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混沌から星屑を拾う  作者: 三山 千日


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ひとりきまま

ひとりきままな7本

『待ち人』


 錆付き、時刻表もボロボロの型の古い郵便ポスト――その上に、貴女はいた。


 学校の机ほどの広さもない足場だというのに、姿勢をちっとも崩すことなく背筋をシャンと伸ばし、品のいいヒールを履いた足を揃え、真っ直ぐ前方を見据える。

 白のワンピースと華奢な首に巻かれた萌葱色のスカーフのなんて趣味のよい。

 一目で待ち人がいることを悟る。


「あなた。わたしのことがみえているのでしょう。でしたら――」

 私が盗み見ていることなどお見通しか。

「葉書を投函してくださらない。待ちくたびれたので、こちらから訪ねようかと」


 萌葱色の切手を貼った真っ白な葉書を投函すると、貴女はポストを一蹴りして空の彼方へ飛び去った。






『半端』


 休憩で立ち寄った公園にて。

 腰掛けようとしたベンチ周辺がゴミだらけだった。


 背後のスーパーで買った焼き鳥の空のパックとタレと肉片がこびりついた串が数本、フィルターギリギリまで吸った煙草の吸い殻が五本。それらが方々に散らばっている。


 座って、食って、ポイポイと捨て。

 吸って放って、吸って放って、知らん顔して退く。

 片付けるなんて概念は端からないのだろうな。


 どこぞの不躾の後始末なんて御免だけれど、汚らしく散乱したゴミを放置するのも癪に障る。

 串も吸い殻もパックに入れて、少し迷ってベンチの下へ置くことを、中途半端で無責任と叱責するかい?

 私は誰かの"無責任"をわざわざ持ち帰って捨ててやるほど、お人好しじゃあないんでね。






『雑で贅沢なごはん』


 昼前、賞味期限切れのパックご飯をみつけた。

 家には私ひとり。家人は午後まで帰らない。チャンス。


 作りおきの茹で鶏と人参と玉葱をうどんだしとみりんと醤油で煮て、卵でとじる。

 根菜の葉と皮、葉野菜の茎などの野菜屑を微塵に刻み、粉末つゆとごま油を加えて加熱したふりかけと天かすを温めたパックご飯に混ぜ込む。

 玉子とじを混ぜご飯にのっけて、サテトム(東南アジア風食べるラー油)をかけて完成。


 好ましく表すのならば、優しい味。明け透けに言うのなら、全体的に味が薄い。

 単品ずつなら上品な味を楽しめたろう。玉子とじと混ぜご飯の境界が曖昧だ。それに、サテトムの辛さがすべての味を蹂躙していた。

 うん、ちゃんと求めていた味だ。最高。思わず、笑いがこみ上げる。


 作った私は満足に食べられるこの料理も、誰かが食べたらきっと、おいしいとは言わないだろう。

 それが最高なんじゃないか。


 失敗も成功もどうでもいい。

 手が込むか抜くかも、手作りもレトルトも関係ない。

 誰かの好き嫌いを気にすることなく、好みの味や食材を気兼ねなく選べる自由。

 食べた誰かの顔が曇るか、作り笑いで気遣われるか、無言か、おいしくないと一蹴されるか――そんな反応を見も聞きもする必要のない、この安心感。

 


 実に簡単で雑。でも、無責任に、自由に、ストレスなく作って食べられる、贅沢すぎるごはん。






『機械音』


 コッコッコッ

 振り子のような規則正しい、硬質な、辛うじて拾える微かな音が手元から聞こえる。


 手中のスマートフォンからだろう――最初にその音を聞いてからしばらくはそう思っていた。

 壊れる前兆なら嫌だなと、端末を軽く振ってみることも何度か。


 その音が自分の中から聞こえることに、さっき気付いた。

 持っているのは編み針と毛糸だけ。スマートフォンは机の端にある。

 前に聞いたときと同じ位置から、同じボリュームの音。

 本当になんの音だろう、この音。


 もしも。

 自分が機械で、壊れる前触れだとしたら……

 そう考えて自嘲した。

 頭も心もとうに壊れているというのに、何を今更。


 コッコッと、地獄への階段を下る足音が聞こえる。






『思い出』


 炒めたというよりベチャベチャに蒸された野菜炒め

 細切れにした鶏と玉葱と人参にシャバシャバな汁のかかった親子丼

 砂糖醤油で煮て、生卵を絡めて食べるすき煮

 塩の入ったみつ豆

 焼かずにレンジで加熱した冷凍餃子

 ボトルから直に調味料を回しかけ、素手でかき混ぜた酢もの

 明らかにただのちくわの入った煮物にしか見えないおでん

 黒糖を包んで炙った酒粕


 貴方が作った定番のごちそうよりも、これらの形容し難い微妙なおかずの方が、恋しかったりするんだ。

 食べたいかと問われれば、「そうでもない」と答えるのだけれども。






『無茶無謀』


 あのひとを守りたいと、念じた。

 思いよりも強く、祈りよりも凶暴な望み。


 自分はどうなってもいい。

 そう言うと、捨て身だと、自暴自棄だと、自己犠牲だと、ヒーローにでもなるつもりかと、いつかの加害者が脳内で嘲笑う。


 どうでもいい。

 あのひとの前では、そんな嘲笑も自分の価値もどうでもいいんだ。

 あのひとを守れるのなら、それで。


 あなたが自分より勇敢で、どうにかなるなんて根拠のない自信を手放さずにいてくれてよかった。

 だからこそ、自分もあなたに倣って、無茶も無謀も怯えの境界を越えて、あなたの下へ飛び出せる。






『画竜点睛を阻止する』


 ジグソーパズルのピースが足りない。最後の二ピース。雲を突き破る龍の目と鱗の部分。

 大事に残していたのにな。


 パズルを入れた箱の中も下も、床も絨毯も、テーブルや棚の下も、寝そべるタマのおなかの下も、ボールを咥えるポチの口の中も、寝床を繕うハム助のケージの中も、どこを探してもみつからない。


「あんなこわいもの、なくていいわよ」

 タマがパズルの箱に詰まりながら言った。

「逆鱗に触れるなってね」

 ポチがもう片方のパズルの箱に鼻をねじ込む。

「龍の目なんか嵌めたら、絵から飛び出しちゃうよ」

 ハム助が巣材にする厚紙の破片をかじってた。


 困ったな。いつまで経ってもパズルが完成しないや。

待ち人 2026.01.13

半端 2026.01.16

雑で贅沢なごはん 2026.01.17

機械音 2026.01.18

思い出 2026.01.18

無茶無謀 2026.01.18

画竜点睛を阻止する 2026.01.20

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