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混沌から星屑を拾う  作者: 三山 千日


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81/82

メランコリックなクリスマス ※

憂鬱なクリスマスだってある7本

※一部に憂鬱な要素があります。苦手な方はご注意ください。


2026年最初の投稿が早速、憂鬱から始まってしまい、申し訳ありません。

本年もよろしくお願いいたします。

いいねやコメント、ブクマ登録など、いただけましたら執筆の励みになりますので、お気軽にどうぞ。

『書く、編む』


 執筆と編み物は似ている。

 一文字、一行、一文、一章。

 一目、一段、一部分。

 黙々と書き連ね、粛々と編み連ねる作業。

 違うと感じれば、解くか消して、またやり直し。


 私なんて特に、ただ、おおまかな形を頭に浮かべつつ行き当たりばったりなすがままに作るものだから、結果、歪になるのも同じ。

 上手くいかないと、頭を抱えて唸ることもあるし、集中すると時間があっと言う間に過ぎるのも一緒。


 文章の書き方が変、編み針の持ち方と糸の運び方がおかしい、出来上がりは不格好、作品は見向きもされないのだって同じ。

 それでも、書くことも編むことも性に合ってるのだから詮無い。






『クリスマスイヴの準備』


 つれあいがこさえてくれたレプクーヘンとジンジャーブレッドメン、切り分けたシュトレンも鞄に詰めた。

 ホットワインの水筒も忘れないよう念押しされる。

 お互いに年を取って、うっかりが増えたものだから確認は欠かせない。


 分厚い靴下を用意して、服の予備も鞄に詰めた。

 若い頃に着ていた物は重くて濡れ易かったが、今の服は軽くて撥水もしっかりしているから本当に有り難いよ。


 明日の本番に備え、トナカイ達もしっかり休ませている。私もそろそろ寝るとしよう。

 おっと! 休む前に髭の手入れを念入りにしないとな。

 立派な髭は私のシンボル。みすぼらしいのはいただけない。

 こっそり私を見た、いたずらっ子の夢を壊すわけにはいくまいよ。






『命の報せ』


 新たな命の誕生の報せが届いた。

 笑顔で画像を見せられた小さな命の姿に、心臓が浮くように軽くうねり、頬がホカホカと熱くなる。


 この感情は喜び、なのだろう。

 頭よりも心と体は素直で、感度が高いようだ。



 生まれて少し経ったという、まん丸でかあいらしい顔を見て、思うことはいくらでもあった。


 無垢。

 広く遠くまでもを見渡せそうな目を持つ子だな。

 この子の父親が赤ん坊の頃はどんな顔してったっけ?

 あの人ももうしばらく頑張れば、曾孫に会えたのに。

 この子のまわりの苦手な影の存在に、複雑な思いもないわけではないが、今だけは目を瞑ろう。


 あと、これだけは。

 私には怖くて、たとえ機会があったとて、この小さな命に触れることはできそうにない。

 無垢なものに触れるのも躊躇われるくらい、褒められた人間でないからね。






『愚か者の一年』 ※憂鬱な要素あり注意


 春先に、ハルの字を冠した人の命を一瞬だけ引き留めた。

 その人ににじり寄る死を傍らで見、心拍が途絶えるのを機械音で聞き、体が燃え尽きるまで傍にいた。


 夏は、心にぽっかりと空いた穴の縁に立ち続け、何度か穴の中へ転落して、秋までボロボロになっていた。

 死の澱に曝され、己自身の問題で生じた無力感と絶望感の汚泥にまみれて、しくしくとうずくまる。

 いつ、ふと生を手放しても不思議ではなかった。私はうんざりするほどに脆いから。


 冬の今はまだ無力感に苛まれている。

 それなのに命の報せを聞いてしまっては、新たな絶望とほんの僅かだし他人ごとでしかないながらも奇妙な希望に泣き笑いしてしまうほかない。


 なんて、苦しい一年だったのだろう。

 私だけが愚かにも定点で留まり続けている。

 一歩でも前に進みたいのに。






『師走と掃除』


 師走に入ってから一日一ヶ所ずつ、掃除をしている。


 殊勝なわけではない。

 ネットの海で拾った『クッキングシートの乾拭きが水垢を落とす』生活の知恵を見て、試さずにはいられず、そのまま他の場所もついでに掃除しているだけだ。


 蛇口、洗面台、トイレの手洗い器、便器、壁、天井、窓、床のワックスがけ、オーブントースター、グリル。

 クッキングシートは所によりとてもいい仕事をした。だが、結局、クエン酸だの、重曹だの、研磨剤入りスポンジだの、ヘラだの、マイナスドライバーという荒技で水垢をチマチマと無心でこそいでいる。


 やった分だけ目に見えて成果がわかる充実感は無能な自分にちょっとした自信をもたらした。


 今日はどこを綺麗にしよう?






『ひとりぽっちのクリスマス』 ※憂鬱な要素あり注意


 一二月二五日の数分前。

 今、この時、世界中のどれくらいのこどもがワクワクしながら夢の中にいるんだろう。

 暗い部屋の中、今日もひとりぽっちのぼくは、真っ暗な窓の外を眺めて思うんだ。


 ともだちのところにはサンタクロースが来るらしいけど、ぼくのところにその人は来ない。

 ついでにいうと、クリスマスのごちそうも食べたことはない。

 ぼくにクリスマスは来ないんだ。


 だからせめて、この、世界中のこども達が幸せいっぱいで眠る夜、ぼくだけは起きて、夜空を眺めるんだ。

 もし、夜空にサンタクロースのソリを見つけたら、こう叫びたかった。


『ぼくをここから連れ出して』


 どこからか鈴の音が聞こえる。






『クリスマスとクリーム』


 世間では多くのこども達がプレゼントを手にはしゃぎ回っているであろう日。

 私にはクリスマスなんて関係ないわと、スーパーマーケットでまだ値引きされていない時季モノを横目にレジに向かう。


 時季モノが売れ残ったとされる日にちのボーダーラインは、誰が判断するんだろうか。

 人間の行事に振り回され、時計の針の動きひとつで価値を変えられ、もてはやされたかと思えば、売り叩かれ、しまいには廃棄される道を辿る品物の、不憫なこと。

 ……その、他者により勝手に押し付けられる価値の変化は、物品だけに関わるものではないのだけれども。



 どうにもつまらない思考にしらけていたらば、ふと、レジ脇に懐かしいカップ型のパッケージを見つけた。

 棒状のビスケットにチョコクリームを付けながら食べるあのお菓子。

 普段なら通り過ぎる品物だけど、今日はなんとなくカゴに入れてみた。クリスマスだし、なんて訳の分からぬ言い訳を胸中で呟きながら。


 帰宅後、早速蓋を開け、ビスケットにクリームを付けようとしたところで異変に気付く。

 クリームが冷気で固まってる。ズプリと音を立てて刺さったビスケットに、クリームが微塵も絡みやしない。


 クリスマスとはまったく無縁の夜の、なんてさみしい。

書く、編む 2025.12.20

クリスマスイヴの準備 2025.12.23

命の報せ 2025.12.23

愚か者の一年 2025.12.24

師走と掃除 2025.12.24

ひとりぽっちのクリスマス 2025.12.25

クリスマスとクリーム 2025.12.25

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