模擬試合2
模擬試合は順調に勝ち進んでいった。
ドラゴンを従魔としていることが知られてしまったため不本意ではあるがかなりの魔力持ちだと周りに認定されてしまった。
もはや強さを隠す意味もない、というか、ドラゴンを使役しておきながら弱いだなんて格好がつかない。
神聖属性であることを隠せればいいのであって、強さを隠す必要はない。
吹っ切れたことで私は遠慮することなく模擬試合を楽しむことができている。
当初、学年の10位以内を目指すことを目標としていたが、気が付くとベスト4まで勝ち進んでいた。
次の試合に勝てば決勝戦というわけだ。
私の次の相手はリアンダー・ノヴァックという火属性の男の子のようだ。
「リオラ、って言ったっけ?同じ火属性だよな。普段は女の子には優しくする男だが、試合となれば話は別だ。
悪いが女だからといって手加減はしないぞ?」
「あら、リアンダー。あなたって優しいのね」
「は?今のが優しいか?」
「だって、全力で戦ってくれるのでしょう?早く手合わせしたいわ」
「リオラってちょっと変わってるよな」
そういうとリアンダーは隣の試合場に目をやった。
そこにはアラリック殿下とアリオンがいた。
「あっちは王子様と貴公子様が戦うみたいだな」
「そうね。女の子たちはほとんどあちらの試合を観戦するみたいね」
「さみしいねぇ・・・。でも、その分周りに遠慮する必要ないな」
リアンダーはそういってニヤリと口角をあげ、好戦的な顔をしていた。
ふふふ、そんな顔をしていていいのかしら?
私はあなたを一撃で倒してみせる、とっておきの技があるのよ。
「さぁて、そろそろ試合開始だ!・・・・はじめ!」
先生の合図で試合が始まると同時に私は自分の魔法で身体能力を強化し、素早くリアンダーの左側についた。
そして、だれにも聞こえないような小声で左耳に耳打ちした。
「ここだけの話、あなたってマーガレットが好きよね?」
「はっ!?えっ!?なん・・・!!??」
思っていた以上にいい反応をしてくれたので、もう少しからかってやりたかったが今は模擬試合中。
この後の戦いに向けて体力は残しておきたいのでここで仕留めておかなくては。
「ブレイズロアー!(炎の唸り)」
炎がゆらゆらとリアンダーを取り囲み、大きな唸りを上げながら業火がリアンダーに降りかかった。
「ず、ずるいぞ、リオラ!心理戦を使うなんで・・・!!」
「ふふふ、この程度で動揺して隙をつくってしまうなんて、まだまだね」
「くっそー!!!」
こうして私は無事に決勝戦まで進むことが決まったのだった。
私とリアンダーの試合が終わったので、隣の試合を観戦しようと思ったが
あちらはあちらで決着がついたようだった。
「ふぅ・・・。頑張ったつもりだったんだが、さすがだな」
「いえ、殿下の魔法も素晴らしかったですよ」
「お前に言われると嫌味にしか聞こえないな」
どんな魔法を使っていたのかは私も試合中だったから見れなかったが、勝ったのはアリオンのようだ。
女の子たちの黄色い声援が割れんばかりに響いていた。
どこに行ってもモテ男なのね、素はあんなんなのに・・・と思っていると、試合を終えたばかりのアリオンと目が合った。
目が合うと、少し不機嫌そうな顔をしながらアリオンがこちらにやってきて、私の左手をつかんだ。
アリオンの手は冷たかった。
「リオラ、きみ、試合中リアンダーとなにを話していたの?」
「試合中?」
「リアンダーの左耳になにか耳打ちしていただろう?なにを話していたの?」
「何をって・・・」
リアンダーが好きな女の子の話ですけど?とは言えない。
さすがの私もむやみやたらに好きな子について言いふらすのは悪い気しかしない。
それにしてもアリオンはなぜこんなに不機嫌なんだろうか。
殿下との試合には勝ったんだし、うれしいことしかないのではないか。
「それは秘密よ。内緒の話だから耳打ちしただけよ」
「内緒の話?誰にも言えないような?」
アリオンに掴まれている左手に痛いとまではいかないがさっきよりも強い力がかかる。
「まぁ・・・個人情報だし」
「・・・ふぅん」
全く納得していない様子で不機嫌な様も変わらない。
自分が仲間外れにされたようでイライラしているのだろうか。
「なによ。内緒話に入れなかったから拗ねてるの?あなたってそんなに内緒話好きだったっけ?」
私がそう言うと、アリオンは一層眉間に皺を寄せたが、そのあとは何かをあきらめたような表情をしながら大きなため息をついていた。
なぜそんな残念なものを見るような目を向けられて、大きなため息をつかれなくてはならないのか。
「きみって人は・・・策士なようで、小悪魔のようで、無垢だよね」
「はぁ?」
策士で小悪魔で無垢?なにを言いたいのかちっともわからないが、とりあえず褒められてはいないような気がする。
「きみって一筋縄ではいかないよねってこと。それじゃ、次の試合ではよろしくね。楽しみにしてるよ。」
言われた言葉の真意がわからず考えている間にアリオンはスタスタと休憩場まで歩いて行ってしまった。
「なんだったの・・・?なんかいろんな意味で置いてけぼりにしくれちゃって・・・」
とにかく次は決勝戦。しかも相手は最強の魔法使いといっても過言ではないアリオン・オズボーン。
初めて同じ神聖属性と一戦交えることができるのだ、と思うとワクワクしてきて
さっきアリオンに言われたことはまったく気にならなくなったのだった。