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混沌から星屑を拾う  作者: 三山 千日


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83/85

気晴らしを欲する ※

心の深い穴が空いてしまったような、胸に重りが載っかっているような7本

※鬱要素多めです。苦手な方はご注意ください。

『紅白の千切り』


 薄くうすく大根と人参をスライスして、その名のとおり細く細く千切りにする。

 丁寧に、注意深く、繊細に刃を動かせば、それなりの形にはなるのだなと、水に晒してほどけた紅白に感心した。


 当たり前のように皿に盛られた料理には必ず、それなりの手間がかかる。そんなこと、料理をした人にしか本当にはわからない。

 ただ、のんびりと待っていれば料理が食べられるような人間には、何も考えずに食べている品にかけられた手間がいかほどのものかの想像はつかないだろう。


 お店の料理人には到底及ばないささやかな手間かもしれずとも、それでも手間を知る人間なればこそ、感謝して食べようと心を改める機会がおせち料理なのかもしれない。






『紅に沈む黄金』


 朝焼けのような紅色の、ホカホカと湯気を立てる紅茶に黄金色の実をそっと落とす。


 新年の訪れを祝うためにと甘露で炊き上げた金柑。

 じっくり煮詰められ、トロリと艶のある黄金の甘露に浸されている間、小さな実はどんな夢を見ていたのだろう。朝焼け色の湖の底から凍えた私を不思議そうに見上げていた。


 紅茶の熱が冬の清々しくも張り詰めるような冷気で凍えた手を、唇を、内臓を温める。

 軽い渋みに混じる、甘味と酸味、金柑の香が心を緩ませた。


 熱を飲み干し、底に沈んでいた実を丸ごと口の中へと転がして噛み潰す。

 柔らかく、冷たく、甘酸っぱく、そして最後に舌を刺す苦さ。

 冬のささやかなごちそう。






『やるせなくてつまらないときは』


 つまらない、やるせない。そんな重苦しい気分のとき、ふいにぷっくりとした餃子もどきが脳裏をよぎった。

 深いため息をひとつ吐ききり、だらりと立ち上がり、台所へ向かう。


 粉をぬるま湯で心ゆくまで捏ねる。

 生地を寝かしている間、数種の野菜をこれでもかと刻み、鶏肉も塊の状態から刻み叩いた。

 無心。でも、やるせなさを刻み、叩きつける思いではあるのかも。

 クミンと生姜はたっぷりと。

 不器用だからどうしても不格好になる皮で包んで、蒸したり茹でてできあがり。


 平麺のような食べ応えのある皮と、鶏の蛋白なうまみ、香辛料の刺激のもたらす満足感ったらない。

 気分はまあまあ晴れた。

 そんな日もあるさ。






『賽の河原で編み物を』 ※鬱要素あり注意


 編んでは解き、編んでは解き、編んでは解き、編んでは解いてふりだしに。そして、また編む。


 陽光あたたかな窓辺にて、一週間かけて編んだものを再び毛糸玉に戻した。

 まるで賽の河原の石積みだと、ひだまりで茹だった頭の中、卑屈な自分が泣き笑い。

 石の塔が完璧主義の鬼に蹴散らされたのは三度目だったか五度目だか。


 泣きそうだった。自分でほどいておいてなんだが。

 編み物もだけれど、何をやっても、何度やり直しても上手にできない、無駄に終わるだけの自分にほとほと嫌気が差している。


 次こそは、次こそは、次こそは。

 そう唱えながら嗚咽を漏らす自分のガキっぽさったら。

 いい加減、うんざり。






『消化不良』 ※鬱要素あり注意


「冷蔵庫にケーキがあるの。食べてね」


 はい、としか言えなかった。そのケーキの名目がわかっているから。

 「お気持ちのみ頂戴します」とは、お祝いのためにと用意された生菓子を前に言えない。

 食べ物を粗末にしていい道理など、誰にもなかろうよ。


 ただ、胃が重かった。ケーキと聞くだけで、舌と胃にまとわりつく甘ったるい脂を想像して、眉間に皺が寄る。

 晴れやかな気分とは決して言えない今、蒼い顔でケーキをのろりのろりと飲み下す自分しか想像できない。


 またひとつ年を取るということの、何がめでたいというのか。

 いたずらに年を取るだけの、能がない不毛な自分なんぞに。






『赤ワインとケーキ』 ※鬱要素あり注意


 大きめのマグカップに赤ワインをなみなみと注ぎ温めた。それがかけつけ一杯。

 あとは鬱々としたテンポの曲を五連続とロックをエンドレス。


 お祝いと……なんら祝う気にもなれぬ、自動的に訪れる事象を祝う名目のケーキを、アルコールで麻痺した満腹中枢とメロウなナンバーとロックの勢いで粛々と納める。

 雪山と見紛うような見た目のボリュームにため息を吐き、フォークを入れる。食べる。

 レアチーズケーキだ。濃厚だが、悪くない。酸味と摂取したアルコールのおかげで無理がなさそうだ。


 メロウなナンバーを譫言のように口ずさみながら山みてえなケーキと追加の血の池を胃に押し込む。


 今だけだ。こんな誕生日なんぞ。






『忘却と許し』 ※鬱要素あり注意


 穏やかに笑み、自分のことを忘れてもいい、とオマエは許した。

 冬の、硝子みたいに冷たくてどこまでも澄んだ色した空気とやわらかなぬくもりをはらむ陽光が気持ちのいい日のことだ。


 許したってことは、許されたってことでもある。

 忘れることを許されたのか、オレは。ならば、オレはどうあったって「うん、ありがとう」とは頷けない。


「オレはオマエのこと、忘れたくなんてないよ」

 ほんの少しの照れと、それよりも強固な本心と、こっそり祈りを込めた小声の呟きに、オマエは笑みを更に深めて「それでもいいんだ」とオレの背中をあやすように叩く。



 人間なんて、どんなに抗っても時間を重ねっちまえば忘れちまう生き物らしい。

 それを痛感した今、オマエの許しに涙声でゴメンと謝る。

紅白の千切り 2025.12.31

紅に沈む黄金 2026.01.10

やるせなくてつまらないときは 2026.01.10

賽の河原で編み物を 2026.01.10

消化不良 2026.01.10

赤ワインとケーキ 2026.01.10

忘却と許し 2026.01.13

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