簡素な朝食を食べながら、昨日の一連の事件について語っていた。
麦の粥からは湯気が立ち上り、黒パンの香ばしい匂いが食欲をそそる。
「あのヤマズの顔見た?あいつがあんな顔するの初めて見たわ~」
ヨーコの口調もまた、昨日より軽い。トラブル続きの昨日は慎重な姿勢だったが、今日は快活で口も軽く、スープを飲むのも忘れて、昨日のヤマズの醜態を語り倒している。
二人の明るい様子に進次郎は安堵していた。
「とにかく皆無事でよかったです」
進次郎も麦の粥をゆっくりと食べながら、皆をねぎらった。昨日は大変な一日だった。異世界からの転移、怪物との遭遇、暴漢とのトラブル、ヤマズ商会での交渉と目まぐるしい位置日だった。
それでも、日々の政務の修羅場に鍛えられた進次郎にとってはどうということはなかった。
「それでシンジローはこれからどうするの?」
ヨーコがふと、この街についたときに聞いた質問を繰り返した。あの時はすぐヴェルニーのトラブルに巻き込まれてしまい、答えることができなかった。進次郎は一呼吸おいて、ゆっくりと口を開いた。
「説明した通り、私はこことは異なる世界から来ました。日本で選挙の応援演説をした後、気づいたらこの世界にいました。選挙対策委員長としての仕事もあったのですが…」
進次郎は今まで語ってこなかったことを説明した。日本のこと、選挙のこと、そして自分の立場のこと。しかし、その言葉はヨーコにはほとんど理解できないようだった。
ヨーコは硬い黒パンをかみながら、首を傾げる。
「うーん。ニホンっていうのもセンキョっていうのもタイサクイインチョー?ってのも聞いたこと無いわね」
「やはりそうか…とりあえず対策委員長は忘れてくれていいです」
顔の前で、両手を祈るように合わせ目をつぶって考える。特別なことが起きたと考えざるを得ない。
進次郎は気を取り直すように、話を切り替えた。
「とにかく元の世界に戻る方法を探したいと思います」
進次郎はきっぱりと言い切った。自分には果たさなければならない使命がある。
「どうやって?異世界から人が来たとか聞いたことないから全然わからないけど」
ヨーコが不安そうな表情で尋ねる。やはり異世界から人が来るのは普通ではないらしい。
「かなり困難な状況のようです…でも、こういう問題ほどセクシーに解決しないと」
進次郎が唐突に変なことを言い出したので、ヨーコが首をかしげている。
「セクシーに?」
ヨーコがおうむ返しに尋ねると、進次郎は真剣な眼差しで言葉を繰り返した。
「そう、セクシーに。あるいはクールに」
「あなたの言葉はいつもよくわからないけど、不思議と説得力があるのよね。でも今のは本当に良くわからなかった」
当惑をあらわにするヨーコ。それに対して、進次郎は少し照れたように笑った。
「褒めてくれてありがとう。考えてみるよ。」
「別に褒めたわけじゃないんだけど……そうだ!一つ提案があるの」
「なんでしょう?」
「ここから北に大きな街があるの。港湾都市ハマ。そこに一緒に行ってみない?人がたくさんいれば何か知ってる人もいるかもしれないかなって。あそこなら魔術ギルドもあるから、異世界転移のことも知ってる人がいるかも」
たしかにこのまま小さなこの街に留まっていても、元の世界に戻る手がかりは見つからないだろう。
「それは良いですね。チャンスは多いほうが良い」
「それに、ヤマズとかに逆恨みされてそうな気もするから、ほとぼり覚ましたほうが良いかなって」
ヨーコは付け加えた。昨日一日でヤマズ、魔術師ベツリ、ヴェルニーを襲ったチンピラと衝突してきたのだ。逆恨みされる可能性はかなり高いだろう。確かにこの街に長居するのは得策ではない。
「わかりました。是非そうさせてください」
進次郎は深く頷いた。
「ヴェルニーはどうする?家族のもとに戻るのかな?」
ヨーコがヴェルニーに尋ねる。しかし、ヴェルニーの答えは予想外のものだった。
「そうする!一緒に街に行くニャー!」
「いや、家族のもとに行くのでは?」
進次郎が思わず問い返すと、ヴェルニーは胸を張って答えた。
「わたしの故郷はハマだニャー!私もセクシーについていくのニャー!」
「ついてくるのは良いけど、セクシーじゃなくていいです」
そうして、進次郎、ヨーコ、ヴェルニーの三人は、港湾都市ハマを目指すことになった。
(本作品はフィクションであり、実在の人物や政治的主張とは関係ありません)




