スライムストーリーは突然に
「あーあー。本日も晴天なり。冒険者の皆さん、本日も清く正しく美しい心で!」
街にいつもの冒険者を励ます王国からの美声アナウンスが響き渡る。
「はい、東京本部の冒険者ギルドになります。ご用件はなんでしょうか?」
「僕はププ・クリポ。勇者になりたくて訪ねて来ました」
「では冒険者登録でよろしいのですね?」
「よろしくお願いします」
「職業は勇者でよろしいのですね?」
ププ・クリポは憧れの東京本部の冒険者ギルドで勇者登録をした。
ププ・クリポは『一般貧乏特別支援お情けお涙頂戴普通科小学校』を卒業後、冒険者になることにしました。
本日より晴れてププ・クリポ(12歳)は勇者としてデビューしました。
「おめでとうププ・クリポさん、お祝いの印に剣と防具の一式をプレゼントします。たくさん魔物を倒してくださいね。世界の平和は君の手にかかっています!」
勇者ププ・クリポの誕生です。
ププ・クリポは早速街の外へ出かけました。
街の外は魔物がうろついており、とても危険な場所です。
やあ早速ププ・クリポは凶悪なる魔物スライムの姿を発見しました。
これはもう速攻で斬りかかるしかありません。
でやあああああっ!
ププ・クリポは一匹のスライムに剣を抜いて斬りかかって行きました。
剣先がスライムの体に触れるとスライムは文句を言ってきました。
「痛ぇな、この野郎! いきなり何すんねん! 危ないやろうがっ!」
「何で? 魔物がしゃべった?」
「いまどき魔物かて言葉ぐらい覚えるワイ!」
ほれと言わんばかりにスライムは胸に下げていたものを見せてきた。
「それはなんだよ?」
ププ・クリポはスライムに聞き返した。
「おめーそんなもんも知らんのか? これはなAIの自動翻訳機やで」
「えっ魔道具か何かですか?」
「AIを知らんのか今時の勇者は! あほに正義は務まらんからとっとと帰れ!」
「ぐぬぬ。言わせておけば。けどお前なんで僕が勇者だってわかったんだ?」
「せやからアホかお前は。振りかざした剣にも装備品にも勇者のって書いてあるやないか。それ勇者装備一式やろ?」
ププ・クリポは手にしていた剣を見つめるとスライムの言うことが真実だと知った。
スライムのくせにやるではないかとププ・クリポは感心した。
「目敏いスライムだな」
「アホの勇者やな、こちとら数百年も魔物やっとんやぞ。見たら分かるわい」
「うるさいです! 魔物は悪! おとなしく斬られてください。
えいっ、えいっ、ええーいっ!」
勇者ププ・クリポは剣先を相手に向け、縦斬り、水平斬り、回転斬りと勇ましく足を強く前に出し踏み込んでいきました。
勇者になったばかりのププ・クリポはしゃべるスライムなんか斬ってしまえばいいとまた剣を抜いて斬りかかりました。
これで5回ほど斬り付けたので5ほどのダメージを与えたつもりでした。
「アイテテテテ! せやから何すんねん! わしを殺すつもりか?」
「は? 魔物なんだから討伐するに決まってるじゃんっ!」
「 ちょっとまたんかい! このあほ勇者!」
「最弱魔物のスライムのくせに人様に向かってアホっていうな。僕は勇者だぞ!」
「だったらこっちも言わせてもらうで。勇者さんというのは優しい方でっか?」
「そんなの決まってるだろ、勇者がだれにも優しくなくてどうするんだ」
「そうやったらいきなり剣を抜くなんてあんまりやないかい!」
「えっ?」
勇者ププ・クリポは驚き戸惑っている。
「そっちが驚き戸惑うんか~い!!」
勇者に成りたてププ・クリポはスライムにツッコミを入れられました。
これは一本取られましたな。
「なにこのスライム……勘弁してくれよ!」面と向かいつぶやきました。
「勘弁してほしいのはこっちですがな勇者はん。魔物かて生きてるんやから」
「生きてるから倒すんじゃないか!」
「そやのうて、もっと生き物を大切にしなはれ。それが優しいって言うことやね」
「ぐぬぬ。それはそうだけど君は人間に100%悪さをする魔物じゃないかっ!」
「そのパーセンテージはどこのデータベースから抜き出して割り出したものなんじゃい! まったく根も葉もない話でっせ。被害妄想が生きがいの他人に罪をなすりつけたい自己完結のできないニンゲンたちの噂だけで言うとるんやろ!」
「口の悪いスライムだな、魔物が魔物のすがたでそんな風に迫って来たら、もはや立派な暴力であり、被害でしょうに!」
「勇者いうたかて所詮、フェミニスト気取りのええかっこしいですやなー」
「どの世にも平等、不平等や格差は確かにあるよ。それを嘆くのが悪だというのか? 人の生き血をすすって生きているお前ら魔王軍にそこまでいわれる筋合いなんてない!」
人間には人間なりの守りたい思想がある。
魔族とは永遠に相容れぬもの。
減らず口を叩き続けるスライムにしっかりと人々の訴えを伝えるププ・クリポ。
「それはね、ニンゲンたちの心の弱さの問題やねん。あんさんたちが弱すぎるだけやねん。それをうちらのせいにされても困りまっさかいな。はよう家に帰っておくんなはれ! そしてママに言いつけてママのおっぱいでも飲ませてもらいなはれ!」
「弱いからこそ修行をして強くなり、負けない努力をしていくんだ」
「ニンゲンの弱さを魔物の強さのせいにして? そんなんただの独りよがりでっせ」
「こっちは倒さなきゃレベルが上がんないんだよ。頼むからおとなしく殺されてくれよぅ!!」
「あんさんて、なんて身勝手なお人なんですか!? なんでスライムのワイなんや?」
レベルアップの基礎はスライムと相場が決まっている世界であった。
その説明を人間たちが魔物に提示する義務もなかった。
「なあ頼むよ、そこの名無しのモブスライムくん! どこにでも湧いてくる、その他大勢のおんなじ顔したモブモブのスライムくん頼むよ!!」
なぜだかスライムは遠くの方を眺めた。
「お前みたいな勇者初めて見たわ。魔物にレベル上げを頼むな! ワイは人間を襲ったことなんかマジで一度たりともないんやで。まじ勘弁してくれや!」
「どこ向いてしゃべってるの?」
勇者ププ・クリポはスライムを討伐できないとレベルが上がらないと不機嫌になりました。ププ・クリポはご機嫌ななめです。
もう、ちょっぴりイライラしてきました。
「世界の半分以上を占領しているダニレベルのスライムの主張にごまかされてなるものですか! 今すぐ楽にしてあげますよ──っ!!!」
勇者とは思えぬほど乱暴な言葉を吐きつけながら再びスライムを襲いました。
人類にとって魔物は天災である。害悪は害悪だ。
しかし業を煮やしたスライムは懐からスマホを取り出し警察に通報しました。
「もう怒ったぞ、通報してやるんだから! 無分別で自分勝手なエセ勇者よ、お前は傷害罪や! 永遠の牢獄にでも入るがいい!」
そう言って、ププ・クリポに指らしきものをビシッと突き付けた。
ほどなくして警察隊が50と機動隊が200と自衛隊が300と消防隊が500と交通安全隊700と一般警備保障隊1000が到着しました。
ププ・クリポは状況を見ながら、抜いていた剣を速やかに鞘に納めた。
「ざまあ見やがれ!お前は既に囲まれている。もう観念しろ!」
警察官とその他たちは、一応双方の意見を聞きました。
事情説明におけるいくらかの時が流れました。
「それは勇者さんが悪いですよ! 何の悪さもしてない者に突然斬りかかるなんて真似は魔王軍の配下のクズどもがつかう常とう手段ですよ!」
「差支えがなければ冒険者資格を見せてくださいませんか?」
一応警察官だというので、資格の確認をしたいと言っている。
資格ならさっきギルドでまちがいなく取って来たから見せてやることになった。
「ほらよ。ちゃんと勇者だよ!」
冒険者証を手に取った警官たちは次々と回し読みをしていった。
そして勇者の手に返した後、口々に言い始めました。
「ふんむ。これはっ!? 一般貧乏の生徒さんでしたか?」
「なにっ!? あ、あの……王国指定の特別支援制度の……か!」
「おお、人間の王様はとてつもなくお情けの深いお方と聞いている」
「お情けとお涙頂戴が三度の飯より大好物な、あの!」
「な、な、なんと! さらに普通科ではないか! 高貴でも何でもない普通科!」
「ヤングケアラー並みの忙しさから、勉学に励む暇がなくて学力不足のため、小学校しか出られなかった人だけに許されている、飛び級制度の勇者様でしたか!」
いや、そこをそんなに強調されても恥ずかしいとププ・クリポは頬を赤らめる。
「なんか、わざと声を大にしていってませんか?」
街やギルドに称えられながら、送り出されて来たが自信をなくしそうだ。
「いやいやいや、生活弱者様にしか判別しがたい底辺生活者の複雑な苦しみを理解できる者こそが勇者たる、資格ある者と高貴なお方たちは申しておりましたし」
「尊敬いたしますよ、勇者様! まったくていへんな任務ご苦労様です!」
大変というところを?
さらに最初に出会ったスライムも言葉を改めてきた。
「おお、エセ勇者なんていうて、すまんかったのう。勘弁してやってや。
ちゃんと貧乏暇ない出身の勇者様でしたか。
しかも高貴貴族出身の有能たちの高い納税で成り立っているニンゲン世界の、
国からど底辺お涙年金とかウソ泣き支援給付を手厚く受けていなさる、それはそれはご立派な勇者さんとは露知らずで。
どうかこの通りでおま。討伐だけは勘弁して下されや」
言うだけ言うとスライムは頭を下げる様に前かがみになった。
「高貴貴族?」民だって納税はしているとププ・クリポはいいたい。
結局、警察官とその他たちの意見はすべてスライム側を擁護するのであった。
勇者ププ・クリポはぐるぐると辺りを見回して、ある指摘をする。
「っていうか……警察官って言うけど、全員、スライムの仲間じゃないかよ!」
通報により駆けつけてきた2750匹の部隊は様々な形状を成したスライム族でした。スライムが服を着て歩いてきました。
スライム族総出により、さすがに悪意を感じずにはいられないププ・クリポ。
悪者はすぐ嘘を吐くものだ。
「君たちが正義だというのなら、多勢に無勢で決して僕に抵抗はしないはずだよな?」
「ああ、もちろんやで。そこはエセ勇者の言う通りやで! ワイらはあんたみたいな卑怯者やないから…………なっ!!?」
スライムたちを見回して、周囲の者たちにそのスライムの正義感ぶったセリフに二言がないことを確認して。
勇者ププ・クリポは駆けつけたスライム警備隊たちも勇者の剣で問答無用とばかりに一刀両断にしました。
誰のための勇者なのか。なんのための死闘なのか。
やらなければ、やられるだけだ。
勇者をやると決めたからには非情になれなければ、人類が滅びを迎えるだけなのだ。
出会ったスライムは人間を一度も襲っていないと主張した。
だが何者の甘言にも惑わされず、それがたとえ冤罪だとしても勇者の持つ剣は魔物を斬り、裁き続けるしかないのだ。
冒険者ギルドを出てくるときに受けたギルド長の助言が頭をよぎった。
「あれが魔物呼び……か」
スライムは窮地に立つと仲間の魔物を際限なく呼ぶ。
「聞いていたとおりだった。悪口とか嫌味とか粘着質だった」
スライムは冒険者に対して粘着をする。
「一番やっかいなのは、ひとの神経を逆なでしまくる、でっち上げと暴言による
「炎上」というスキルだって聞いていた。正直気が狂いそうだった」
何かの濡れ衣を晴らそうと話し合いを進めるとメンタルが侵され、自分に後ろめたさが生じて知らないうちに投獄されてしまうケースがあり、売り出し中の冒険者が心から潰されていくのだ。
やつらの話を真に受けてはいけない。死が待っているだけだ。
「大勢で寄ってたかって捏造の毒や火を噴くんだそうだ」
近年の魔物は本当に恐ろしいのだ、人間をたぶらかす技能が上がっている。
何はともあれ、ププ・クリポは勇者の使命で成敗した。
「はあ……、やっと経験値を入手したぞーーーっ!!」
一気に入手経験値の上限に達して、これ以上はレベルカンスト解放をしなければとなった。
「なにが無抵抗だよ…………完全武装しとるじゃないか……はぁはぁ」
勇者の剣は、勇者が本気を覚悟したとき一撃必殺の宝剣と輝くものだった。
ププ・クリポの目に見渡す限りの見事なまでの武器防具の戦利品の山があった。
勇者ププ・クリポはレベルが300を越えました。
「これ、勇者装備だったんだな。すげぇ!! 最っ高っーーだ!!!」
ああ、いい汗かいた。
ギルド登録初日の初バトルで経験値数十万をゲットした。
つぎはゴブリンあたりが順当かな、とププ・クリポは高い空を見上げた。
その顏は雲一つない青空のように晴れ晴れとしていた。
2026/5/4.19:41
脱字のご指摘ご報告がありましたので修正いたしました。ありがとうございました。




