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混沌から星屑を拾う  作者: 三山 千日


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相棒

相棒とふるさとの味を語る7本

『愛着』


 大事にするということ。


 取れかけたボタンを付け直す。

 服のほつれを繕う。

 穴が空いたり擦り切れたら、布をあてる。

 裂けたら接ぎ、刺繍をすれば傷も目立たない。

 少し引っ掛けただけで裂けるのならば、細く長く裂いて紐状にして、分厚い布として織り上げる。

 丈が合わない、小さいというのなら、誰かへおさがりか、別のものに仕立ててやろう。


 いつになったらお暇をいただけるので? なんて、服に文句を言われるかもしれない。

 それでも、使い捨てられるよりはマシでしょう。

 この世に形あるものとして生まれたのなら。






『幼なじみの犬属性』


 まどろみの五限目。

 小春日和の日差しに誘われて、グラウンドを盗み見。

 どっかのクラスがサッカーをしてる。


 昼食後に走り回らされてご愁傷様、なんて胸中で手を合わせていると、一番はしゃぎ回ってる奴がゴールを決めた。

 同色のゼッケンを着けた奴らにイイ笑顔でもみくちゃにされてると思ったら、幼なじみでやんの。


(犬だ)

 元気いっぱい走り回るとことか、仲間に構われて更に元気倍増してるとことか。あと……


(こっち見んな、手ぇ振んな、アホ)

 目敏く校舎内の俺を見つけて、アピールするのも何もかもゼンブ。

(俺はテメエの飼い主じゃねーぞ)

 苦笑しながらの悪態は向こうまで届かないが、きっとあいつならわかってる。






『青に黄色』


 車屋さんに来た。相棒が欲しかったから。

 いろんな形、大きさ、色、目の車があって、ぼくがふと足を止めて眺めていると、車屋さんがそいつがどんなふうに走るのかとか、どんな長所があるのか教えてくれる。


 ぼくは小さな車がほしかった。

 どんな空の色にも合う、黄色い車だとなお良い。

 凄い機能がいっぱいあっても使いこなせる気がしないから、ごくシンプルを求めた。


「ね、ぼくとこの先、長く一緒にいて、色んな所に連れて行ってもいいよって思ってくれてる子がいたら教えて」


 車屋さんの隅、小さな黄色い車が遠慮気味にクラクションを鳴らした。

 うん。きみは間違いなくぼくの相棒だね。どうぞよろしく。






『知らぬ郷土料理』


 旅先にて、ふらりと出てきた青空市。

 味噌の香りに釣られて向かったテントには『だんご汁』の張り紙があった。

 郷土料理だろうか。甘いのかしょっぱいのか、想像に難い。


 遠巻きに客が持つ容器の中や湯気の立つ大鍋の中を盗み見ても、具だくさんの味噌汁にしか見えない。

 肌寒さと空腹と好奇心に負けて買ってみる。


 一言で言えば、平たい麺の入った豚汁だ。

 水面に薄く浮いた豚脂は甘く、それと合わさったためにこってりさを増した味噌が口内と腹を温める。

 『だんご』と呼ばれていたものは、練った小麦粉団子を手延べにしたものらしいく、道理で腹持ちがいいわけだ。


 初めて食す郷土料理に、冬のささやかな幸福を覚える。






『ばあちゃんのおやつ』


 シンと静かな昼下がりの部屋とか、木枯らしに吹かれたときとか、家族の団欒が遠くに感じたときとかにふと、寂しさを覚えることがある。

 そういうときって大抵、お腹が減ってるもんなんだ、とばあちゃんは小麦粉を出しながら言っていた。


 ボウルに薄力粉とほんのちょっとの塩を入れ、固さを見ながらぬるま湯で捏ねた生地。

 最初は泥遊びみたいだけど、粉がひと塊になり、やがて表面がなめらかになってくると、命に触れているような奇妙な心地になるんだ。


 生地は小さく千切って、指の太さくらいの棒状に形を整えてやり、濡れ布巾とラップで軽く覆う。こうやって半時ほど寝かせれば、よーく伸びてくれる。

 棒状の生地の両端を摘まみ、揺すりながら引っ張っぱったり、平たく長く伸していく。

 これを熱湯で湯がいたものに黄粉と砂糖を合わせたものをまぶせば、ばあちゃんのおやつのできあがり。


 かつて、私が寂しい思いをしていると、よく傍にいてくれたばあちゃん。

 ばあちゃんはもういないけど、彼女の味は今もちゃんと残ってる。






『相棒とお別れ』


 「君は間もなくこの世からいなくなるらしいよ」とは最後まで伝えられなかった。

 君には元より命も意思もないのはわかっていてもね。


 まだ、一緒にいられると思ったんだけどな。

 僕と別れても、どこかで誰かの足をするかもとも思ったのだけれど、それも無理なようだし。


 ああ、いけない。

 急な別れと思うべきではないね。

 この間、駆け足で彼岸へ旅立った祖母と君を重ねてしまうよ。


 もしかすると、君は今も預けられた先で、僕がまた迎えに来ると信じているのかもしれないね。

 ごめんな。君を置いて行ってごめん。


 僕の空色の車。

 次、君を迎えに来る人がいるならば、それはきっと僕の婆ちゃんだ。

 あちらで存分にドライブするといい。

 今まで、ありがとね。






『気付いたときにはいつだって遅いんだ』


 そういえば、写真を撮ったことがなかったなと、遠ざかる愛車を見て思った。


 擦った傷を塗料で上塗りしたり、絵で隠したり、ぶつけて外れたパーツを無理やりテープで留めたっけ。

 それを思うと、酷い運転手だったよなあ。


 空色の車体に最初に描き入れたのは白い鳥だった。

 その鳥の絵すら撮って残さなかったのは後悔しかない。


 遠ざかる愛車を慌てて写真で撮り、つくづく馬鹿だなあ自分と、ブレた画像を見て苦く笑う。

 明日にはもう、最後に見たあの場所からなくなってるんだろうな。

愛着 2025.11.07

幼なじみの犬属性 2025.11.22

青に黄色 2025.11.24

知らぬ郷土料理 2025.11.25

ばあちゃんのおやつ 2025.11.29

相棒とお別れ 2025.12.19

気付いたときにはいつだって遅いんだ 2025.12.19


これにて今年度最後の投稿となります。

2025年もたくさんの方に本作をご覧いただき、ただただ嬉しく、励まされる思いです。


ブックマークや一言からの感想(絵文字?)やコメント、☆など、本当に創作の気力になりますので、いただけましたら幸いです。

拙作ばかりではありますが、来年もどうぞよろしくお願いいたします。

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