表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

無名

作者: カイト

 永生なんて、僕にとって絶えることだと思った。このまま生きて、小さいことに感動して、少し悔しみを持って死んだら十分だから、いつ死んでもいいと思った。

 だから、Operatorsが作られたとき、僕は友達と一緒に、それを反対する運動に入っていた。“これは自然への不敬だ”とか、“僕たちに死の権利を渡せ!”とか、こんな不明な言葉が街中に響いていた。

 “自然はどうでもいいじゃん。”、“死にたくないなら精神を融合しなきゃいいじゃん。”と思いながらも、僕は“Operator反対”の旗を肩に置いた。

 そもそも、僕にとって、今の生活はもう十分だ。羨ましがられた両親を持っているし、行きたい大学も行ったし、二十年ぐらいかかったとはいえ、いい彼氏もできたし、アイドルのライブが見えなくなるのはちょっと悲しいけど、そろそろ死んでもいいじゃないかな。と、両親が亡くなってから僕はずっと考えていた。“短いけど、こんな人生も悪くない、でも、やっぱもう少し、彼のライブを見たいな。”

 “まあ、それをしただけで何も変わらないし、何もならないんだ。だから、僕のような人間は、死んだほうがいいかもね。”

 生きるなんて、自分を嫌がり続ける行動に過ぎないし、他人に面枠をかけるしか何もできないし、メリットゼロの行動だ。

 僕はずっとこんな考えを抱いていた。長生きしたい人の考えも知りたくもなかった。

 こう見たら僕は、そのウイルスに感謝すべきかもしれない。そのウイルスがない限り、僕は死をこんな甘く見続いたのだろう。

 そうだ。僕のすべてを変えたのは、あのウイルスだ。

 それは、平凡すぎる日だった。

 僕はニュースを見る習慣がなかったから何も知らなかった。ただ、SNSでは急にこんな報告が来た。

 ‘【ウイルス情報】11月24日1時27分頃、東京都中心部で感染性の強いウイルスが爆発しています。対策は作られていますので、心配は要りませんが、新種なのでご注意ください。’

 ちょうどこの時、一緒に住んでいる友達が出かける準備していた。

 “新種ウイルスがあるらしいから気を付けて。”僕はゲームをやりながら彼女に言った。

 “はーい。”

 “ご飯は?”

 “外かも。”

 “注意してって言ったばっかだけど。”

 “どっちも一緒じゃない?”

 “僕、気づいた。”

 “何を?”

 “お前に勝てないこと。”

 “は!”彼女は玄関で笑った。“今日出かける?”

 “授業ないから家にいると思うが、出るかもしれん。”

 “何それ?”

 “分かるはず…あっ!”ミスした僕は自然に叫んだ。

 “ゲームに集中してくれ!携帯で連絡からね。じゃ。”こう言って彼女は出かけた。

 これは僕たちのいずれかが出掛ける時に必ずある会話だ。お互いに注意をして、ご飯と出かける状況を確認する。(彼女からはあんまり注意しないが。)

  いや、言いたいのはこれじゃないし、聞きたいのもこれじゃないだろう。僕の生活ならどうでもいいのだ。事件発生のときを話そう。

 それは四時ぐらいで、知らない電話番号に連絡された時からだ。

 “XXさんですが、新種ウイルスで倒れたのでOO病院に来てください。”と。

 名前は出せないから、僕の友達をXXさんと呼ばらせよ。

 僕は少し緊張した。

 OO病院に向かう電車の中で、僕は反対行動の仲間からのメッセージをもらった。

 “だめだ。”と。

 電車で、数人が倒れた。

 僕はすぐに次の駅で降りた。その電車は駅から少し前に進んだら、止まった。

 駅の中にも、人々は次々と倒れた。

 僕の記憶はここでいったん止めだ。

 今覚えている最後は、SNSで僕の好きなあの人が生放送で、“みんな、大丈夫ですか。”という話だけだった。

 あとは、今までより強い、死にたくない考えだ。

 死にたくない。誰か助けてくれ。死ぬのは怖い。僕はまだ死にたくない。

 腕に刻んだ‘kill me’と真っ逆に、僕の頭に‘save me’としかなかった。

 『…五時三分十…登録完了…身分…名…』 

 メッセージ受信…完了。

 解読中…DNA認証が必要です。

 認証中…11%…24%…35%…11%…15%…58%…69%…85%…100%。

 身分確認 メンバーNO.A12507

 「ボイスメッセージ開始」

 諸君、

 このメッセージを受信しているということは、

 輪廻の輪から離脱し、永久とわ身体からだを手に入れ、偉大なる魂に昇華したということであろう。

 これは全て「計画」の通りであり、

 我々がこの星の最後の文明継承者になるであろう。

 

 我々に神のご加護があらんことを。

 「ボイスメッセージ終了」

 僕は病院にいた。

 病院というより、忙しい白い人と、死にかけた人しかいない地獄だ。多分死んだ人のほうがはるかに多いだろう。いや、どうなっていたのかもうわからないのだ、あの状態なら。

 目覚めた時僕は、Operatorになっていた。

 無様だなと思った時、死にかけた頃の記憶はすぐ浮かんできた。

 無様だ。

 甘いのだ。

 醜いな。

 僕は機械で作られた手を見て鼻で笑った。

 分かってもらえるのかな。今まで思った自分が、一瞬で崩壊した僕の気持ちを、分かってもらえるのかな。

 僕自身に対しての憎しみはこれで一気に増加したが、僕は、それでも生きたいと思った。

 いや、そういう気持ちより、僕を笑わせたのは、

 これで僕は死ぬ資格も失った。

 しかし僕はOperatorsを作った人の気持ちを分かった。Operatorsがもう少し早く作られたら僕の両親も…

 これで僕は無限に苦しくて長い時間を堪えないといけなかった、逃げ場はもうなくなった。

 僕の隣に置かれていた電話が鳴った。「残念ながらXXさんの意識登録は間に合えませんでした。…」

 僕は、親友を失った。

 親友だけじゃないかもしれない。

 今この体に何もないままだ。

 僕は生まれて初めて、死を求めていた。

 しかし今この体は、死ねなくなった。

 皮肉だ。

 僕は思わず開いた窓から空を向って飛んだ。

 「記憶転移完了。」

 “起きた瞬間に三階から飛び降りる人は初めて見たぜ?”また目が覚めた時、隣に医者がいた。三十歳もない顔に、疲れしかなかった。“今忙しい時期だからこんなこと勘弁してくれよ!”

 “ご…めん、なさ…い。”僕は口を開いた、僕でない声があった。

 医者は少し驚いたような顔だった。その驚きはすぐに消え去った。“新しいOperatorの値段は高いから覚悟しな。”

 家まで着いたのは午後だった。一人の家は嫌いなのに、僕は一人で生きるしかないのだ。

 壁に、「18時に家に着く!」の下に、「今日はカレーを食べたいのだ!」と書かれていた。XXの字だ。

 僕は地面に転んで座った。

 嗚呼、この体は涙さえ出せないのだ。

 一人の家に、時計の音が響いていた。

 僕は、人間をやめた。

 機械の体は丈夫だ。腹は減らないし、排泄も要らないのだ。そもそも僕は、腹や内臓なんてあるのかな。

 夜は長いのだ。

 SNS上は混乱していた。いや、今現在、混乱しないのは僕しかいないのだろう。この言い方もおかしいかな。僕は、混乱しているよりも、死んでいると言ったほうがいいかもしれない。

 僕は家から出た。このまま家に居続けると、僕は崩壊する。いや、死んだ人に崩壊なんてありえないのだ。でも、それでも僕は家から出た。

 僕はバーに行く人間じゃない。行くとしてもダーツをしに行っただけだ。家にダーツの施設を置いてから僕はもうバーに行くことをやめた。だが、僕はバーに行こうとした。

 僕の慣れないぐらい大きい音楽で踊っている人は、Operatorsか、死を向う人か、僕にはわからないのだ。彼らは同じに見えて、同じじゃないと感じた。僕は彼らに入ることをやめた。人とぶつかる時、体から伝わる金属の音は嫌いだ。

 僕はマーガレットをもらって、離れたところから踊っている人を見ていた。

 いつの間にか男の人が来た。

 アルコールのせいで少し酔ったけど、その男は昼の医者だそうだ。

 “君、こんなものを飲んだら体が壊れるよ?”彼は僕を分かったように言った。

 “ほっとけ。”僕は一口を飲んだ。“君こそ、病院にいなくてこんなところでいいのかい?”

 “はっ、”彼は苦しそうに軽く笑った。“先生が倒れてから俺はもう諦めた。見たことないし、空気以外のすべてで感染できるこんなウイルスを研究するのに三四年かかってもおかしくないのに、二週間で解決方法を作れって、Operatorsを使うしかできないんだ!長生はあいつらの夢じゃない?Operatorsを使え!”

 彼は一気に酒を飲んだ。

 “Operatorsなんて、生きているのかな。”僕は呟いた。

 “さあ、俺にはわかんない。”彼は僕に言った。

 僕は携帯を見た。22時53分だ。僕はこんな時間まで一人で外にいるのは何年振りなのかな。

 バーの音楽で、僕は体の震えを感じた。音楽で逃げても無駄だと思うが、それでも逃げたいのだろう。死という逃げ場はもうなくなっていたから。僕は踊る気分をした。

 “お前、音楽が好きなのか?”彼は僕に聞いた。

 “好きだけどどうした?”

 “これ、あげるよ。”彼は小さいゲームカードを出した。“この体で生きていたら、感情は消えていくのだ。このゲームカードは記憶転移の時使ったら、記憶は音楽で記録されるさ。国会からOperatorsに関しての説明は不完全だ。古い記憶は体に消されることも、感情が消えることも、説明されていない。この件を知ってるのは我々だけだ。”

 僕はそれをもらった。

 “これでお前も嘘つきの一人だ。”彼は酔ったらしい、“いや、お前も、俺も、死ねない罪人だ。”

 “ああ。”彼の言葉は、僕の頭に響いていた。

 23時のアラームが鳴った。僕はそれを無視した。

 意識が戻ったとき僕はすでに家にいた。昨日は幻のようだ、何も起こっていない感じだ。カーテンの隙間からこぼれていた朝日はいつのようだった。“朝ご飯を作らなきゃ。”と思って起きた瞬間、眼鏡を取る時手から伝わってきた変な触感は昨日を示した、僕は生きるしかできない人間になった事実を示した、この家はもういつものように笑い声で満たすことはないことを示した。

 時計にあった時間は10時50分だ。

 僕は起きて、トイレに行った。

 僕は、いつもと同じに生きてみたいからだ。

 鏡の中の僕は、僕の顔を持っていなかった。それは、昔の僕が欲しがっていた、今の僕が怖がっていた、恐ろしいほどきれいな顔だった。

 僕は誰だ。

 “君は私の友達だ。”

 “お前は誰だ。”

 “私はXX。”

 “君は…もう死んでいるはずだ。”

 “私はいつもここにいるよ?”

 “君は死んでいないのか?”

 “君がそう思ったら?君が未だ私のことを覚えているならば。”

 “よかった。お前がいなくなったらどうしよと思った。”

 “私は君の記憶に存在するのだ。”

 “そうなのか。”

 “そうだよ。だから…”

 僕は少し苦しそうな顔をした。

 “出掛けよ。”

 僕は着替えて家から出た。

 イヤホンをしなくても、曲を聴けるようになった。むしろイヤホンをつけられなくなった。

 店はほぼ閉まっていた。朝なのに、外で歩く人もそんなにいなかった。

 出掛けるとはいえ、目的地がないのだ。僕はウロウロするしかなかった。携帯が鳴った。卒業以来喋ることもないままのグループからのメッセージだ。

 「誰かいないのか?!」

 高校時代に仲良かった人だった。“あいつもOperatorになったか。”と思って僕は返事をした。

 「僕はいる。」

 既読数

 2

 「よかった。俺一人だけじゃなかった。」

 また他の人の返事だった。

 結局僕を含め、三人しかいなかった。

 それでも、僕は嬉しかった。

 携帯をポケットに入れて頭を上げたら、僕は病院の前にいた。疲れすぎた医者は中から出てくるところだった。

 “記憶のシンクロならCytusで行いますのでそちらにお越しください。”僕とぶつかった医者は条件反応のように言った。

 その医者とぶつかった時、体の奥から金属の音がした。僕は少し嫌になった。

 “あっ、分かりました。”と、僕は小さい声で言った。

 “Cytusに行く?”

 “ああ、そうしよう。先に見に行ったほうがいいかも。”

 僕はCytusに向かった。

 Cytusの総部はすごかった。ここだけ生きている感じがした。それはそうだろう、Operatorsを調整や、記憶をシンクロするところだし、ここ以外はできないから。しかし、今と離れたようなこの建物は、なんだか残酷に見えた。

 僕は頭を横に振り、この考えを捨てた。

 すこしの違和感はいつも僕の隣にあるものだ。

 僕は感じた違和感を捨てて生きてきた。

 “それ、やめたほうがいいかもね。”

 “それは無理だ。こうしないと僕は生きていけないから。”

 “君、いつそんなに寂しい人になったの?”

 “お前と会う前だぜ?”

 “早く気づけばよかったかも、少しでもこの寂しさを変えたいし。”

 “やめとけ。それは僕の一部だから、それを奪うな。”

 違う、僕は、僕という存在はすでに消えた。僕は意識しかないから。僕は未だ僕なのか?

 “ほら、またこんなことを考えた。”

 “でも、僕を構成した僕の体も脳みそも心臓もなくなったぞ?魂は頭にあり、心に存在すると、どっかで見たけどさ、僕は頭も心もないから、僕の魂はどこにあるのかな。”

 “さあ…”

 他人の変な視線を感じた僕は独り言をやめ、Cytusに入った。

 「今日は何をしますか。」機械はこう言った。

 “うん…せっかくなので、体、記憶のチェックでもしようか。”

 「しばらくお待ちください。」

 「北側のエレベーターで、十三階までお越しください。そこのロボットはフォローしますので、従ってください。」

 機械にある紙を渡された。

 “は…”僕は紙を持ってため息をした。

 “おい、どうした?ため息をすると幸せが逃げるぞ?”

 高校時代に好きだった男の声が聞こえた。

 その男の顔も見えたような気がした。

 “おい!大丈夫?”

 僕にゲームカードをくれた医者だった。彼の今の格好と今ここにいる理由を考えれば、彼は研究員だと僕は予想した。

 “そうだ!名前は未だ教えてなかったな!”彼は急に手を出した。“俺はHだ。”

 “あっ、僕はTです。”僕はその手を握った。

 “ずっと聞きたかったけど、お前は女なのになぜ僕を使ってるの?”

 僕は答えられなかった。

 僕は女という身分を捨てたから、‘僕’を使っている。と言ったら、きっと“なぜ捨てた?”と聞かれるから、僕は“言いたくない”と言った。

 “そうか。”彼の目はまだ諦めていないと言った。“ね、今記憶のシンクロをするつもりだよね。”

 “うん。”僕は返事をした。

 “付き合ってやろうか?”

 “それは…”

 “ああ、ありがとう。”

 彼は僕を連れて十五階まで行った。

 “こっちだ。”彼は白衣を着て、左のほうを向った。

 僕は疑いながら彼を追った。

 研究施設みたいな感じだ。二メートルぐらい高い窓を通して、中には人間が入れるぐらい大きなガラス艦が並んでいた。光で中は見えないが僕は少し怖く感じた。

 “おいお前!ここは立ち入り禁止だぞ!”一人の研究者が怒っているように僕に言った。

 気づいたらHの姿はもう消えていた。

 “困ったな。”

 “止めたらよかったな。”

 “お前のせいじゃないからいいや。”

 “お前、誰と話してる?!”研究者は僕の前に立っていた。“メンバーナンバーを教えろ!”

 “この子は俺と一緒だ。”どこからHが現れてきた。

 “関係ない人を連れじゃいけんじゃん!”

 “関係者だよ!”Hはこっそり僕に“ゲームカードを出して。”と言った。

 “ポケットの中。”

 僕はそれを出した。

 “そうか。”研究者はゲームカードを見て呟いた。“新しく入ってきた人なのか。”

 “うん、研究室を案内してるんだ!”Hは少し笑っていた。

 “それなら早くいってくれ!”研究者はため息をして、ゲームカードを僕に返した。

 “あっそうだ!”Hは僕を連れて少し歩いて、急に振り向いてさっきの研究者に言った。“Vに内緒にしてね!”

 “お前な…”研究者はどうしようもない顔をした。

 “頼む!”Hは頭を下げていった。“じゃ!”

 僕はあんまり分からなかったけど、Hに聞けなかった。

 周りが同じ景色だらけで、僕はほんとに歩いているのか少し疑って来た時、急に大きい鉄門があった。

 “門を超える…?”

 “うん…?”

 “なんで疑問句だよ!でも行かないほうがいいよ…”

 “なんで?”

 “虫の知らせ…?”

 “なんだよ!”僕は笑った。

 “どうした?”Hは僕を見た。

 “なんもない。”僕は笑いながら返事をした。

 “変な人だな。”Hも少し笑った。

 鉄門の後ろは、現実でないような球形機械があった。

 “中に入って。”Hはその機械にある、空いている区間を指した。

 僕はなぜかそうした。

 機械が閉まって、周りが宇宙みたいになっていた。

 “寝ていいぜ?”Hは言った。

 “うん…”僕は目を閉じなかった。

 機械は動き出したようだ。体が震えていた、骨、いや、金属の体が振動している。僕は気持ち悪いと思った。

 宇宙は急に変えた。僕は誰の記憶を見ているように感じた。それはウイルスが現れていなかった時のことだ。

 少し後、XXさんが出てきた。しかし彼女の顔が見えないままだ。

 これは、僕の記憶のようだ。

 違う、僕はそんなことをした記憶がない。

 他人の記憶なのに、なぜ僕は僕の記憶だと思ったのかな。

 画面が遠ざかって行った。

 『検査完了。』

 『エラー発生。』

 …

 「ボイスメッセージ開始」

 ようこそ、裏切り者。

 人間の身分を捨て、生物の身分を捨て、機械になった裏切り者よ。君の生きる理由はなんだ、君がここまで強く願った生きる理由はなんだ?

 君らはいずれ消え去るのだ。誰一人、自然を抵抗することはできない。君がもう一回死に襲われるときの顔はとても楽しみだ。せいぜい今を楽しめ、我は君が幸せに満たされる時に君の側に現れ、君を殺すのだ。

 これは呪いだ。裏切った罪人よ。

 もし君は政府の犠牲者、死を望んでいる人なら、君に救いをあげよ。春のない世界に啓蟄が訪ねる時、世界は目覚める。第98回の祈りが…

 「ボイスメッセージ中止」

 『システム中止』

 “おい!Hお前!…”外が混乱しているようだ。

 少し後、外は静かになって、機械は開いた。

 短時間の失明の後、最初に目に入ったのは、地面にある少しの赤。

 “血…?”僕は呟いた。

 その赤は、矢印のように書かれ、僕の斜め後ろを指していた。僕はそこを見た。機械の下に、紙のようなものがあった。

 僕はそれを出した。

〔 俺は監視されているから今は多分記憶が消されているだろう。

  ここにはウイルスに強い人々が保護されているけど、ここの上の人は彼らの存在を隠そうとしている。もしかしたら彼らは殺されるかもしれない。

  君を巻き込んでごめんだが、人類を救うことに手伝ってほしい。少し後になると君も感じると思うが、このままだと人間は感情を失うのだ。最後の最後になると、人間はきっとロボットになる。俺はそれを見たくない。君も見たくないはずだ!

  君が機械の中で見たのは君の記憶だ。覚えていないだろう?それがOperatorsの副作用だ。いずれ君のすべての記憶は、この副作用で消えるのだ。

  記憶を失うのは、感情、過去、生物としてのすべてを手放すことだと思う。だけどここはそれを隠して、人間を機械にするつもりだ。それは嫌だ!

  俺と同じ考えを持っている君ならわかるはずだ。

  分かってもらえるなら俺に手伝ってほしい。

  今から君の記憶も変えられると思うが、心配しないでくれ。この機械は君の記憶に影響できないことになっているのだ。だけど君は変えられたふりをしないといけない、彼らは君を監視するのだ。君の記憶は変えられていなければ君は殺されるのだ。君の存在すら消えてしまうのだ。だから何も知らないふりをしてくれ。俺の仲間が君に声をかけるまでには動かないでくれ。

  それから俺を見つけて、これを教えてくれ!そうしたら俺は全てを思い出せるから!

  啓蟄が尋ねる時、我々に勝利を!〕

 “…は?”僕は思った。

 外からまた誰かが来たようだ。僕は思わずに機械の後ろに隠した。

 ドアから一人が入ってきた。

 “君は?”その人は僕と目が合った。

 “連れられてきた人だが。”隠すのも無駄だから、僕は出た。

 “Hが連れてきた人か。”その人はため息をした。“他のは何か覚えていることは?”

 “…”僕は沈黙した。

 “まあ、私はVだ。”Vは僕に手を出した。

 “ぼく…T…と”僕はその手を握った。

 “今から君の記憶をチェックするから来てもらっていい?”Vは少し微笑んだ。

 “ああ。”僕はこっそり紙とゲームカードを体の関節に隠し、Vの後ろについていた。

 それから僕は一つの機械に入られ、意識を失った。


 いつの間にか僕は家に戻った。

 頭が少し痛い、記憶も雑だった。僕はベッドから起きていた。関節のところが少しおかしい感じがした。僕はそこを見た。紙が入っていた。

 そうだ。僕、何かに巻き込まれている。陰謀とかもあったような気がした。

 “おはよう。”

 “ああ、おはよう。”

 僕は携帯を見た。最後のメッセージは、数日前に高校時代のグループにある、僕が好きだったあの人が亡くなった話だ。

 僕は彼にさよならさえ言えなかった。

 “ああ。”僕は鏡を見て少しため息をした。

 “どうした?”

 “好きだった人が亡くなった。”

 “うん…”

 鏡の中、僕の後ろに、始めてXXの姿があった。

 “あれ?!”僕は振り向いた。

 “どうした?”彼女は僕を見た。

 “幻覚?”僕は自分の目を信じることができなかった。

 “なんだよそれ!”彼女は笑った。

 僕は洗面台を寄りかかってXXと話し合おうとしたとき、彼女の隣に、好きだったあの人がいた。

 “うわ?!”僕が持っているコップが落ちた。

 “そんなに驚く?”彼は笑った。

 “そりゃ驚くっしょ…”僕はコップを拾った。

 “まあいいんじゃない?”彼は変わらないままだ。

 “いいけど…”僕はコップを洗面台に置いて、朝ご飯を作ろうとした。

 “いやいや、よくはないだろう?”XXは言った。

 “まあ。人の多いほうが楽しいじゃん!”僕は卵を鍋に入れてXXに言った。

 “俺、OOOです。よろしくお願いします…?”好きだった人が固そうにXXに言った。

 “あっ、私、XXです。”XXも少し硬く返事をした。

 あんまりにも不思議な場面だから僕は大笑いをした。よく考えたら、Operatorになってから初めてこんなに楽しかった。やはり人の多いほうがいいと、僕は思った。

 壁にある時計が6時8分を指していた。

 妄想だけでも…目の前にあるのが幻だとしても…それでも…

 僕は卵を捨てた。

 Hが僕に“連絡まで待機”と言ったけど、“俺を探せ”とも言ったから、僕はどうすればいいかわからなくなった。

 XXとOOOが“それを忘れたほうがいい”と言ったが、僕はやはり気になっていた。

 Hの言った通りだ。僕は彼と同じ考えを持っている。しかし今になってきたら僕は逆にどうでもいいようになった。今この家には僕の友達がいる、これで十分だと思った。

 “逃げんな!って言ってくれよ…”僕はこう呟いながら、ゲームカードを頭の後ろに刺した。

 【プレイヤー登録。】

 【プレイヤー情報入力不可。新しいプレイヤーとして登録しますか。】

 (yes)

 【新しいプレイヤーとして登録するには、DNA登録が必要です、許可しますか。】

 (yes)

 【記憶検査が必要です、許可しますか。】

 (yes)

 【入力完了。】

 【ようこそ、記憶の旅へ。】

 音楽が頭まで直接に伝わってきた。音楽と共に昔の何かも覚醒してきた。忘れた恋心も、遠ざかった怒りも、本物の嬉しさも。頭が感情の嵐に呑まれていた。

 【長時間登録が確認されました。強制終了を実行。】

 夢から目覚めた感じがした。

 “あっ!やっと起きたわ。”XXが心配そうな顔をした。

 “お前…ゲームが好きとは言え、何日間止まらずにゲームに夢中するのはおかしいよ?”OOOもため息をした。

 “今…”僕は少し異常を感じた。言語能力が落ちたようだ。“何日…?”

 少し後、言語能力が戻ったようだ。僕はこう言った。“いいや、いいだ。”

 僕が欲しがった者は全て目の前にいるから、時間なんてどうでもいいのだ。それに、この体も、時間を気になるものじゃないから。もう何日経っても全然かまわないのだ。

 “Hは?”XXは机に置かれていた紙を指して聞いた。

 “そうだね…”僕はHのことを思い出して、少し考えた。“検査しに行こうか。”

 七日だけで世界がこんなに変わると思ってもしなかった。騒がしいと思ったが、騒がしいところか、人すら見当たらなくなってしまった。

 “こんなもんだったっけ…”僕は呟いた。

 “違うと思うよ…”XXが言った。

 “どっちもいいじゃん。”OOOは両手を頭の後ろに置いた。

 “っていうかどうやって行くかな。”僕は言った。

 “電車はだめだな。”OOOが考えながら言った。

 “タクシーも…”XXも少し考えた。

 “歩くのはやめてくれ!”僕は反抗した。

 “歩け歩け!”二人が言った。

 フィクションな日常の感じがした。

 いつの間にか僕はCytusに着いた。

 機械になってから辛いとか、疲れとかもなくなったから、自分はほんとに人間じゃなくなったという実感を体験して、嫌になってきた。

 それでも僕は生きるしかない。

 僕はその思いを捨て、Cytusに入った。

 前回より少し変わったような気がした。天井が前より高くなっていたようだ。僕は上を見ながら前に歩いたら、何かとぶつかった。久しぶりの人間の触感をした。

 “ごめんなさい…”僕は条件反応で小声で言った。

 “こっちこそ…”どこかで聞こえたような声だった。

 僕はあの人を見たら、Hだった。

 “あっ。”僕は思わず声を出した。

 “?”Hは僕を知らないような様子だった。

 “紙!”XXがこっそり言った。

 “あっ。”僕は紙の内容を思い出した。“ごめんなさい、人間違いでした。君は僕の一人の知り合いに似っていたからついに…”

 “ああ。”Hは納得できたようで資料を拾った。

 僕も一緒に拾うことにした。

 “啓蟄…”Hと近づいた時、僕は彼の耳元で囁いた。

 “?”Hは何かを思い出したようだ。

 “啓蟄が尋ねる時、我々に勝利を…”僕は独り言を言っているように、二人しか聞こえない声で言った。

 “!”Hの動きが止めた。

 僕は頭を上げて彼を見た。

 Hは少し泣いたようだ。彼の目には希望の光があったようだ。

 Hはそのまま倒れた。

 “おい!大丈夫?!”僕は思わず彼の体を支えた。

 人が集まってきて、ある男が彼を抱いて、僕の腕を掴んである実験室に入った。

 “お前は?”あの男はHをベッドに置いて、僕に言った。

 “僕は…”僕は出かける前にXXに“持ったほうがいいと思う”と言った手紙を出した。“はい。”

 あの男は手紙を読んで、笑った。

 “お前か。”彼は眼鏡を押した。“しかしなぜお前なのかな。”

 彼の態度になんだか腹立ったから僕は少し怒った声で言った。“僕で悪かったな!これで失礼する!”

 実験室から出ようとする前に、男は僕の手を掴んだ。

 “俺の悪いさ!謝る!”彼は笑いながら言った。“お前、性格悪いな。”

 “ムカつく!”僕、XXとOOOが同時に言った。

 Hは起きたようだ。男は彼に水をあけた。

 “ありがとう!”Hは一気に水を飲んで、僕に言った。

 “それは別にいいけど、なぜ僕?”僕は聞いた。

 “何の話?”

 “なぜこいつを選んだ?っていう話。”眼鏡男が言った。

 “直感。”彼は明るい笑顔をした。

 “それでいいのか?”男はHの頭を軽く敲いた。

 “いいじゃない?僕の感はすごいだぜ?”Hは空っぽのカップを男にあげた。“おかわり!K”

 “その名で読んだらキレるって言ったはずだ。”圭一はカップを取った。“Kじゃなくて圭一だろう?星野。”

 “そうだっけ?”星野は知らないふりをした。

 “お前な…”

 “星野…?”

 “違う人だと思う!”

 “でも顔も似ってるし…”

 “星野は死んでたはず…”

 “じゃ彼は一体?”

 “兄弟?”

 “おい!T!大丈夫?”星野は僕らの会話を中断した。

 “えっ?ああ、大丈夫。”僕は決心をして彼に聞いた。“な、星野は兄弟とかいる?”

 星野と圭一の顔は一瞬で暗くなった。

 “どうして?”少し後、圭一は僕に訊ねた。

 “いや…何となく…”僕は少し怖くなった。

 “いるよ。”星野はため息をした。“俺に一人の弟がいる。彼は新種ウイルスに強い体を持っているから、ここに保護された。俺もそれでここに入った。”

 “それなのに俺に彼を殺せって…”星野はベッドを強く叩いた。

 “ごめん…”僕は頭を下げた。

 “ふん…お前のせいじゃないから。”星野は元に戻ったようだ。

 “しかしお前が入れるっていうことは、こいつも何か役に立てるというわけだろう?”圭一も元に戻ったようだ。

 “ね、T。”星野は少し考えてから僕を呼んだ。“コンピューターは得意?”

 “まあ大学でそれを学んでるしな。”僕はドアを寄り掛かった。

 “よし、来い!”星野はベッドから跳び下りて、僕をひっぱって、実験室から出た。

 長い廊下はまるで同じところで進まないようだ。どこまでも同じ景色が広がって、感情のないような世界だ。

 それが今だ。

 僕の意識が無限に続いた廊下に消えていくところに、行った鉄門の前にいた。

 “留守番頼む。”星野は圭一にこう言った。

 “ああ。”圭一はドアの前で止まった。

 球体形の機械の後ろに、見たこともないほど大きい画面を持つスーパーコンピューターがあった。

 “これは、すべてのOperatorの記憶、意識を保存、操作できる母体だ。”星野は僕に言った。“これは君への依頼だ。テロになってほしい。”

 “は?”僕は聞いた。

 “お前にウイルスを作ってほしい。”光る画面の前に立っている星野は真面目な顔で言った。

 “ウイルス?”僕は彼の話を理解できなかった。

 “ああ。すべてのOperatorに運作停止という命令を出したいけど、Operatorの個体が持っている自衛機能がそれを無視することができるから、その自衛機能を廃棄してほしいさ。”星野はスーパーコンピューターの前にある椅子に手を置いた。

 “僕に今動いてる人を殺せっていいたいわけ?”僕は手を胸の前に置いた。

 “ああ、そういうことだ。”

 “僕の利益は?”僕は彼に聞いた。

 “君の友達を生き返せる。”彼は言った。

 “XXがまだ生きてる?!”僕は彼の言葉に気を引かれた。

 “今はね。”彼は苦しそうな笑いをした。

 “考えさせてくれ。”僕は答えた。

 “ああ、返事を待つよ。”彼は僕を連れてこの部屋から出た。

 僕は家に着く瞬間にゲームに夢中した。

 いや、現実から逃げたというべきだ。

 それが僕だから。

 あまりにも多い情報が頭に入り込んで、脳を壊そうとした。正確に言えば僕はその情報を処理しようとせず、その情報から逃げた。

 星野の話は、僕に選べということだ。

 自分を含む何億の他人の命と、僕の大切な人を含むどのぐらいいるかも分からない人の命を選べ、ということだ。

 僕にそんな選択はできるわけがない。

 僕にそんな責任を取れるわけがない。

 僕はただの、弱くて、情けなくて、醜くて、自分を認めない、ただの臆病者だ。

 だから、僕は逃げた。

 【プレイヤー登録】

 【DNA情報確認 メンバーNO.12507 T 】

 【ようこそ、記憶の旅へ】

 ……

 「」



 【プレイヤー登出】

 “おはよう。”星野の顔は目の前にあった。

 “うわ?????!!!!!!!”僕は驚きすぎてソファーから落ちた。

 “なんだよそのリアクション!”彼は笑いながら僕に手を出した。

 “なぜここにいるんだ?!”僕は彼の手を無視して地面から起きた。

 “ひ~み~つ~”彼はウィンクをした。

 “あそっ。”僕はそのウィンクから飛んできた星をさえぎって、水を取った。

 “あれ?水を飲むの?”星野は不思議な顔をした。

 “あっ。”僕は口元の水を机に置いた。“時々忘れるさ、もう人間じゃないことを。”

 “そうか。”星野は寂しい顔に変えて黙った。

 僕は家の中を見た。いつのまにメモが増えた。XXがいる時、僕らはいつもメモでメッセージや、考えことを残していた。“十時に用事があるから忘れないで。線路はこれだよ。”とか、“ここにこの計算法を使ったら…”とか。

 いつの間にこれを慣れたから懐かしさがあった。

 その代わりにずっと増えていないメモは僕にXXが亡くなったという事実を教えてくれる。

 XXがいなくなった以来。

 しかし今、そのメモは増えた。しかも僕の知らない間に普通じゃないぐらいの量で増えた。

 僕はそのメモに目を引かれ、一番近いメモを見た。

 “大災難、死亡人数は50億。生き残った人の多くはOperatorになった。ウイルスに強い人はわずか10億。その中、約3億の人が世界中のCytusに保護された。”

 XXの字だ。

 “3億…人数も合わないな…残った7億は…?”僕は考えながら呟いた。

 “7億人失踪。と言ってもほんとに失踪したか、それがわからないさ。”星野は言った。“今ここにあるCytusは85万の人が保護されている。”

 “どうやって?それだけの人数を保護するにはとんでもないぐらい大きいところが必要だし、それがそんなに早く確認されることもできないはず。”僕は彼の言葉に疑問をした。

 “頭が早いな。”彼は笑って僕を褒めた。 “気づいてないのか?Cytusは建立するときより大きくなってるよ、研究を言い訳にして。15階からは研究施設と言って、実のところ、16階になってくるとウイルスに強い人の保存施設しかなくなるのさ。アッ違うな、その人たちを研究するところも。”

 “保存施設って?”

 “君も見たんじゃない?15階の時、たくさんのガラス艦。その中はウイルスに強い人だよ。”星野は手で艦の外観を書こうとした。

 僕は前に見た不気味なガラス艦を思い出した。

 “15階にいるのは、俺の弟みたいな、研究者の家族や友人を保護してる。君の友達なら、58階にいるはず。”星野は続いて言った。

 “58階?!”僕は数字に驚かせた。“一体何階あるんだCytus には?”

 “対外部のは14階まで、15階から98階までは保護、研究室とか。Bossは99階にいる。100階はもう屋上になるし、母体からの命令やメッセージを発信する機械もそこにあるさ。”星野は指を数えながら言った。

 “100階なんて…よくできたな…”僕は一息入れた。

 僕はなぜか星野の話に惹かれた。その話の中は何かの違和感があった。その違和感の実体は一体何か、それを深く考えたら、脳に「エラー」が響いた。

 その音があまりにもうるさいから僕は考えるのをやめた。

 “しかしここ、いい居場所だね。”星野はソファーに座った。“お互いの生活を干渉しない、コミュニケーションも簡単に取れる。できるなら俺もここに住みたいな。”

 “ここはね、極端に排他の空間だぜ?”僕は星野の前に立って。上目線で彼を見た。“分かったら早速帰ってほしいんだ。”

 “まあもう少しいさせてくれ。”彼は頭を上げて僕に笑顔を見せた。

 その笑顔に僕は冷たい目で返した。

 僕は部屋に入って、コンピューターの前に座った。

 携帯もそうだ、電器を触ると不気嫌な電流の感じがするから電器を触ることは自然にやめた。それでも一人にいたいときはコンピューターの前に座ってしまう、この習慣は機械になっても治らないままだ。

 “おお、すごいな。”いつの間にか入ってきた星野は僕の後ろで言った。“なんか…動画で見たようなところだな。画面がこんなにあるのは初めて見た。”

 “監視カメラを家中に設置してるから、それを見るための画面だ。”僕はますますイライラしてきた。

 “そういえば前言った話はどう?”星野が僕の頭を触ったのが真っ黒な画面から見た。

 “触らないでもらえる?それ嫌いだけど。”僕は話題をそらそうとした。

 “ごめんね。って。返事は?もう少し待ったほうがいい?”星野は手を椅子に置いた。

 “ああ。”僕は画面上に映った彼の目を避けた。

 “そうか。”星野の顔に一瞬だけ失望な表情があった。

 “そろそろ時間だ。”少し沈黙の後、星野は急にこう言った。

 “時間?”僕が聞く前に、星野はすでに部屋から出て、玄関のところに行った。

 “じゃ決まったら連絡してね。いつも待ってるから、と言ってもできれば早めに決めてね。啓蟄がもうすぐだからね。”

 “なぜ啓蟄の?”僕は急に思い出した。

 “あの日は保存の限界だから、あの日で保存施設を止めることに決めたから。あの日で、すべてが終わってすべてが始まるのだ。”星野はドアを開けた。“じゃ。”

 “まっ…て。”僕の声が空っぽの部屋中に響いた。

 再びコンピューターの前に戻っていった。

 僕はコンピューターの前に伏せた。

 “何やってんのかな、私…”

 “違う、僕だ。”

 頭を腕の中に置いたまま上を見た。目の前にあるコンピューターの、真っ黒な画面の中、僕の顔は疲れているように見えた。

 そもそもそれは勘違いに過ぎないのだ。

 なぜなら今僕の顔はロボットに過ぎないからだ。

 XXとOOOもどこに行ったか分からないのだ。

 何もない空間の中、僕の何かが崩壊した。

 左のコンピューターの後ろに、何かが置いているようだ。

 僕はそこに何も置いてないはずだ。

 机を支え、体をあげて、手をそこに伸ばした。

 またメッセージだ。

 「俺は、いつもここにいる。

  君のしたいことをやればいい。

          ――星野 未」

 そうか。

 そうだ。

 そうよ。

 僕の好きなあの人の名前は星野未だ。

 真面目で、ちょっと人見知りで、なんだかおもしろくて、たわむれると怒っている感じで言ってくる、とてもとても、魅力的な人だ。

 なぜ僕は忘れたのかな。

 違う、消されたというべきだ。

 友空もそうだ。

 僕の大事な友達だ。

 女の子なのに名前は男みたいで、かっこよくて、いつも遅刻するから前からこれで喧嘩したりもしていた、だから毎日彼女は出かけるか、約束があるかを確認するのが習慣になってきた。いつも自分をおとこの娘と自称して、僕がいじめられるときも必ず仲間になってくれる、そんな人だ。

 僕の大事な人、僕の大事な思い出、僕を構成したものが、くだらない彼らの陰謀で消された。僕の生きる理由も、毎日の力も、日常も、心も、泣く権利も、くだらない彼らの陰謀に奪われた。

 ここまで来たら、ここで返さないと、僕はきっと、僕が殺した自分、過去にいる私たちに、笑われる。

 “決めた!”僕はメッセージを掴み絞めて、立ち上がった。“僕は、友空と星野のために、いや、僕の過去のために、僕のわがままで、10億ぐらいの人を殺すわ。”

 “それでいいの?”

 “うん。決めたから。”

 “10億の人を殺すなんて、頭狂ってるな。”

 “それがいいさ!”

 “でもそれで君も…”

 “それでいい。”僕は笑った。

 僕はコンピューターを起動させた。右下に、日期が輝いた。僕は啓蟄を調べた。3月5日、僕の24歳誕生日、すべてがこの手で終えて、すべてが始まる日だ。いいえ、何も始まらない、僕らの日常が戻る日、というべきだ。

 啓蟄まで、あと31日だ。

 

 決めたと言っても、Cytusはどのようなシステムを使っているか、プログラムの詳しい情報は全然知らないままだ。

 それに、Bossがいるなら、なぜ今までずっと行動していないのか。僕がゲームの中にいる時は一体何があったのか。よく考えたら変なところが多すぎるのだ。

 それでもなにもしないのも駄目のような気がしたから、僕はコンピューターに手を出した。

 「メールが1件届きました。」

 「おかえりなさい!メールが届いてるよ!」

 コンピューターの通信と、前に作ったAIカナちゃんが同時に通知した。

 僕はそのメールをチェックした。

 「初めまして、わたしはVです。君と同じ考えを持つOperator 

 です。

  突然ですがわたしは君たちの行動に参加したいのです。わた

 しは、すべての保存設備の権限を持っていますが、上から3月

 5日午後6時に設備の運作を停止するという命令がありまし

 た。私の大切な人も保護されているのでこの命令を反対しまし

 たが、何もできませんでした。今わたしはここに監視されてい

 ます、このメッセージもわたしがここのシステムを騙して送っ

 たのです。

  私にはもう何もできません。君の力を借りたいです。わたし

 はここのシステムや、使われているプログラムの詳しい情報を

 送りますので、ぜひ彼らを助けてください!

                        Yより。」

 メールに何かが付いていた。

 僕はそれを開いた。

 見たこともない複雑な符号、規律のない文字の並べ、点と線しかないところも少なくない。僕はこのようなプログラムは見たこともない。

 唯一の突破口がなくなった。と思った。

 点と線の並べは、モス符号に似っていた。僕はモス符号にずっと興味を持っていたから、その点と線の並べを見て、思い浮かんだ。

 モス符号は世界中に広がっていたから、その普通性は企業の情報保護に悪いからCytus はそれを使おうともしなかった。だからばれなかったのか。

 僕はその少しだけの点と線の並べを解読した。

 それから十日間、僕はずっとメールの解読に没頭していた。機械の指先と機械がぶつかる音や、ペンと紙の摩擦の音は部屋中に続いて、止まることはなかった。これを解けばわかるのだ。という思いだけで僕の体は働き続けた。

 すこしの頭痛も、快楽になってきたような気がした。

 2月14日の日が昇って来た時、僕は椅子に倒れた。

 このメールについているのがほんとにCytus 専用のプログラムだそうだ。さすが大企業、現有のプログラムの長所をすべて合わせ、それに自分の要るものをつけて、その上偽物も混ざったりしていた。十日でいよいよ大体のルールがわかった。しかしこれをすべて完璧に身につけて、この中の穴を見つけて破壊のプログラムを作るのに、少なくとも100日以上はかかる。

 そうか。だからその日で爆発して、啓蟄で解決しようとした。これは内部の人でないと決してできないこと、そして内部の人は全て監視して誰かが裏切ったらすぐにわかる。

 だから、Bossという人が全然気にしていなかった。なぜそうしたかと言ったら気にするのがただ時間の無駄だ。僕らが何をしても決して間に合わないし、社員が反抗したらすぐにわかる。

 多分、このプログラム用の破壊ウイルスを100日以内で作れる人はもう「失踪」しているのだ。

 “すごい!”僕は少しワクワクしてきた。

 僕は馬鹿だからきっとできないと思って、僕らの行動を見て、笑っているのだろうBoss様よ。

 だけど、馬鹿にもバカしかできないことはある。

 それを教えてやろう。

 僕は星野に電話をした。

 “星野ですが、何が御用でしょうか。”星野の声は機械のように聞こえた。

 “すみませんが、今日で記憶同期に行くのですが、予約してもらえませんか。(・・・・ ・ ・-・・ ・――・)”僕は指で机を叩きながら機械のような喋り方をした。

 “分かりました。いつでもお越ししても構いません。”星野は最後で咳をした。

 “ありがとうございます。”僕は電話を切った。

 服を着る必要はとっくになくなったけど、僕は未だ慣れずに服を着替えた。

 町中は未だいつものように、誰もいなかった。風は砂を連れて町中を回して、たまにゴミも連れられている。ばらばらに散った高層ビルの死体と、残された高層マンションの隙間でこっそり叫んでいる影は、光に縛られず、街を殺した。

 僕にはそうしか見えない。

 僕も殺されていた。

 世界は死んだ。

 生きているのは、町の中心に高く上目線で見下ろしている、機械であるか人間であるか、それすらわからないBossと名付けた人間だ。

 僕のような死に物に気を引かれることもないのだろう。

 こう思いながら僕はCytusに入った。

 星野はドアに入ってから右手の少し前に立っていた。僕は彼を向って行った。

 僕らは日程の確認をして、北側のエレベーターを乗った。言葉を交わさず、機械のようにした。

 相変わらずの15階だ。

 いいえ、少し変わった。

 ガラス艦は記憶の中より少なくなったような気がした。擦れ違う研究者の人数も前より少なくなったようだ。

 いつもの扉だ。

 この扉の向こうは、機械でない星野と、僕の墓がある。

 “どうした?”扉が閉めた瞬間、星野の目に光があった、心配している光だ。

 “僕は、君らに協力するさ。”僕は言った。

 “ほんと?!”星野の目にある光の輝きは少し変えたようだ。

 “うん。”僕は頭を縦に振った。“だから、Vという人を呼んでほしい。”

 “V?!”星野は驚いたようだ。“なぜこのコードがわかった?!”

 “いや…数日前に僕は彼?からのメールを受け取った。そこにここのシステムや、使われているプログラムの詳しい情報があった。でもそれに対してのウイルスを作るのに僕一人じゃ間に合わないから彼の協力が欲しい。”僕は僕の目的を言った。

 “…”星野は考えモードに切り替えた。

 “それは無理だ。”星野が深く考えた結果はこれのようだ。

 “じゃ誰でもいいから、ここのシステムがわかる人を呼んでほしい。”僕は言った。元々そういう考えだ。

 “それもできない。”星野は僕の答えを予想したようだ。

 “は?!”今度は僕が驚いた。

 “ここのシステムを知っているのは初期の創立者だけだ。”星野は少し苦しい表情をした。

 僕はさらに驚いた。“ここでこんなに働いているのにそのシステムがわかる人すらいないとは、よくここまで来られるな。”

 “その通りかもしれんな…”星野は苦しい表情のまま笑った。“俺もそう思う。だけどこれが現実っていうやつだ。”

 “僕にこの状況を破ってほしいってわけ?”僕は少しムカついてきた。

 “そう。”星野の言葉にあるその強さは僕を爆発させた。

 “じゃさ!今ここにさ!もっと簡単な方法があるさ!”僕は斜めに置かれた椅子を上げ、機械を壊そうとした。

 力が急に消え、目の前は黒に染まられた。

 “落ち着け!馬鹿。”

 起きたら、僕は椅子に座っていた。

 “何が…”僕は思い出そうとしたが、椅子を持ち上げて暴れようとする後の記憶は真っ白だ。

 “なんもないよ。”星野は僕を見た。

 “あそっ。”僕の中にある怒りはまだ消えていなかった。僕は星野を視野から出そうとして、大きい画面を見た。

 画面に表示しているのは、Operatorsが様々な行動を起こしていることによって発生したプログラムの進行のようだ。わからない数字やアルファベットの並べが次から次へと進み、それを見てなんだか目眩が始まった。

 あ、逆だ。

 …そういうことか。

 ここに表示されているのは、Operatorsによる影響じゃなくてプログラムによる影響だ。

 “現実なのに…”僕は思わずにプッ笑った。

 こう考えたら、僕の動きによってプログラムも変えられるはずだ。いや違う、僕の行動もプログラムによって発生している。

 このプログラムは、終末を望んでいるのだ。

 僕は、このプログラムに選ばれ、このプログラムを終わらせる人だ。

 だから星野は僕を知った。

 でもなぜ僕なのか?

 待って星野はプログラムに従わないはずだ。

 “その機械…”僕は後ろにある球体形の機械を見た。

 僕はこの機械に入ってから、すべてが始まった。

 この機械で僕は今の僕にやるべきことを見つけた。

 あっ、こういうことか。このプログラムは僕を選んだ理由は僕がその機械に入って、記憶がアップデートされていたからだ。

 僕はその機械に入った理由は、星野が僕に“入って”と言ったからだ。

 “結局星野のおかけなのか。”僕は微笑みながらため息をした。

 “何?”星野は何もわからない顔をした。

 でも…

 なぜ僕なのか。

 最後の最後は必ずここに戻ってくる。

 僕はどうしてもわからないのだ、僕を選んだ理由、なぜ僕なのか。

 いや、そんなものはない。僕を選んだ理由なんてない、僕は偶々ここにいた人間だ。

 僕は思考をやめた。

 画面上に輝くプログラムは少し変わったような気がした。

 僕は止まらず働いているプログラムを見続けた。

 今映っているのは、このプログラムのすべてだ。このプログラムはまるで僕を教えているように、隠された、符号化されたプログラムはその殻を取って、最も簡単で、分かりやすい姿を僕に見せた。

 機械になってから、学習能力は大幅に高められた。脳もいつの間にか機械と同化してしまったから、計算能力も前とは雲泥の差だ。今の脳を使おうと思ったら何でもできそうだ。

 “なるほど…”僕は画面を見ながら学び始めた。

 「-・-」画面の内容は急に変えた。

 「・・ ・-・・ ・-・・

  -- ・」

 “これは…”僕は思わずに言った。

 「……」

 「――・ ―――

  ・・ ―・ ― ―――

  ― ・・・・ ・

  ―― ・― ―・―・ ・・・・ ・・ ―・ ・」

 僕は椅子から飛び起きて、後ろにある球体形の機械まで走って行った。

 “星野!”僕は機械の中から星野を呼んだ。“この機械を起動させて!”

 星野はボーとしていた。

 “早く!”

 “お…おお!”星野は機械の操作をした。

 前と同じようだ。

 僕は宇宙のようなところまで登録され、体が溶けそうになった。僕はそのまま目を閉じた。

 目は瞼を超えてきた光を感じた。僕は瞼を開いた。

 僕は空中に浮いていた。

 「ようこそ、選ばれし者よ。」声は耳を超え、そのまま脳に届いた。

 「No. A12507 に権限を渡す。権限内容:システムCytusの元と同期する権利、プログラムCytusを操作する権利、ビーナスと接触する権利。以上。」

 「我々の…ご主人を…救え…」

 【エラー発生。原因不明。ユーザーNo.A12507の安全を確保するため、強制終了を行います。メモリー保存完了。終了を行う。】

 目の前は真っ黒になった。

 再び目が覚めた時、星野が心配そうな顔をした。

 “おはよう。”僕の目覚めを見て、星野は嬉しそうな顔に変えた。

 “おはよう。”僕は起きようとした。頭痛が急に来た。

 “無理すんな。”星野は言った。

 “さっき機械は強制に終了したから君に影響したはずだ。”いつの間に圭一も来た。“今は少し休んだほうがいい。”

 “今何時?”僕は聞いた。

 “2月15日朝3時。”圭一は時計を見た。

 “僕…こんなに時間の無駄遣いをしたの?!”僕はベッドから降りようとした。

 “無駄遣いはしてないさ。”星野は僕に手を出した。頭が触られたようだ。

 “どういう…”僕は疑いをした。

 “まあ時間はまだあるから。”星野は言った。

 “ないよ!これから対Cytus用のプログラムウイルスを作らないと間に合わないさ!”

 “いいから。”

 僕は強制的にベッドに抑えられた。

 頭を冷やしたほうがいいかも。と、僕は思って、ベッドに横になった。

 そういえば、あの二人は、いつの間にか消えた…でも寂しくはない。なぜだろう、今でもそばにいるような気がするけど、姿も見えないし、声すら聞こえない。

 それども、彼らは僕の側にいるような気がする。

 奇妙な感じだ。

 意識は又消えそうになった。機械なのに、眠く感じるのは不思議なことだ。

 だけど…ほんとに…眠いから…

 少し寝ても…いいかな…

 

 “は!”意識が急に戻ってきて、僕は一気にベッドから起きた。

 今何時?僕はどれぐらい寝た?あとどれぐらい時間がある?僕は焦ってコンピューターの前に座った。

 三日間寝たようだ。あと17日ぐらいあるから、間に合える…わけないのだ。

 でも意外に、慌てる気にならない。何故なのかな。

 よく考えたら、最近意識が失うことが多いし、いつの間にかうちに帰ったことも多い。体が別人に操られているような感じだ。

 …そうだ、高校時代の多重人格を持つ友達が教えてくれた感じと似っているのだ。

 まさか…と思うが、多重人格ならこの最近の状況も説明できるから、可能性は高い。

 だけど、どんな人格が生まれたのかな。

 いやいやありえない。

 そもそも機械に魂とかはあるものか?

 まあこれは一旦おいて、急ぐことを先に処理しよう。

 『権利使用。

  システムCytus同期する。』

 【同期完了】

 『ビーナスとの会話を要求する。』

 【申請中】

 【完了】

 【要求された場所に同期しますか】

 (yes)

 【了解】

 【同期を開始する】

 【同期完了】

 …何も見えないとは、どういう場所なのかこれは。

 [ようこそ]どこから女の子の声が来た。いいえ、これは人工知能の声だ。

 僕は声の源のほうに歩いて行った。

 暗闇の中に微弱な光があった。そこが源だと思って僕はその光のほうに行った。

 光がだんだん強くなった。と言っても、太陽光みたいな感じじゃなく、蛍の前にいたみたいな感じに過ぎない。

 どうやって言えばこの状況を説明できるのかな。

 そもそもこれはどういう状態か。僕は理解できない。

 簡単に説明すると、鎖に縛られたロボットがいた。

 [この姿ですみません。]ロボットが喋った。

 “いいえ、いいえ。”僕は無意識にこう答えた。

 [私はビーナスと名付けられたものです。神たちの決断によってこの世はもうすぐ滅ばれます。私はそれを見たくありませんので、今の人間の姿に変えて、人間世界で何かをしようとしました。しかし父上に見つけられ、こうなってしまいました。]

 “は…”僕は認めるのも、認めないのもできないまま曖昧な言葉を使った。

 [ここはCocytus、すなわち生と死の間のところです。少し前にも誰かがここに来ましたが、私の願いを聞きませんでした。]

 それがCytusのBoss様だろう。と、僕は思った。

 [私の願いを聞いてくれませんか。]

 “人間を救ってほしいとかでしょう。”僕は言った。“残念ながら僕はそんなことができないよ。”

 “一応神だから敬語を使ったほうがいいと思うよ。”後ろに友空の声がした。

 “友空!”僕は後ろを見た。友空がいた。

 “久しぶり、とは言えないけどね。”友空は少し微笑んだ。

 “お帰り、とも言えないね。”僕も笑った。

 [あなたは…何者ですか。]ビーナスが急に言った。[なぜ二つの魂が持っていますか。しかもどちらも実体化できるなんて…]

 “ほんとに多重人格だ…”ビーナスの話は僕の考えを確定させた。“そういやもう一人は?”

 “未なら、ここに来ることはできないようだ。”友空は言った。

 “どういう…”

 “ここに長くいられないから先にビーナス様の話を聞いたほうがいいよ。”僕の話を止めて友空はビーナスを指した。

 [嗚呼、私を忘れたまま会話を楽しむと思いました。思い出してくれてありがとうございます。]ビーナスは笑ったようだ。

 “神とはいえ、君は面白いね。”僕はビーナスの話に気を引かれた。“って、願いとは?”

 “だから、敬語!”友空は僕の頭を軽く敲いた。

 [かまいません。これでいいです。]ビーナスは友空に言った。

 “神なのに人間に敬語を使うなんておかしいな。敬語をやめたら?”僕はまた別の話に会話を続けようとした。

 [先に願いを聞いてほしいですが…]ビーナスは少し困った口調で言った。

 “そうっすね。”僕は笑った。“と言っても、人間を助けるとかでしょう。それの要求は範囲外でお願いします。”

 [違います。私の願いは、Cytusを滅ばせることです。]

 僕はビーナスの話に驚かせた。

 “まあ、今もそういうつもりですけど…なぜ神はCytusを滅ばせたいですか?”僕は聞いた。

 [それは…すみません。時間です。早く…]

 【不明なものによる干渉が発生。強制的に同期を解除いたします】

 目の前は家の景色だ。

 一時的にシステムと同期するのはできなさそうだ。

 ビーナスの話にまだ少し気になるけど、今じゃ聞けなさそうだからやめた。

 「プログラムCytus と接続する。」

 【接続開始】

 【接続完了】

 「干渉する。」

 【干渉開始】

 【干渉失敗:干渉行為が断られています】

 “おや?”僕は少し驚いた。

 どうやらこれはシステムを守っているプログラムを解除させてから、干渉しないと行けないようだ。

 “前にVに教えられたあれは確か…”僕は独り言を言いながら対応するプログラムの開発に手を染めた。

 失敗の繰り返しが続いていた。途中で意識を失うことも何回ぐらいあった。意識を失う原因が分かった以上、怖がるのも慌てるのも要らなくなった。僕の体を使いたいというのはそちらも自分のしたいことがあるわけだから、止めることはいらない。

 しかし三人で一つの体を使うのは効率的に低いと感じた。

 対応するプログラムの完成は啓蟄の一日前だ。

 星野と友空も何かを進んでいるようだが、僕にはそれの記憶すらない。しかし毎回毎回僕の体を使ったら、二人は必ず家中にメモを残してくれていた。内容はどこに行ったか、何をしたか、報告みたいな感じに過ぎないのだ。干渉するつもりはないから報告は要らないと、メモに書いても無視されたようだから、僕のほうも報告をし始めてしまった。主に開発の作業がどこまで進んだか、時に要求とかも書いたりしていた。それぐらいだ。

 僕の開発作業の完成と同時に、星野と友空のほうも終わらせたようだ。僕は僕が作ったウイルスを啓蟄と名付けようとした。“いいんじゃない”と返事があった。

 “啓蟄、いいじゃない。”

 最後の一日はこんなに暇なんて、予想外だった。

 僕の計画によれば、啓蟄の午後、Cytusの保存施設の機能が停止するのと同時に行われないといけないから、明日の午後6時ですべてが終わる。その前の時間は、CytusのBoss様の様子を監視しながら行動することになる。が、それは星野とVがやってくれた。

 すなわち、今の僕にできるのは、待つことだけだ。

 僕は街に出た。

 なんだか祭り騒ぎのようで、町中はにぎやかだ。店も、開いているのが多いようだ。僕は近くのパン屋に入った。

 “いらっしゃいませ!”店員さんが嬉しそうな声で言った。

 “すみませんが今は何の騒ぎですか。”僕はパンを見ながら聞いた。

 “それなら、最近の街は静かで寂しいじゃないですか。そこで誰かが‘元の世界に戻してやらない’という話が進め、祭りをやることになりましたよ。”店員さんは笑っているような口調で返事をした。“私も、昔の生活に懐かしく感じたから、こうして元の仕事に戻っていますよ。とにかく最近は昔の生活を思い出しながら楽しんでもらったらいいじゃないですか!”

 その熱情に少し返事したくなったから、僕は彼女に微笑みながら誕生日ケーキを頼んだ。

 “あら!明日はお誕生日ですか!”店員さんが驚いていたような口調で言った。

 “嗚呼。24歳の誕生日です。”

 “これはこれは、パーティーしなきゃいけませんね!”店員さんは誰かを呼びそうな動きをした。

 “あっ、それなら勘弁してほしいです。あいにく僕、明日用事があってね。”僕は彼女を止めた。

 “そうですか。それは残念です。”店員さんは少し失望した口調だった。“では、こちらのケーキを選んでくださいね。”

 “じゃ…これを下さい。”僕は並んでいるケーキの中にある、チョコレートのケーキを指した。

 “かしこまりました!こちらなら明日の朝6時ぐらいで引き取りになります。”店員は仕事モードに入ったようだ。

 “ありがとうございます。”僕は彼女からレシートを取った。

 “ご来店お待ちしておりますね。”店から出た時、彼女は僕にこう言った。

 町中に歩いているOperatorsは友達と話しているように隣の人と話していた。ほんとに知り合いだという人は、どのぐらいいるか僕にはわからないのだ。

 今の様子はまさに茶番だ。何かを癒したい、何かに癒されたいからこうした。相手の本名すらわからないのに、友達みたいに、機械のような名前を呼びながら、傷口を舐め合っている。僕はそういう茶番にしか見えない。

 それでも、僕は懐かしいと思った。

 ほんとに何もなかったらいいな。と、すでに捨てた思いは、またこっそり僕の心を掻いていた。

 “もう元には戻れないけどね。”僕はこっそりと小声で呟いた。

 明日で、すべてが終わるから。

 そして明日で、すべてが始まる。

 いいえ、明日で、人間は世界に戻る。

 今日は、少し寝よう。

 起きた時は12時だ。ケーキはすでに引き取られていた。ケーキの隣にメモがあった、誕生日おめでとうと書かれていた。

 “ありがとう。”僕はこう言いながらメモに残した。

 僕はケーキの箱を開いた。

 僕が注文したチョコケーキだ。中心に“24歳誕生日 おめでとうございます!これからも楽しんで生きてください!”と、チョコで書かれていた。

 生きる…ね。僕はナイフで少しを取った。

 “誕生日おめでとう!”ドアは誰かに開けられた。星野と圭一だった。

 “ありがとう。”僕は彼らに言った。“靴は抜いでから入ってりな。”

 “知ってるよ!”星野は玄関まで出て、靴を脱いで入り込んだ。

 僕は彼らの分のケーキも切って、さらに入れた。

 “くれるんだ。”圭一は意地悪な言い方をした。

 “じゃ食べるな。”僕は皿を取り返そうとした。

 “ごめん!ごめんって!”圭一は皿を止めた。

 “って、できたの?”星野はケーキを口に入れて僕に聞いた。

 “できたよ。”僕は彼を見て言った。

 “意外に効率が高いな。”圭一もケーキを口に入れた。“うまいな!”

 “僕を何と思った…”僕は圭一に文句を言った。

 “そういやローソンは?願いをした?”星野は半分ぐらいを食べてから、急に僕に聞いた。

 “しなくても…”僕は目の前にあるケーキを見て言った。

 “それじゃ!誕生日ケーキの意味がなくなる!”星野はフォークスで僕を指した。

 “もう半分ぐらいを食べたお前が言うセルフか!”圭一は思わず星野に突っ込みをした。

 “まあまあ。”星野は笑った。

 圭一もため息をして笑った。

 僕も、笑った。

 意味のない会話をすると、時間は一瞬で消えるものだ。

 気づいたらもう午後の四時だ。

 僕は準備をすると言って、星野と圭一を先に行かせた。

 “じゃ相変わらずそこで待ってるね。”星野は言った。

 “嗚呼。”僕は返事をした。

 始めようか。

 「プログラムCytusと接続する。」

 【接続開始】

 【接続完了】

 「プログラムを投入する。」

 【接触開始】

 【接触完了】

 「干渉する。」

 【干渉開始】

 【干渉完了】

 「啓蟄を載せる。」

 【搭載開始】

 【搭載完了】

 【エラー】【エラー】…

 脳内に【エラー】の警報に満たされていた。

 僕は頭を強く叩いた。

 ウイルスによって目眩がした。僕は今酒に酔っている人に見えているだろう。

 町中は昨日のようににぎやかだった。昨日のパン屋の店員さんは僕を見かけて、僕に手を振った。

 “誕生日おめでとうございます!”彼女はこう叫んだようだ。

 僕は手を上げて、彼女の返事にしようとした。

 Cytusは相変わらず元気に町の中心に立っていた。

 僕はそこに入った。

 星野と圭一は右手側に立っていた。

 “お待たせ。”僕は何もないようにした。

 “待った!”星野は僕の背中を叩いた。

 【エラー】の音は大きくなった。僕はまた頭を叩いた。

 “大丈夫?”圭一は眼鏡を押した。

 “うん。”僕は元気そうな声を出した。

 15階だ。

 相変わらず鉄製の扉だ。

 僕はその扉に入って、大きい画面の前に座った。

 「・―― ・ ・―・・ ―・―・ ――― ―― ・」

 “嗚呼。来たよ。”僕は画面に映っているモス符号を見て、古い友人と会ったような気がした。

 「―・― ・・ ・―・・ ・―・・

  ―― ・」

 “嗚呼。”

 “今すぐにね。”

 僕は啓蟄をコンピューターに入れた。

 緑だった画面は一気に赤で染められた。「エラー」の符号は止めずに現れた。

 頭痛がますます強くなった。【エラー】の音もますます大きくなった。

 星野は僕に何を言っていたようだが、僕にエラーの音しか聞こえなかった。

 “屋上の発信機に行く。”僕はこう言おうとした。

 ほんとに言えたかどうか、僕にはわからないのだ。僕は僕の声すら聞こえなくなっていたからだ。

 僕はエレベーターを乗って屋上まで行った。

 BossはVに足止めさせられたようだから、屋上までの道は融通無碍だ。

 屋上に大きな発信機があった。

 僕は平衡を保つこともできなくなった。その発信機のところまで行くのも精一杯で、ほぼ倒れたように発信機に辿り着いた。

 「プロ…グラム…Cytusに…干渉…する。」

 【干…開…】

 【……完了】

 「命令…現在…運作中の機体を…すべて停止す…ように。」

 【命…入力……】

 【入…完…】

 発信機から大きな音が広がった。

 僕はふらつきながら屋上の辺に行った。

 町中の人々は次々と倒れていた。道路はすぐにOperatorの死体に足された。

 先まで祭りだったけどね。

 ごめんなさいね。

 僕は黙祷した。

 屋上のドアが誰かにぶつかって開いた。

 星野と圭一だった。

 いや。

 最初に入ったのは、未と、友空だ。

 ずっと見ていた幻と現実が重なった。

 過去と今が重なった。

 夢が叶えられた。

 僕は嬉しいと思った。

 機械なのに、涙が出そうだ。

 “……!”彼らは僕を呼んでいるようだ。

 嗚呼。僕は思った。

 “ごめんね、こんなに悲しい場面になるなんて。僕はもう少し早く終わらせたら、こうにはならなかったね。”

 “これからは頼むよ。”

 【エラー】【エラー】【エラー】

 “泣いたりしないでよ。”

 【エラー】【エラー】【エラー】

 “僕がいなくても楽しく元気に生きてね。”

 【エラー】【エラー】【エラー】

 “ずっとここにいるから。”

 【エラー】【エラー】【エラー】【エラー】【エラー】【エラー】

 “愛し…てるよ。僕の…大事な人…たちよ。”

 【エラー】【エラー】【エラー】【エラー】【エラー】【エラー】【エラー】【エラー】【エラー】【エラー】【エラー】【エラー】

 二人は僕に向かって走ってきた。

 僕は後ろに倒れていた。

 空は地平線まで広がって行った。

 僕は地面に落ちて行った。

 彼らの姿は僕が先までいた屋上から現れた。

 何かの液体が顔に落ちていた。

 水?【エラー】雨?【エラー】涙?【エラー】

 【エラー】【エラー】【エラー】

 さあ。

 【エラー】【エラー】【エ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ