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橋を渡れば新世界

作者: 和の心

 新淀川大橋の渡った先は新世界への入り口の様に私には見えた。

 

 大阪駅で降りるはずが間違えて新大阪駅で降りた私は、新しい地に踏み入った高揚で大阪の街を歩いてみたくなった。


 真っ直ぐ歩けば元々の目的地である『梅田』には着くというスマホで調べたマップの情報を頼りに何も考えず、フワッとした気持ちで歩き始めた。


 飲み会終わりのサラリーマン達が挨拶を交わしている横を避け、顔面格差の激しいカップルや、何語を話しているか分からない外国人、汗の匂いが5m後ろまで残っている坊主のオジさん、形容し難い髪色をした女、とにかく色んな人達を避けながら、足を前へと運んで行った。


 行く人、来る人、立ち並ぶ店やビルをキョロキョロと見渡す姿はきっと田舎者丸出しだっただろうが、そんな事は気にならない程、大阪という街への興味が湧いて仕方なかった。


 しばらく歩くと河川敷に行き当たってしまい、先へ行く道が見当たらなくなり、道を間違えたかと焦ったが、良く見ると橋に繋がる階段をすぐ近くに見つけた。


 フェンスで囲われている階段は、どこから登ればいいか分からず困惑してしまい、結局、階段周りをぐるっと一周してしまった。


 フェンスの中にはペットボトルやタバコのゴミが大量にポイ捨てされており、階段途中にある注意書きの看板は落書きで全く読めず、思わず「きったねぇ街」と呟いてしまった。


 割と体力が削られる長い階段を、それなりに重たい荷物を引っ提げている為に、歩いた事を軽く後悔し始めたくらいで、ようやく登り切り視線を上げた先の景色だった。


 暗くなった夜の世界に点々とした光を照らす高層ビル群が、立ちはだかるように並び立っている。


 それは私の事を「ウェルカム」と歓迎している様にも見え、「田舎者は帰れ」と威圧している様にも見えた。


 きっとこの橋の先には新世界がある。


 私の地元では見れなかった景色や経験出来ない世界が、この先に広がっているんだと駅を降りた時以上に興奮で満ち溢れた。


 橋の真ん中を電車が新世界へと向かって通り過ぎて行く。


 きっとアレが本来乗るはずだった電車なのだろう。


 もしあの電車に乗っていれば何の感慨もなく街に到着していただろう。


 この橋の先に見える世界へと自分の足で渡り切るまでに感じるこの興奮は、今後、私の人生にとって何事にも変え難い様に思えた。




 新淀川大橋を渡った先にはもう新世界は見えなかった。


 振り返った梅田のビル群にも何の興奮も感じない。


 ちょっとした気の迷いから、初めて大阪の街を歩いた感慨に耽ようと歩いた事を私は後悔していた。


 大阪に来て4年、新世界の様に思えた都会の街も今ではただ人の多いくっせえ街になっていた。


 あの日、同じ新淀川大橋を上ったその先に見た夜に輝く梅田の光景は今でも鮮明に思い出せる。


 その記憶の梅田は本当に綺麗で、4年経った今でも思い出せば何かが起こりそうな予感を感じさせる。


 振り返ると見える、この昼の街並みが、あの時に見た新世界を想起させた光景と同じ場所とは到底思えなかった。


 煌びやかに光って見えたビル群も、昼に見てもただの灰色の大きな塊にしか見えず、もう夜に見たって、つまらない光景にしか映らないだろう。


 この4年間、必死に生きて楽しい事も辛い事も、沢山の喜怒哀楽を経験してきたが、ここを新世界だと感じたあの頃の自分と何が違うのだろう。


 一つだけある明確な違いは、後ろの街が新世界でも何でもない事に気付いた事くらいだろうか。


 新淀川大橋の真ん中を御堂筋線の電車が通り過ぎて行く。


 アレに乗っていれば良かったなと重たい荷物を引き摺りながら思う。


 いや、そもそも大阪駅で済む話だった。


 この世界は私にとって一度だって見る必要も来る必要もない場所だったのだ。


 

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