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婚約者候補


模擬試合と入学時におこなった筆記試験の結果、

1位がアリオン、2位が私、3位がアラリック殿下という成績になった。


模擬試合の後、いろんな人からアリオンとの試合のことを聞かれた。

みんななぜ普通の魔法使いが神聖属性の魔法使いと渡り合えるのかが気になって仕方がなかったようで、

従魔のネイトが魔力を分け与えてくれていて、しかもアリオンが手加減してくれていたのだと話すと納得してもらえた。

本当はネイトに魔力を分けてもらってなんかはいないが、その存在に癒されてはいたし

アリオンが手加減していたかどうかは定かではないが、少なくとも私よりはまだ余裕があるように見えたので、あながち間違ってはないのかなとも思う。


とはいえ、それを差し引いても膨大な魔力をもっていることが知れ渡ってしまい、よくも悪くも目立つ存在になってしまった。

国家魔術師になるためのアピールとしては申し分ないのだが、変な噂がたってしまっては困る。

つい先日は私の魔力が想定外とのことで先生に神聖属性の印はないのか、と尋ねられたが、心当たりはありませんと答えたところだ。

それでも先生は一応、と言って私の身体をくまなく検査していったが見つからずにすんだ。

先生は、まぁ神聖属性じゃなくても強い人はいるからね、と言っていて納得してもらえたようだ。


また、やたら男子生徒から声をかけられることが増えてしまい少し困っている。

さっきも上の学年の男子生徒に声をかけられ、ランチを一緒にどうか?と誘われたが、友人と約束しているからと断ったばかりだ。


「一気に時の人になったわね、リオラ」


「あの試合、どうも他の学年の生徒たちも見ていたようよ。あなた、これからきっと大変よ?」


ニヤニヤしながら茶化すように言うニコレットと苦笑いしながら言うマーガレット。

ちょうど二人と一緒に食堂に向かうところだったのだ。


「どうして急に声をかけられるようになったのかしら」


私がそういうと、前から声はかけられていたじゃないの、とすかさずマーガレットに突っ込まれる。

それはそうだけどあいさつくらいしかしていないわ、と言うと、

いや、向こうはあいさつのつもりじゃなかったんじゃないかしら・・・とさらに困ったような顔をされてしまった。


「魔力の高い女性って、将来産む子供も魔力が高くなるってことが多いから、

そういうの重視する家柄の男性にはどうしてもモテてしまうんじゃない?」


「そーそー。それにリオラって気前もいいし美人だから余計に放っておかれないのよ」


我が国は貴族社会ではあるが、家柄だけで序列が決まるわけではない。

もちろん高位貴族のほうが重要な役職についたりすることが多いのは確かなのだが、

家柄だけではなく実力主義なところもある。

実力イコール魔力ともいえるため、魔力の高い女性ほどモテるのは確かだ。


でもニコレットとマーガレットも十分に強い魔術師だし、私なんかよりもずっとオシャレでかわいいし、

なにより自分が美人とは今まで思ったことも考えたこともなかったので

二人にそんなことを言われるとなんだか本当にそうなのだろうかと疑いたくなる。

そんなことを考えていると


「・・・リオラって賢いし、魔法もとびぬけて強いし、自分の芯をもった凄い人なんだけど、ある一部分においてはちょっと・・・鈍いというか、疎いというか・・・」


とマーガレットが言っていた。

あれ、私これ褒められているの?残念がられているの?


「まぁそこもリオラのいいところじゃない!」


っとニコレットがフォロー(?)してくれたので、ありがとう、と返すと、そういうとこほんと好き!とハグされた。

ニコレットからはいつも甘い匂いがする。これが王都のおしゃれ女子の匂いか。

クンクンと匂いを満喫していると、おー、よしよし、リオラちゃん!と頭をなでなでしてくれた。ちょっと照れくさい。


「リオラも恋するとおしゃれしたくなったりするんじゃない?」


「恋・・・そのうちするのかな、私」


「意外とうちの国って恋愛結婚も多いからねー。もちろん政略結婚も多いけど、どうせなら好き合ったもの同士結婚したいわね。」


私には今好きな人もいなければ婚約者もいない。

今まで異性を好きになったこともないので、自分が結婚するなら政略結婚なんだろうな、と勝手に思っていた。

恋愛・・・・・・恋愛結婚・・・・・・

一応恋愛している自分を妄想してみるが、全く映像にならなかった。


「今頃リオラの実家、いろんなところから求婚状届いてたりして」


「そういうのって、どうやって承諾とか断るとか決めるのかしら」


「うーん、まあやっぱ序列じゃない?いかに自分の家にとってプラスになるのかとか。あとは権力とか?相手が大貴族だったら断れないでしょ」


ふむふむ。

それならいっそ私自身にはまったく興味をもっていなくて、ただ魔力だけを求めてくれている相手と結婚するほうが気楽かもしれない。

今のところ恋愛結婚する未来がまったく見えないし、国家魔術師として働くことができるのであればこの際なんでもいい。

そんなことを考えているのが筒抜けだったようで、マーガレットに今すっごく色気ないこと考えているでしょう?と言われてしまった。


恋愛やら結婚やらの話をしている間にいつのまにか食堂に到着したようだ。

友人たちとの会話とは、たとえどんな話題でもあっという間に時間が過ぎていくものである。


今日も授業頑張ったからおなかがすいた。

今日のごはんはなにかしら、とメニューをみていると


「リオラさん!!ちょっと一緒にきてくださる!??」


と女子生徒数人に呼び出された。

たしかこの子たちはいつもアリオンの周りにいる子だ。

アリオンと話すときの彼女たちの目はいつもトロントロンにとろけているので、アリオンのことが好きなのだろう。


ん?アリオンファンからの呼び出し?これってもしや、体育館裏への呼び出し!?ついに!?


・・・と思ったが、連れてこられたのは普通の空き教室だった。


それにしても今さらなんの用があって呼び出されたのだろう。

今までなかったのに、なぜこのタイミングなのだろうか。

最近変わったことといえばやはり男子生徒からよく声をかけられるようになったことだが

アリオンファンの彼女たちにとっては関係ないはずだ。

なぜならアリオンとの会話はいつも通りなのだ。今までとなにも変わっていない。


そう、いつも通り。


「あなた、アリオン様と婚約されたって本当なの!?!?」


ほら、やっぱり関係な・・・


「へっ!?!?!?」


私はあまりに寝耳に水の話に大きな間抜けな声が出てしまった。

え、なんでそんな話に?なにも知らないし、なにも聞いていない。

なによりアリオン自身とまったくそんな会話になっていないし、彼の私に対するの反応も別になにも変わっていない。

そもそも高位貴族である公爵家なら、もっといい縁談が他にあるはずだ。

とにかくよくわからない話で彼女たちと敵対関係になるのは避けたい。

ここは全力で誤解を解かなくては。


「してないよ!!!」


「してるよ」


私が全身全霊誠心誠意を込めて全否定したと同時に、余計な一言をいう美しい男が現れた。


「アリオン様・・・!?」


「正確に言えば、婚約者候補、だけどね」


「ど、どうしてですの!?なぜこの方と!??」


とんでもなく混乱し今にも発狂しそうな女子生徒たちとは対照的に

アリオンはあくまで冷静でポーカーフェイスだった。


「何度も言うけど、婚約者『候補』だ。まだ婚約したわけじゃない」


アリオンがあまりに淡々と話すので、彼女たちは少しばかり落ち着きを取り戻したようだ。少しホッとしているようでもある。

っと周りは冷静に見えている私だが自分の頭の中は混乱しっぱなしだ。

婚約者候補?候補ってなに?婚約者になりたいわけではもちろんないけれど、

婚約者候補というよくわからないポジションはどんな意図があるのかわからなくて逆に怖い。

一体なにを考えているのか、この男は!っとアリオンに目で訴えてみせると

アリオンはフッと鼻で笑ってからアリオンファンに視線を戻した。

そして、さっきまでの微笑みは消え、真顔でアリオンファンを見つめていた。


「けれど、今後はこういうことはやめてくれないかな。仮にも婚約者候補になにかあったら・・・わかるね?」


美人が怒ると怖いとはよく言ったもので、アリオンファンたちは今までみたこともないアリオンの怒りの表情を見て

ひぃ・・・!と言いながら大きく顔を歪めてバタバタと教室を去っていった。

この場には私とアリオンだけが残った。


「行ったか。大丈夫だった?」


大丈夫じゃない。まだ全然思考が追い付いていない。


「びっくりした?一応今朝一番に君の実家には一報いれているよ」


びっくりどころではないくらいびっくりして、言葉がでてこない。

今朝実家に一報はいってる?そんなこと私が今知るはずないじゃないか。


「先日の模擬試合について父の耳にも入ってね。優秀な君を婚約者候補に加えようとなったんだ」


オズボーン公爵様の耳にはいって、そうなっただなんて。

お忙しいお方だろうに、どういう経緯で知ったのだろうか。


「・・・・・・聞いてる?」


その言葉にハッとどこかへいっていた私の意識が戻ってくると、すぐ近くにアリオンの顔があった。

私よりも少しだけ身長が高いアリオンが私の顔を覗き込んでいる。

鼻先がくっつきそうなくらい近く、後ろは壁だった。


「聞いてるわ!びっくりしただけよ・・・というか、近づきすぎよ!」


私がわたわたとすると、アリオンはハハッと楽しそうに笑った。


「いいじゃないか、婚約者候補だろう」


「婚約者『候補』だからよ。婚約者じゃない」


そういうと、アリオンはやっぱりきみはつれないなぁ、と言いながら会話がしやすいくらいの距離まで離れた。

とはいえ、友人だというにはあまりに近い距離。


「きみ、神聖属性を隠して国家魔術団に入りたいんだろう?それなら公爵家の婚約者候補という立場は大いに有効なんじゃないかな」


確かにそうだ。

しかもアリオンは公爵家のものとはいえ三男。家督は長男が継ぐと聞いている。

つまり、仮にこのまま婚約者となり結婚したとしても、社交界への参加はある程度必要になるだろうが

それでも国家魔術師として働くことに大きな支障はない。

それに彼は私が神聖属性だと知っていて取り繕う必要はないから気楽だ。

そもそも婚約者『候補』ということは、ほかにも『候補』になる人達が現れるだろう。

なんといっても公爵家。王家に次ぐ権力を持つ家なのだから、きっとたくさんの縁談があるはずだ。

そうしたら私はフェイドアウトしていけばいいのでは。

恋愛に興味はないし、なんなら政略結婚すらしないで生涯独身でもかまわない。


アリオンはアリオンであまりに女子にモテすぎていつも疲れているから、さっさとお手頃な女性と婚約したいのかもしれない。

実力主義でもあるこの国で、神聖属性の彼とやり合えるだけの魔力を持つ私は婚約者に据えるにあたって説得力がある。

おまけに婚約者『候補』とすることで、もし本気で好きな女性ができたときにすぐ関係を解消できるという免罪符までついている。


なんだかお互いの利害がものすごく一致しているように思えてきた。


「なんだかさっきまではとんでも物件だと思っていたのに、急に超優良物件に思えてきたわ」


「ははは!そんなこというの、この国できっときみだけだろうね」


アリオンはまたしても楽しそうに笑っていた。

そして、ふぅと一息ついてから、今度は自信にあふれた笑みを浮かべた。


「つい先ほど父から君の御父上からは承諾があったが娘の意思を確認してほしいという電報があった。さて、君の意思は?」


その問いに、私は心を決めた。


「婚約者『候補』でお願いします。『候補』で!」


私がそういうと、アリオンは柔らかい笑顔で手を差し出した。


「よかった。これからよろしくね、婚約者『候補』さん」


私はその差し出された手を握った。


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